No.210(2008年12月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
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発行日/毎月1日発行

岩沼亘理地区 10月例会報告

「思いやりの心と情報技術の融合」で地域に貢献する


(株)ティーティーシー 社長 阿部明雄氏

●全国展開の拡大路線型から

 わが社はコンピュータの業務ソフト開発、販売の仕事を行っています。今年10月から第8期目に入りました。
 私は元々メーカー系のコンピュータ販売会社で役員を務めておりましたが、2001年に系列グループ再編に伴って独立採算の方針に変わり、現在の(株)ティーティーシーを設立しました。当時39才だった私が社長に就任し、会社を預かる責任とともに将来に不安を抱えていました。@お客様である企業の多くが厳しい経営状況にあり、設備投資は縮小傾向にあったこと。また、安価で高性能な既製品ソフト(パッケージソフト)が普及し、開発ソフト市場はさらに縮小していくだろう現状。A社員たちと、そういう環境の中でどの方向に向かって何をしたら良いのか。そんな悩みからなかなか解放されずにいるときに同友会と出会い、2006年に第17期 『経営指針を創る会』 を受講しました。
 『創る会』 をきっかけに「うちの仕事は本当にお客様の役に立っているのか?」を社員と話し合いました。わが社の経営理念「夢をかなえるソフトウェア」、「思いやりと情報技術の融合」という言葉には、わが社に関わるみんなが「幸せ」「豊かさ」「生きがい」を感じられる会社にしていこうという、社員全員の思いが込められています。
 ところが私は、経営指針をつくったところで安心してしまったのですね。受講後すぐの第6期は、開発したシステムを全国展開するという目標を掲げて新規開拓に取り組んでいたのですが、結局は期待する成果を上げることができませんでした。更に私の右腕だった営業部長と技術者の社員の2人が退職し、そして私も体調を崩し入院してしまいました。
 このように苦しい状況が続きましたが、昨年に第7期を迎えるにあたり、みんなで議論しました。その結果、これまでの新規顧客拡大の方針から、いま実際に当社を信頼しお付き合い頂いている地元のお客様と向き合い関わっていくビジネスに大きく方針転換しました。今まで自分たちがやってきたこと、経営理念と社員みんなの思い、そして自分たちを支えてきてくれたお客様を原点として、残ったメンバーで再スタートを切ることにしました。

●「夢を叶えるソフトウェア」「思いやりと情報技術の融合」の実践

 具体的には、お客様の課題や問題に対し、創造力(イマジネーション)を駆使してコンピュータシステムの仕組みを設計・構築しお客様に喜んで頂くという仕事です。元々不可能と思われていたことでも頭の中で仕組みを考え出し、実現できる形にすることです。
 ここで大事なことは、お客様の痛みを自分の痛みとして感じることができる感性です。お客様の立場になって感じる思いやりの心があってこそ、使う人の立場にたった本当に実効性のある仕組みを構築し問題解決が可能になるのです。
 例えば蒲鉾製造業のお客様。原料の冷凍すり身は製造の前日に解凍するのですが、一度解凍するともう使えません。翌日の受注の予測が出来れば、すり身の無駄が無くなり、更にパートの手配も最小限で済みますから原価の削減につながります。それで、いかに翌日の受注予測をつかむかというのをお客さんと議論し合ったことがあります。スーパーの休日はもちろん、おでんが売れそうだなどのデータは前年同週のものよりも直近の数字の推移を追いかけていくのが一番の近似値だとか、こういうこともお客様との話し合いの中から分かるので、それをソフトに盛り込む。そして原価削減ができた分、利益として見えていく。こういった具体的なことを、知恵を出して形にしていくのが面白いわけです。うちの社員もこんなやり取りが面白いと感じてくれているのだと思います。
 いろいろな提案は私一人で考えることも、社員の意見を聞いて会社全体で考えることもあります。お客様の業務内容、開発したシステムの運用状況の全てを私が把握できているわけではありません。営業経験は私が一番長いので、こうしたらいいんじゃないかという経験値は私が一番あるかもしれませんが、いずれにしても私一人だけでは良い提案は生まれません。

●人育てと地域貢献―― わが社の方向性

 コンピュータ業界は下請けの構造で、中央の大手コンピュータ会社が地方に仕事を出すというのがほとんどでした。但し、最近は、情報漏えいの防止の為に中央の会社に出向して開発の仕事をするケースが増え、ソフト開発会社の実態が人材派遣業になっているところがかなり増えています。経営の経済性を見れば、そういう転換のしかたも発展と言えるのかもしれません。
 しかし、私はその道を選びたくなかったのです。同じ会社で、仲間の顔も知らないというケースもありますし、この業界には人との関わりをもてずに体や心の病を患う人、若い人の活躍に押されて苦しんでいる中年層の人が他業界と比べて多いようです。
 そもそも会社とは何なのだろうと考えるのです。決して楽ではありませんが、わが社の方向性に合わせてみても、社員と一緒になって地域のお客様に喜んでもらうということをどこまでもやっていこうと思います。
 中小企業は地元経済や社会が崩壊したら自分たちの会社にも影響します。だから私たちにできることは、地域貢献を大上段に構えて取り組むのではなく、自分たちの仕事が地域とどういう形で関わりがあるのかを見つけて、地域を元気にできることに取り組んでいくことです。わが社はソフトを売る企業ではなくて地域に根ざす会社です。いい加減なことはしない、きちんと仕事に責任を持つ、相手のことを考える。そういう安心感があって、小粒だけどキラリと光る会社をめざし続けます。「業務用ソフトだったらティーティーシーに頼みたい」と言っていただけるように。
 また、優秀な人材がみんな中央に行きたいわけではなく、できることならば地元に残りたいと考えている人もいます。わが社で去年4月に新卒採用した社員は、国家資格も持っている優秀な人材です。今年3月に全体会議をしたとき、彼が「仕事が面白い」と言ってくれました。彼のこの一年というのはつらいこともたくさんあったはずですが、どこかに面白さを感じてくれた。それは本当に嬉しいことですし、私自身も、この一年のような状況を二度とつくってはいけないと思いました。
 彼の採用に関しては同友会の共同求人活動で学ばせてもらいました。共同求人活動の取り組みをそのまま会社に持ち込んで、学校とのパイプをつくって彼を採用することができたことも付け加えておきます。

今月の内容

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