第9期同友会大学より
 第9期同友会大学は65名の受講生を迎えて、 8月30日から毎週1回、 県立宮城大学を会場に行われ、 12月13日の総括講義で15回の講座を終えました。 今回は p2〜p4に 〔単元T:経済と中小企業〕 から10月3日に行われた立教大学の廣江彰教授の講義要旨を、 p5に 〔単元V:人間と教育〕 から受講生のレポートの一部を紹介します。

単元T:経済と中小企業−第5講  
起業家精神を育む 『働く』 ことの教育実践
〜 「自立」 するための道具立て 〜
 

立教大学ビジネスデザイン研究科  教授 廣江  彰氏

考える人づくりとは

 研究者も実際に中小企業で働く人たちと一緒に汗を流すということが大切だと考え、 私も自らさまざまな運動の中に飛び込んできましたが、 今日は教員としてお話しします。
  教員として私が立教大学で行ったことの中では、 起業家教育の手法を借り、 学生たちが事業を構築する力をつけさせようと、 1998年から始めた 「会社をつくる」 という講座があります。 また、 その経験を基盤に、 2002年からは社会人経験が2年以上なければ受験できないビジネスデザイン研究科といういわゆる MBA コースも立ち上げました。 この研究科に集まる学生は平均年齢34〜35歳ぐらいの社会人たちですが、 彼らはちょうど 「自分はこれからもこの会社にいていいのか?」 と疑問に思い始めるのと同時に、 「企業での社員の自立が結果的として企業を成長させる」 と実感してくる頃でもあります。 企業組織という大きな壁を乗り越えて自分を成長させるには、 社会人にとって大学に戻り勉強することが必要になってきます。 私たちが社会人大学院を新たに設立したのはそのような社会人の要求に応えるためだったのですが、 またそのためにはスペシャリストの養成ではなく、 より広く企業や社会の全体を見渡せるゼネラリストをつくることに主眼を置いたプログラムづくりを行いました。
  実はこのゼネラリストこそ、 中小企業にとって大切な人材だといえます。 刻々と変化する経済状況・社会状況を的確に捉えながら自分の会社にとって正しい選択を行っていくことは中小企業経営者に不可欠な資質ですが、 そのためには経済と企業、 事業の全体状況を把握し、 経営戦略の総体を構想できるゼネラリストとしての素養とセンスとが必要になるからです。 日本経済が右肩上がりに成長してきた時代は、 経営者として社員のやる気を引き出せる能力が重要視されましたが、 そういった社員を引っ張るタイプの、 あるいは創業者型のモチベーターとしてではなく、 これからの経営者は激しい経営環境の変化を読んで事業を再編成するとともに、 目標に向け社員の意思を集約できる能力が求められます。 そのような経営者の能力をアーキテクトと呼びますが、 ゼネラリストとして絶えず全体を見渡し、 意思決定の出来る能力を育ててこそアーキテクトとしての経営者が中小企業に生まれるのだということです。
  そのような中小企業経営者は、 経営理念を示して社員の意向を集約し、 事業を成功に導くことができます。 しかし、 実際には経営理念や自らの経験を客観的な情報として伝えられない経営者が多いのも事実です。 社員に対しこれが正しい道だという論理的な説得力を持たなければ、 社員は動かないだろうと思います。 だからこそ、 経営理念や経営者の想いを明示的に示せる勉強をしよう、 というのがまさに今私たちが大学院で取り組んでいることであり、 そのための道具立てが現在の企業経営にとっても重要だと思うのです。
  アーキテクトとしての経営者は、 社員や会社の利害関係者が納得できる事業計画を構築するために、 「経営理念」 に絶えず立ち返る必要があります。 なぜなら、 それが企業経営の原点だからです。 しかも、 経営者や幹部には 「経営理念」 をできるだけ具体的に示す能力が必要です。

自分を成長させる源泉

  『就職迷子の若者たち』 (集英社新書) の著者小島貴子さんは、 元埼玉県職員として主に50代の再就職斡旋を行う過程で、 彼ら自身に自分の真の能力を見つけさせ、 きちんと再就職させたという手腕で有名になった方ですが、 現在は立教大学にコープコーディネーターとして勤務していただいています。 この著書で 「仕事は外的報酬である収入と内的報酬である達成感のバランスが大切だ」 と小島さんは書いていますが、 このバランスによって仕事を通じての新しい自分、 新しい価値観が育ち、 もっと自分を成長させたいという仕事のおもしろさや人生の展望を感じるのだと指摘しています。 実はこのこと、 同友会がいう 「共育」 の考えと非常に共通するものがあるのではないでしょうか。
  私もこのバランスが大事だと考えますが、 私は 「内的報酬」、 つまり自分にとっての 「動機づけ」 がもっとも今の時代には大切だと考えています。 つまり、 働くことを与えられるものとしてではなく、 自ら動機づけられることが大切で、 そのことが職場を変えていく力にもなると思っています。 このような 「内的報酬」 の力をどう育てるかは、 むしろ日本社会や大学にとっての大きな課題であり、 そのことはまた 「自立した個」 として自分を成長させる源泉を創るという、 大学教員として私がこれまで行ってきたことにつながります。

自信が成果につながる

 私は立教大学で初めてインターンシップに取り組みましたが、 当初は1ヶ月間という 「長期」 で有給を条件に始めました。 インターンシップ先では学生が自分の賃金交渉を行う、 というようにもしましたが、 「自立した個」 として自分の能力を評価し、 組織に対して一定の対価を要求することは、 実は企業や社会に役立つ新しい価値を創ることのできる人間育てにもつながります。 有給であるのは、 単なる会社見学ではなく、 働く喜びと苦労を緊張感を持って体感して欲しいという私の要望でもあったのですが、 企業にとっても学生という 「お客」 を教育するという視点ではなく、 彼らに生産性を発揮させる真剣さが呼び起こされる動機にもなりました。 実際にかなりの効果がありました。 受け入れた経営者からは、 「社員研修に半年間という期間をかけたが、 インターンの学生がその同じ仕事を1ヶ月でやった。 自分の社員に対する信頼度が低かったと気づかされた」 という感想も寄せられ、 社員教育のあり方を抜本的に考え直したという例もありました。
  「即戦力」 といわれる時代ですが、 「今」 役に立つ人間は 「明日」 は役に立たなくなってしまうかもしれません。 本当は10年先20年先でも役立つ人間が必要で、 そうした人材をどうつくっていくかが大切なのです。 最初にお話したように、 私が起業家教育を始めたのは、 起業家を目指すという仮想の下で必要な能力が育つようトレーニングすることで 「自立した個」 としての能力を持った人間が育ち、 その中からさらに社会が求める起業家が生まれる、 と考えたからです。 また、 この起業家教育はそれまで学生が受けてきた教育をいったん壊して再構築することでもありました。 というのは、 大学生は高校まではいわば 「一品料理」 を与えられていたのですが、 大学に入るとそれが自分で選ぶ 「バイキング料理」 に替わります。 それですら学生たちは戸惑うのですが、 私はさらに学生に向かって 「自分で料理を考え、 必要な食材を自ら購入し、 それがなぜ必要であるかを説明せよ」 を求めました。 それが私の起業家教育であり、 「自立した個」 にとって不可欠な要素だからです。
  私のゼミでは2年生がアイデア (ガムのポイ捨て防止用グッズ) を商品化しました。 ついでに特許申請も行ったのですが、 それは立教大学の正課授業で初めてのこととなりました。 学生にとっては、 自分たちが描いたことを具体的な商品にする、 それが社会にとって意味を持つようにする上でさまざまな問題を克服する必要がありました。 企業との交渉や交渉過程での議事録作成、 企業との契約行為、 さらには大学との交渉など、 いくつもの関門をくぐってようやく成果にたどり着けます。 このことは、 まさしく実社会で必要なプロセスと同じです。 20代前半の学生でも、 きちんとトレーニングすればしっかり企業と渡り合い、 プレスリリースも行い、 自信を持って自分たちの成果の価値を人に説明できます。 これも一種の起業教育ですが、 学生たちは成果を出すには基礎的な力や発見と解決の力が必要だということに気付きます。 そこから大学での学習が新たな次元で動機付けられるわけです。 このことは、 実は中小企業経営者が社員に求めることと根っ子で同じです。

客観的事実から戦略と戦術を描く人間になる

 大手企業と違い、 中小企業は社員全員に頑張ってもらう必要があります。 だから 「育てる・伸ばす」 に日常業務を通じて取り組んでいくことが大事です。 大学では私も何人かの職員を部下に持っていますが、 彼らが業務を進めていく上で特に力を入れたい領域については、 企画立案した上で、 必要な人を呼んで徹底的に勉強させています。 与えられたミッション (使命) を120%の力で取り組めるようにしたければ、 自ら努力すれば必要なことが次第に見えてくるからです。 また、 それは自主的な選択である必要があります。
  たとえば職員の業務である正確な文章作成には、 論理的に考える能力が前提として不可欠です。 その能力は、 いつでも 「なぜ?」 に答えられる力と同じです。 みなさんの会社の社員は、 社長に 「どうしてそうしたのか」 と問われた時、 「私はこういう理由でそのように考えました」 と的確に答えられるでしょうか?実は立教の社会人大学院生も、 「なぜ?」 に答えるのが苦手です。 会社でも大学でも、 事実に基づき論理を組立て、 人に説明できる、 論議して検証する、 ということにもっと力を入れるべきです。 社員が 「自立した個」 として会社に貢献し、 自らも満足を得られるようになるには、 その繰り返しが必要なのです。
  小島貴子さんが 「クリエイトできるような人」 といっていますが、 それは客観的な事実から戦略と戦術を 「クリエイト」 するということです。 しかも、 それは実に簡単なことです。 というのも、 何が問題かが分かれば簡単に解は見つかるからです。 客観的事実が何であるか、 それを発見し、 現実を変える方法を構想し、 さらには人に伝え、 ともに実践して結果を検証するということの繰り返しです。 その繰り返しから、 社会にもまた会社にも必要な戦略と戦術とを描けます。 それこそ、 みなさんが会社で行うべきことだと思います。
  創業経営者の想いが次世代に引き継がれ、 新しい社会環境や組織構造の中で新たなチャレンジが行われる。 同時に、 皆さんには学生や若者たちに中小企業の魅力を伝え、 誇りのある仕事を一緒にやっていこうと語れる人であっていただきたいと思います。




■第9期同友会大学より

 

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