No.214(2009年4月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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E-mail miyagi@m-doyu.gr.jp
【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

 

『“ふるさと讃菓”で地域の発展に貢献』
〜地域づくりと事業の発展をひとつながりのものとしての実践〜


報告者:(有)もちっ小屋 でん 社長 狩野千萬男氏

【地域の文化を守る】

 現在わが国では、農業と商業と工業が一緒になった取り組み(農商工連携)で地域活性化が進められています。栗原市は県内有数の米どころです。その中でも、自社で生産から販売まで一貫して取り組んでいるのが、(有)もちっ小屋 でんの狩野社長。いわゆる1次産業×2次産業×3次産業=6次産業。地域が疲弊する中で、ここで培われた「もち文化」を地域や次世代に伝えながら自社の事業を進めています。

【4つの誓い】

 栗原市一迫の役場に勤務時、定年まであと 3年を残して退職し、個人経営であった店を法人化。その後、2004年同友会に入会、同時に 『第16期経営指針を創る会』 を受講しています。10年間体力任せで夢中で走り70歳を目前にしたとき、今後の会社の方向性、自分の考え方をしっかり持たないと「自分」も「もち文化」もこのままで終わってしまうという危機感をもっていました。
 経営理念づくりの過程で、伊達藩政時代からの「百姓と米づくり」の歴史を辿り、もち文化は農民の豊かな知恵から生まれたかけがえのないご馳走であることをつき止めます。そこから「私たちは、ふるさと讃菓を、地域の幸、誇りの味で提供します」という経営理念が誕生します。この「もち」が持つ文化を伝え、地域の米を加工することで付加価値を生み出し、さらに米の偉大さに気づいてもらい、食料自給率を向上させ、農業の振興を目指していること。独自性のある“ものづくり”を栗原から全国へ発信し、そして地域に根ざす中小企業が、この地域で生きるためにもいい経営環境をつくろう、と 4 つの想いを誓いました。
 「創る会では、『三方良し』 という考え方が私の原点になっています。そのためには、同友会の3つの目的でもある、いい会社をつくる、いい経営者になる、いい経営環境をつくる、ことですべてがうまくいくということを教わりました。この考えが私のエネルギーにもなっています。」と狩野社長は語ります。

経営理念
1、わたしたちは、ふるさと讃菓を、地域の幸、誇りの味で提供します。
1、わたしたちは、ほっとする幸せづくりに、貢献します。
1、わたしたちは、毎日が創意、培った技で、未来(あした)を目指します。

【経営理念の実践】

 自社にとって理念に基づいた経営をするうえで、基本的な問題は農業の全次産業化です。お米をお米として売るのではなく、加工して売ることが基本です。次に地域に伝わる文化を大切にすること。栗原では「エビ餅」というものがあります。川エビ・沼エビです。栗原独自の文化ですが、それを大切にしていくことが自社の経営につながっていきます。最後に、地域の人たちに愛されるものを作ることです。
 その中で生まれた取り組みが、一迫商業高校とのデュアルシステム(生徒たちが学校で学びながら地域の企業で職業教育を受けるシステム)です。(デュアルシステムは、地域の企業と連携し新商品の開発を行う「企業家研究」、年間30日程度の「企業実習」、空き店舗を利用してチャレンジショップを運営する「販売実習」の3本柱で地域に密着した活動を行います。)一迫商業高校からデュアルシステムの受け入れを依頼され、自社の理念を説明しこの仕事内容でよければとデュアルシステム運営委員会に理解してもらい、「地域貢献」のひとつとして、3年間で27名の実習生を受け入れました。
 「今の時代、地域の企業と地元の生徒が関わる地域教育というのは、とても大切だと考え実習を受け入れてきました。生徒たちは短期間でプロになれるわけではないし、もちろん完全な商品化までには至りません。そこで、一番大事なのは完成に至るまでのプロセスであると思っています。ものの見方や考え方というプロセスを大事に捉え、子供たちの生きる力を養うことに重点を置き実習を行ってきました。」と狩野社長は語ります。
 生徒の企業実習が終わったあとも、社内で試行錯誤を重ねて生まれた夢は、1年目は「米ていら」【商標登録】(第10回みやぎものづくり大賞グランプリ受賞)、2年目は「夢・持ッちーず」【商標登録】3年目は「みやぎの幸・福米包み」【商標登録】(ギョウザ風の惣菜)というお菓子・お惣菜となって毎年表現(商品化)されていきました。

【企業づくり=人づくり=地域づくり】

 「会社としても、生徒たちの受け入れ体制をつくる必要があり、また生徒たちの夢をどう形にしていくかという計画も必要でした。社員であるおばあちゃんたちも、ケーキのつくり方を熱心に勉強したり、限られた材料と設備の中で最大限の工夫をしたりと、自分たちの仕事を理解してもらうために切磋琢磨をし、会社にとってもよい影響をもたらしました。生徒と接することで自分たちの仕事が地域密着していくという責任、生徒たちの夢に関わる仕事をしているという使命感、働くことの楽しさを世代を超えて共有する喜び。デュアルシステムが終わったあとに、『お菓子の職人になりたい』 という夢を持ってくれた生徒や、将来の夢をかなえるために進学を決め、そのための努力を“楽しんでいる”生徒が生まれています。
 そして、自社の会社の知名度も上がりましたが、それと同時に大切なことは、一迫商業高校の生徒たちの評価が上がったことです。地方の高校の志望倍率が減少するなかで、一迫商業高校に行ってデュアルシステムを体験したいという中学生が増えています。」
 昨年度で3年間の取り組みは終わりましたが、デュアルシステムの推進を図っていくことで、一迫商業高校と地域の中小企業家との流れができてきています。今後もデュアルシステムを続け、一人でも多くの若者が地元で夢を実現できるように働く場を提供していきたいというのが狩野社長の夢でもあります。

【栗原市の現状・・・】

 「『人が動けば、ものが動く』 といいますが、高齢化社会というのはお金が回らない社会です。将来の不安に備えて高齢者は皆貯金をします。少子高齢化、過疎化、限界集落、さらに追い打ちをかけたのが6月14日の大地震です。それから切実な問題は行政のスリム化です。栗原市は10町村の合併でしたが、本庁舎のあるところ以外は、商店街も飲食店も閑古鳥です。良いところはあるのですが、人が少なくなるというのが地域の現状です。
 栗原市は今6.14震災で、夜明け前の暗闇の中にいます。栗駒山の山・川・道路が崩壊し、完全復旧までは数年を要するなどで交流人口がストップ。被災者は自宅を離れて仮設住宅住まいの中で 『がんばっぺ』 と声を掛け合いながら、明るい朝を迎える努力をしています。『地域と共に歩む中小企業家同友会』 は、この現状をしっかりと受け止めなければならないのですが、まだそこまで至っていません。
 自社としても、食について考えた時、食料供給の安定化などは地球規模の問題でもあり、非常に根の深い問題となっています。」

【「私と栗原」or「栗原と私」】

 「今、地域の現状と問題点を考えるときに、『私と栗原』 と捉えるのか 『栗原と私』 と捉えるのかでは大きく視点が違ってきます。とても考えさせられました。『私と栗原』 と考えた場合、『自社の商圏は?』 と考えると、どうしても都市圏に出て行かなければならないのではと、地元に対する不平不満しか生まれなくなります。『地域に生かされている』 という視点で、『栗原と私』 と考えた場合、会社は栗原にある。社員も栗原の人、やはり栗原が活性化すると自社も良くなる。その考えから生まれた 『商圏』 は地方でも都市でも海外でもいいのです。やはり原点は 『栗原と私』 という考え方をしなければならない、ということが私の答えでした。
 私の4つの誓いの中で、同友会の仲間と共にこの地域社会の中で、いかにお金を回し、良い人材や働く場を創出するのかと考えたときに、栗原を 『豊かな地域』 につくり上げる必要があるということです。栗原登米支部では、栗原のグランドデザインを構築するため 『栗原地域の未来を語る会』 を立ち上げました。(『栗原地域の未来を語る会』 の詳細は次号で報告致します。)栗原はそれぞれの業界において頑張っている企業はたくさんいます。でもみんな“点”での活動です。商圏は外へ、というのがリーディングカンパニーの考えですので、これを繋ぎ、“線”そして“面”へ構築していくのがグランドデザインです。地域の衰退をわれわれ中小企業家が不平不満ばかり言っても仕方がない。まず、自分たちに何ができるのか?を考えることが大切なのです。」

【地域の宝とは?】

 「私の考え方の原点ですが、例えるとコップの中に 『水しかない』 とみるか、『水がある』 と見るかです。一迫には米しかないと見るか、米があると見るかです。ものの見方、考え方を逆転して考えるということです。
 私は将来、栗原にある中小企業がすべて同友会に入会し、経営指針を成文化する、そういう地域をつくりたいと考えています。物事の正しい考え方や本質を捉えられる仲間が一人でも多くなることが栗原の明日を照らします。地域問題の根本は人づくりなのです。地域活性化とは、まさにグランドデザインを考えて、地域をどうするか考えることであり、自分の将来像を描き続けることです。」

[ 速   報 ]
 去る3月13日(金)、この報告でも紹介された一迫商業高校によるデュアルシステムの取り組みが、本年度、宮城県にて創設されました「富県宮城グランプリ」の「特別賞」を受賞いたしました。地域の産業界と地元の高校の連携による、地域ならではの新たな学びの場の創造と、地域の新たな魅力の発掘と発信の成果、地域貢献度が高く評価されたものです。「特別賞」受賞、本当におめでとうございます!!

今月の内容

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