第5分科会
設営:地球環境部会
食料自給率201%のまちづくり
〜食、 環境、 自然エネルギーで循環型  地域づくりに挑戦する岩手県葛巻町〜
 

くずまき高原牧場 ((社)葛巻町畜産開発公社)
専務理事 鈴木重男氏 (岩手同友会)

ワインとミルクとクリーンエネルギーの町

 私どもの社団法人葛巻町畜産開発公社、 くずまき高原牧場は、 町の第三セクターの牧場です。 私は専務として8年目になります。 葛巻町は北緯40度、 ミルクとワインとクリーンエネルギーの町です。 世帯数約3千、 人口は8千3百人。 牛の数は乳牛が1万1千頭、 肉牛が4千頭、 合わせて1万5千頭、 人より牛の数が多い、 そんな酪農の町です。
  昭和50年代の中頃からワイン作りに挑戦しました。 町の平均気温は8.9度、 非常に冷涼な気候で、 冬はマイナス20度にもなり、 原料のぶどうは採れませんが、 ミルクとワインの町にしたいという夢だけでスタートしたワイナリーであります。 これも町の第三セクターで始めました。
  クリーンエネルギーは、 牧場の中に風力発電の機械が15基あります。 1基400KWhの発電能力のものが3基、 1750KWhの発電能力のものが12基あります。 合わせて15基の風力発電。 1750KWというのは世界最大級です。 高さが93m、 羽根が60mあります。 一般家庭の電気の消費量に換算して1万6千9百世帯分のクリーンな電気を生産する施設です。 町の葛巻中学校は太陽光発電で電気を賄っています。
  牛の糞と尿から電気を起こすバイオマス発電施設もあります。 牧場の中のメタンガス発電、 これは糞と尿が発電施設に入ってまいりまして、 固液分離、 固体と液体と分離して、 液体の部分だけ一週間発酵させます。 発酵させたメタンガスを一つの白いガスタンクに溜めて、 エネルギーにして電気を発電する施設です。
  もう一つが木を燃やして電気を起こす、 木質発電の施設。 これは間伐材をチップにして電気を発電するわけです。 木質発電は思いもまた違い、 是非にと取り組んだのです。 日本の鬱蒼とした山の木の、 間を抜いてやることによっていい間隔になって全部が育つ、 大木になり健全な山ができる。 その間伐材の80%を捨てています。 それを有効に活用できるし、 山村に雇用の場ができます。 土壌保全、 人間に必要な酸素の供給、 地球環境に大きなCO2、 温暖化問題などに多大な貢献をするわけです。 これは非常にいい施設で、 牧場のチーズ工場や牛乳工場、 宿泊施設に全部電気を供給しています。
  牧場は本来、 農家から子牛を2年預かって農家に返す。 帰ればすぐ子牛が生まれ、 農家は牛乳を絞る。 それが本業です。 昭和51年に牧場だけでスタートしたが採算が合わない。 採算が合う事業を構築しようと多角的な事業展開に取り組んだわけです。 まず、 肉牛に挑戦しました。 良い物が作れるようになり雇用が生まれました。 次は精肉屋、 次は焼肉レストランをと挑戦しながら、 宿泊施設、 ホテル、 レストラン、 乳製品加工、 アイスクリーム、 ヨーグルト、 チーズ、 パンを焼き、 牛乳乳製品の宅配をしたりと、 一つ一つ、 一歩先一歩先と伸ばしてきまして、 今のような牧場になったわけであります。 誰も来ない山のてっぺんの牧場が、 今、 牧場には30万人の方々がお越しいただくようになりました。 そして、 自分たちで生産した物は全て自分たちで直接販売しております。 自社で作った原料だけ製品にし、 加工する。 どこまでも責任を持ってそれを直接販売しております。

体験学習でつくり手の思いを伝える

 そんな中で、 最近は体験学習にも取り組んでおります。 牧場を教育の場にも開放したい。 牧場の仕事は突き詰めて考えれば国民の食糧を生産するということです。 どんな所でどんな人たちがどんな思いで食糧を作っているか、 食糧生産現場を正しく理解していただきたい。 牛乳は牛乳工場でできていると思っている子どもがたくさんいるんですね。 食糧生産現場から多くの国民は関心が無くなっている。 食料自給率は40%まで低下する。 食料自給率が40%まで下がっている先進国は日本だけです。 にも関わらず、 不安に思っている国民は一人もいない。 食の安全、 安心と一口で言うわけですが、 安全は比較的簡単に科学的な検査でわかる。 じゃあ安心というのは?安心はお互いの信頼関係からしか生まれてこないだろうと思います。 信頼関係を構築するためにも生産現場を子どもの時から体験する、 そう思って取り組んでいるわけであります。
  約2万人の子どもたちの体験学習引き受けております。 牛に餌をやったりミルクをやったり糞を取ったり、 アイスクリーム作り体験や、 椎茸採取の体験、 バター作り体験とかピザ作りとかも体験しています。 牧場ですから臭い、 汚いというわけです。 臭い、 汚い仕事を誰かがやってくれるから、 あなた方はスーパーやコンビニで100円や150円で乳製品を買えるのです。 食べ物を作るっていうのはきれいで楽しいことだけではないんです。 物を食べる時には作ってくれた人に感謝しましょう。 食べ物を粗末にしないようにしましょう。 小学生だって10年経てばみんな大人ですからそういう話を全員にしてやるわけです。
  それから、 牧場は命も育てるんですね。 子牛が生まれる、 大きくなる。 この命を育てる場面も見せます。 中学生にはきちっと教えていきます。 やがて大きくなって人間に必要な動物性蛋白として食糧になるんですと。 それを年3回4回の継続した体験学習に来る中学校もあります。 肉牛が大きくなる、 やがて屠場で屠殺解体をされ肉になる。 その肉になる現場も、 屠殺する部分は見せませんが、 半身に解体されて大きな冷蔵庫にぶら下がっている現実も見せる。 昨日まで自分らが餌を与えていたのが今日はこうなっている。 それがコンベアを流れてカットスライスされていく。 すると本当に、 肉を頂くことが命を頂くことだということがよくわかるわけであります。 大学生の体験学習も、 農水省の職員の研修も、 町役場の新採用職員の研修も毎年引き受けております。

真冬の学習体験ツアー

 また、 冬のスノーワンダーランドという2週間の体験学習。 20人が、 考えられる体験は全てやるという体験キャンプです。 牛に餌をやったりミルクをやったりという牛飼いは朝と晩毎日やります。 カンジキを履いて雪山を歩いたり、 スノーモービル、 スキー、 ソリ、 雪合戦があります。 極めつけは二泊、 二日掛かりでかまくらを作ります。 1月5日、 真冬のマイナス20度になる時にかまくらを作って、 そこに二泊する体験があります。 外はマイナス20度、 でも中は零度だという体験します。 また、 2週間の間に2食分くらいは自分らで食事を作るという体験もさせてやります。 火を燃やして自分らで食事を作るという体験。 このキャンプに参加した子どもはどんな場面に投げ出されても、 マイナス20度30度の時にはかまくらを作れば中は零度だということを思い出す。 それから薪を燃やして食事を作るという体験。 今、 どこの家庭だって、 山村でも薪を燃やしてご飯を炊いているというのはありませんから、 そういう体験が必要だと思います。 山村というのは限りない可能性がたくさんあります。

 

夢・構想を絵に描き、 実現する

 私の経営する牧場では、 「将来はああなりたいこうなりたい」 といろんな夢を持ちながら将来構想を絵にしています。 ここまでできた、 この部分はまだできていない、 牧場としてはエネルギーまで全て賄う地域完全循環型の食糧生産基地を作りたい、 そういう絵を描いているわけです。 絵を描いておくことによって、 いろんな人からいろんな知恵を頂いてきました。 自分としては知識もありませんし技術もありません。 でも夢だけは持っておりますから、 ああなりたいという夢をいつでも前に掲げる。 そうするとこの絵を見た方が、 エネルギーまで全て賄う地域完全循環型の食糧生産基地をやるんだったらこの先生に相談しなさい、 ここへ行って見てきなさい、 そんな知恵を授けてくれるわけです。 木質発電の木を燃やして電気が起きるという機械、 技術は日本にあるなどとは知りませんでした。 けれども夢を絵にしておくことによって、 いろんな人から知恵を頂き、 こういう風にやってみないか、 地球環境の改善にも大きな貢献ができるよ。 それは是非やりたい、 そんな風に思って取り組んだわけであります。
  将来はハンディを持った人たちとも仲良く暮らすような牧場にしたい。 今も施設から来た子どもや障害を持った子どもを何人か受け入れています。 百人に一人はそういう障害者と言われる人がいるわけですから、 その百人に一人の子とも仲良くするような牧場にしていきたいと思っているのです。
  職員はいつでも全国どこにでも勉強に出します。 いろんな所を見てこい、 美味しい物があったら買ってこいと言っています。 数日前にヨーロッパから帰ってきた職員も3人おりますが、 ヨーロッパにも毎年出しております。 国内海外問わず行きたい所にはいつでも出しています。 いろんな情報を集め、 あれもやりたいこれもやりたいという議論を皆でしていくわけです。 月に1回全職員で食事を一緒にする月例食事会をやっています。 同じ釜の飯を食うとか、 寝食を共にするというのは特別な親近感があるものです。 百人の職員中70人前後が集まり、 将来の夢を皆で話しながら、 共有しながらそれに向かって走る、 ということをやっています。
  「わが町には温泉もない、 ゴルフ場もスキー場も鉄道も高速道路もない」 と言うことはやめました。 ワインもミルクも牛もあって、 食料自給率は201%、 クリーンエネルギーで21世紀こそわが葛巻の時代です。




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