No.212(2009年3月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

気仙沼本吉支部新春例会

「これからの企業存続の条件とは」
〜理念経営とその実践から得られるもの〜


滋賀建機(株) 代表取締役会長 蔭山 孝夫氏
(滋賀同友会代表理事)

私と同友会

 1971年の創業当時は建設ブームで、良くも悪くも背水の陣で「会社は自分のもの」「自分の家族と生活のため」というオーナー経営を20数年続けてきました。今はありませんが、当時は取引先の倒産などがあると必ず暴力団が出てきて、私たちが提供した機械を差し押さえるため、組事務所に取り返しに乗り込んでいったようなことも多々ありました。
 業界の中での付き合いしかなく、いわば「お山の大将」で勉強らしい勉強もしていませんでしたが、ちょうど11年前に知り合いの紹介で同友会に入会しました。よく分からないままグループ討論に入って、いろんな方々のお話を聞いて、「何だか今までとは雰囲気の違う会だな」というのが第一印象でした。
 その後「役員研修に参加してください」と言われ、赤石会長(当時)のお話を伺ったのですが、とても難しく、著書を読んでもなかなか理解できませんでした。しかし、無理矢理読み進めていくうちに、経営の真髄のようなものを感じて、それから同友会の活動に没頭していきました。
 熱心に参加しているうちに理事になり、その後は副代表理事になり、その一年後にはいつの間にか代表理事ということでトントン拍子の出世をさせていただき、9年目を迎えます。同友会は代表理事になると簡単には辞めさせてもらえません(笑)。企業経営と同様に、きちんと後継者を育てていかなければならないので、現在はそちらも取り組んでいます。
 今振り返ると、「同友会に入って本当に良かったな」と思います。入会前は、「とにかく利益を出さないといけない」と行き当たりばったりの経営を続けていて、「経営指針」というバックボーンはありませんでした。会社というのは一人ひとり違う人間の集まりですから、そんなに簡単にガラリとは変わりませんが、「変えなくてはいけない」と実践を続けてきました。

滋賀県経済の今

 現在、滋賀県の派遣労働者数およびリストラ数は全国ワースト2になっております。すでに 2,600名近くの派遣労働者が解雇されています。
 滋賀県は、大企業の工場集積地で、昨年7月までは大変順調だったのですが、この不況が完全に裏目に出ました。県内には現在ブラジル人だけで1万4000人いて、その専門学校が4校ありますが、すでに「学費が払えない」という理由で1600名の子どもたちが通学していないという状況にあります。
 先日の知事との懇談でも、知事の口から初めて「この政策は失敗だったんだな」という言葉を聞きました。昨年の春の懇談では、知事もまだ「大企業を誘致すれば雇用が増え、税収も増える」という考え方を持っていました。滋賀同友会も大企業の下請けをしている仲間が多いので、「それもいいことなのかな」と私も思っていましたが、この状況になり知事自ら「地元の中小企業がいかに大事であるか」について話し、私も「全くその通りだ」と思いました。同友会でも特に製造業の仲間は、「売上5割〜7割減」というところも多く「明日どうなるか分からない」という状況です。

経営指針の重要性

 滋賀同友会では私が入会する少し前から、「まず経営指針を同友会でつくろう」という運動を展開してきました。現在 27 期を迎え、「同友会に入ったら、まずは会社の羅針盤である経営指針をつくろう」というのが滋賀同友会の合言葉です。私も10年前に受講し、大きな学びとともに事業後継への安堵感を得ることができました。自分の想いを思い切り込めて70ページに及ぶ経営指針書をつくりましたが、「これでは自己満足で何にもならない」と思い、翌年からは「社員と一緒につくろう」と、テーブルに模造紙を広げて、みんなで意見を出し合いながらつくっていきました。
 しかしながら、これを浸透させていくのが難しいわけで、毎年見直しをかけながら進めています。同友会理念にある「連帯」ということも意識し、現在ではグループ会社毎と事業部毎にその年の売上利益目標と戦略を練り上げて、代表者が発表し、その代表者全員で撮った写真を経営指針書に添付しています。また、それを大きくして会社にも貼り付けています。さらに、月例会議ではその進捗状況をチェックしています。ノルマを課すことはやめ、いかにみんなで意識を持って取り組むかを重視しています。以前は、売上を上げた社員個人にお金を出していましたが、こういうやり方は必ず不満が出ます。今は、頑張った部署全体に金一封を差し上げて、忘年会やレクリェーションの費用などに使っていただいております。

自らの実践の継続

 30数年経営者をやってきて思うのは、社員は経営者の後ろ姿をよく見ているということです。よく「企業は経営者の器以上に大きくならない」と言われます。人に任せることができる太っ腹が大切です。
 11年間一日も欠かさず毎朝「おはようメール」というものを全社員に送っています。私もなかなかグループ各社や部署に顔を出すことができませんので、「どういう想いで経営しているか」「どのような行動をしていたか」について必ず伝えることが大切だと思います。自分の本音を継続して社員にぶつけてきた結果、最近は何人かの社員から返事をいただくようになりました。経営者が見えない部分についていろいろ気づかされます。
 日常の仕事の中に「社員が考え、学べる場」をつくっていくことも経営者の大切な役割です。有志の社員40名くらいで月一回「早朝研修」と称して、社員が自分の好きなことについて1ヶ月勉強して、1時間講師をするという取り組みも6年間一回の休みもなく続けています。最初は「嫌だ」と逃げていた社員も、必ず順番が回ってきまして、現在では82回を数えます。自分で本を買ってきて、レジュメもつくって予行練習をして発表をしますから、ものすごい力になります。「結婚式のスピーチが上手くなった」「同窓会で司会が上手にできた」という話も聞きます。また、「文化的な学びを」と、歴史作家を招いて滋賀県の戦国武将などについて話していただいています。
 当社では数多くの事業を展開しています。私は未だに建設機械の運転も修理もできませんが、だからこそ「任せること」ができて今があると思います。数多くの事業を手がけているので「軸がブレているのでは?」と言われることもありますが、私はすべての事業が副業でなく基幹事業であり本業だと思っています。そこに働く方々に対しても敬意を表し「あれは副業です」というようなことは一切言いません。私は「セル経営」と呼んでいますが、こうした横の繋がりで売上があがったり情報が入ってきたり、強化を考えている事業部に社員をシフトすることもできるといった良い点が多くあります。

補足報告から

 M&A などによって新規事業を手がけることになると、私は最初に「あなたたちの職を守ります」と常に言ってきました。アミューズメント事業に取り組むことになった時に、身障者の方が働いていて、「ここをクビになったら私は働くところがない」と大変心配していましたが、今では店長としてゲームセンターの部署をお任せして大活躍していただいております。
 経理に関しては以前は私が把握していました。「社長」と呼ばれると、大抵「今月お金が足りません」という内容で、小声で耳打ちするわけです。そういうことに対して社員はとても敏感ですから、「おい、何だか会社危ないんじゃないか?」(笑)という噂が流れておりました。「これはマズい」と思い、グループ各社の経理担当者と分社社長と営業部長が月一回集まって「経理担当者会議」を開催しています。プロジェクターで各社の資金を全て映し出して「3ヶ月先行資金管理」に取り組んでいます。先日も「わが社の売上と回収が2割ダウンの8割になった時、今の支払いでどうなるか?どこに問題があるか?」という宿題を出して、考えてもらっているところです。
 当社は今までに業務上の事故で若い社員を2名亡くしています。この時だけは私は経営者を辞めようと思いました。今も私は年三回のお墓参りを欠かさず行っています。一生かかってもこの責任から逃れられることはできません。そのうちの1名の方の実家へ毎日通い、頭を下げ続けました。そうしたら、その亡くなった社員のお父さんが「息子ができなかったことを俺がやる」と2年後に当社に就職してくれました。現在82歳ですが、今も当社の顧問としてご協力いただいております。「何があっても言い訳をしたり他人のせいにしたりしないこと」「絶対に逃げないこと」「真正面から納得するまでトコトンやり続けること」を生きた教訓として学びました。ご静聴ありがとうございました。

今月の内容

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