No.212(2009年2月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
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発行日/毎月1日発行

第5分科会

経営危機から掴んだ展望
〜自社・業界・地域の再構築への挑戦〜


(株)タケウチ 会長 竹内昭八氏(静岡同友会)

はじめに

 私は1933(昭和8)年生まれで、小学6年で敗戦を迎え、1952年、地元高校を卒業しました。貧乏と不勉強で大学へは行けず、卒業後は築地市場で鶏卵販売の仕事に就き、1954年から今の商売に携わっています。
 戦後の混乱から高度経済成長、列島改造からバブル経済、そしてバブル崩壊から世界金融危機の現在まで、たいへん価値観の変化の激しい中を生きてきました。1929年の世界大恐慌は未経験ですから、波はあれども何とか右肩上がりの時代に生きてきたわけで、今のような下り坂は未経験の年代です。
 当社は、「富士宮市」という12万都市で父親が創業して70数年になります。主婦が家庭内で消費する「洗剤」「歯ブラシ」「シャンプー」「トイレットペーパー」「線香」「ろうそく」など8千〜1万種類くらいの商品を地域小売店に卸している卸問屋です。創業は1931年で、1968年に法人化して現在に至ります。

激変消滅の時代の中での経営危機

 1990年の日米構造協議以降、国内の小売業は、急激な規制緩和と経済のグローバル化とともに吸収合併を繰り返して大型化してきました。まさに「激変消滅の時代」です。1999年8月には「産業再生法」が成立し、「中小企業基本法」が改正されます。しかし、「産業再生法」「中小企業基本法」は、大企業の発展を中心に据えて、その範囲の中で政策が策定されるという図式でした。
 2000年には、大店法が廃止され「まちづくり三法」の一つである「大型店立地法」が成立します。「周辺の中小企業の事業活動の機会の適正な確保」が出店の審査内容だった従来から、事実上地域小売店を無視した形で全国どこでも出店自由となり、果てしない競争社会へ突入していきました。
 1989年、全国化粧品日用品卸連合会の会員数は1,540社ありました。それが平成11年には936社、今年の8月で409社と、平成になって10年で500社ずつ、約70%が吸収合併や倒産によって名前が消えました。一方、その町の歴史とそこに住む人々がつくってきた生活基盤であり、地域の社会資本としての役割を果たしてきた中心市街地は、シャッター通りと化してしまいました。そのあげく稼ぐだけ稼ぎ、小売店が衰退しきった頃に「店舗効率悪化のため撤退」では地域社会は大変です。富士宮市の駅前に1981年にオープンした長崎屋は、2002年に閉店しましたが、その7階建てのビルは無惨な姿を5年もさらしていました。昨年やっと取り壊されましたが、周辺のインフラ整備のコストや、素晴らしい富士山の景観を壊した責任は誰が取るのでしょうか?
 大手は土地さえあれば自由に出店しますから、隣にコンビニができ、すぐ近くに大型店ができ、地域小売店はバタバタと倒れ、売上を落としていきました。当社も1年に4件の倒産を経験しました。「明日からこの商品はいらないよ」の一言で、年間2000万の取引がゼロになるようなことも日常茶飯事でした。当社の売上は10年前にくらべると30%のスケールダウンをしています。
 さらに、当社の卸価格より大型店のチラシ価格のほうが安いということで、大型店で買ってきて店頭に並べる小売店も出てくるという笑えない深刻な状況も生まれました。社員とともに描いてきた経営計画を何回反故にしたか分かりません。経営存続の危機を孕んでいました。

世界の流れから自社の経営環境を認識する

 このような状況の中で、2003年に中同協は福岡の全国総会で「中小企業憲章運動」を提起しました。その翌年、季刊「中小企業問題」に特集された神奈川大学の大林弘道教授の解説記事を読んで、私は初めて EU 小企業憲章を知り、「小企業はヨーロッパ経済の背骨である」の前文で始まる「Think Small First」の言葉に大変な衝撃を受けました。2000年に採択されたこの憲章では、「小企業が最優先の政策課題に据えられて、はじめて新しい経済の到来を告げようとしているヨーロッパの努力は実を結ぶだろう」と大企業主導ではなく小企業を発展させることが21世紀のヨーロッパ経済だと高らかに宣言されていたのです。
 ところが、同年に日本では、大型店優先の「大型店立地法」が成立します。「この政策の違いは何なのか?その憲章の中に将来への展望を見出せるのではないか?」と思い、私は EU 小企業憲章を学ぶことにしました。
 1990年以降、欧米の各都市では、環境問題やまちづくりへの市民の関心を背景に、「拡大主義的な都市の成長は許されない」と大型店立地を厳しく規制していました。90年代には大不況の中でフィンランドなどは見事に復活していくのですが、OECD(経済協力開発機構)はその要因を調べ、「ある年の中小企業の伸び率が大企業を上回ると、翌年の経済成長が保証される」と言う結論を導いたのです。
 アメリカのクリントン大統領は、「中小企業の力が顕在化されるなら安全保障も確保される」と、中小企業庁を省に格上げして政策を進めた結果、とりわけ女性経営者の小企業が膨大に増加した流れがあることも知りました。こうした中で、当社を取り巻く経営環境は、競争至上主義とグローバルスタンダードの潮流の中にあることを理解しました。規制緩和一辺倒で、地域の中小小売店の消滅を放置し、巨大流通資本の有無を言わせぬ進出を「消費者の利益」としてきた大企業偏重政策、商店街をシャッター通りにして「時代の流れ」だと信じ込ませてきた新自由主義を信奉する経済学者とマスコミではなかったかと改めて思いました。

地域に芽生え、根を下ろして生きる植物=中小企業

 1997年にノーベル経済学賞を受賞したインドのアマルティア・セン氏は著書『合理的な愚か者』 の中で、経済行動における倫理の重要性を強調しました。また、チェコの童話作家であるカレル・チャペックは、「ヨーロッパは何千年も時間を無駄にしてきました。そこにヨーロッパの無限の豊かさと生産性があります。人生の完全な評価のためには一定の怠慢が必要です」と語っています。虎視眈々と奪い去る機会を狙う競争社会より、相互に分配することを重視する社会の方が、「心豊かな社会」と言えます。
 EU 小企業憲章には「小企業はビジネスアイディアを育てる大地」とあります。敗戦から企業を立ち上げ、高度成長期に大企業の技術を支えてきた日本の歴史を見れば、誰もが納得すると思います。しかしグローバル化のもと、競争至上主義経済を推し進め、勝ち組と負け組の格差が拡大し、挙句に「負けたら自己責任」ならば、「政治の役割は一体何だ!?」と思います。若者が将来に希望を持ち、働く者が誇りを持って、お年寄りが安心して暮らせる社会。それは「手の届かない理想」ではなくて、「手にすべきわれわれの権利」ということだ、と思い至っています。「地域の小売店や中小企業は、地域に芽生えた植物で、踏まれても抜かれてもそこを命の拠り所として他の植物とともに生きていく。大型店は地域を食い荒らして移動する大型動物ではないか?」と思います。

「細脈流通」の担い手として「競争的共存関係」を目指す

 私は改めて自社の得意先約500社と、今日まで応援してくれた問屋とメーカー、地域の人々を見つめ直しました。そこで分かったのは、卸も小売もそれぞれ「地域の生活者」ということです。卸と小売の共存と地域の活性化にどれだけ貢献できるか?価格競争ではなく、そこに住む人々にどれだけ喜んでいただける商品を提供できるか?これら共通の目標を共有してビジネスを展開し、地域に有用な卸問屋として認知されることが当社の方向であると確認しました。
 今、当社では、小売店との関係を「競争的共存関係」と考え、まず社員とこの考えを共有しようと取り組んでいます。社員が「自分たちの営業活動がどのように地域社会に役立っているのか」を認識し、小売店と共存を目指した利益を得ることで循環・発展していく関係を目指します。
 そもそも日用品は「たまたま目に付いて、家でなくなっていたから買う」という「衝動買い」が多く、そうした情報や商品の並べ方といったマーケティング、価格以外のサービスを数多く提供していくのです。営業社員は今までは「そうすることが自分の給料を稼ぐ」程度にしか理解できませんでした。
 今では、「それによって小売店さんが元気になり、(株)タケウチでなく、お前に指定して電話が来る。それはお前の信用だ。小売店さんが元気になれば、その地域は元気になる。営業の喜びは、売上ではなく『俺はあの小売店さんのために、これだけのことをしたんだ!』 ということ」「その喜びや悔しさをくり返す中で、人間的に成長していくのがお前の人生だろう?だから会社と一緒に人生がある。会社はお前の人生を絶対放棄しないよ」と言うことで、会社の中で働く喜びや誇りがひとつになり、「競争的共存関係」が成り立っていくのです。
 全国化粧品日用品卸連合会は、一昨年の総会で、地域卸を「細脈流通」と呼び、貴重な業界財産と持ち上げました。地域活性化の視点が欠けていますが、メーカーもこれに呼応して、各地で地域卸を対象に研修会を開いています。ナショナルブランド(以下「NB」)の弱体化とCMの空回りがメーカーの目を地域問屋に向けさせているのです。すなわち、大型店のプライベートブランド(以下「PB」)は、相対的にNBを弱体化させているわけです。
 ところが、店舗数で大型店に勝る地域小売店にNBを供給できるのは、われわれ地域問屋しかいないのです。大型小売店の流通支配がメーカーに与える影響を考えれば必然的な結果です。

地域問屋の全国ネットワーク「(株)サプリコ」の設立

 全国の同じような状況の地域問屋で「(株)サプリコ」を設立し、現在、北海道から九州まで71 社が加盟し、売り上げ約2000億のグループになっています。「新しい PB 商品はつくるけど、共同による大量仕入れはやらない」ことを前提に、共同企画販売・商品開発・本部代行商談と、地域に網の目のように張り巡らした地域問屋のネットワークを利用して、新しい中小問屋の活動形態を構築しています。
 例えば、「ホッカイロ」というNB商品があります。このメーカーにお願いして品質を落とさずに、サプリコのPBとして「ホットカイロ」を作って頂きました。デザインを変え、入り数もこちらの要望通り。宣伝費も返品も無し、製造計画もロットも明確、しかも従来の代理店経由で仕入れるので売り掛けの回収リスクはない。この様に流通段階の協力を頂けたことは、その後のPB開発を容易なものにしています。現在、百数十種類のPBがありますが、こうして削減したコストを価格に反映させ、品質、価格両面で市場におけるオンリーワン商品に育ててゆくことになります。
 将来的には、新しいベンチャー企業が新商品を売りたい時に、(株)サプリコの本部に持ち込むことで全国80社に紹介することが簡単にできるような取り組みをしていこうと考えています。

「中小企業憲章」が持続可能な地域社会を実現する

 しかし、それだけで地域社会が元気になるわけではありません。21世紀の持続可能な地域社会を実現するためには、「大量生産」「大量消費」「大量陳列」「大量廃棄」に象徴される現代の社会システムの転換が必要です。
 「高齢化社会」「生活防衛型消費」と言われ、大型店の売り上げは先月からどんどん落ちています。ところが、面白いことに地域小売店は落ちていないのです。「規模が小さいから統計には出ない」ということだけでなく、たくさん物を買わずに済みますから、消費者は地域小売店で買い物をし始めています。
 もうひとつは、「子供を連れて車を運転して買い物に行くコストがどれだけかかるか?近くの小売店でこの程度の値段なら損ではないかな」という考え方をやがて消費者はしていく。お客様の納得する「ミドルプライス」という考え方を基本に価格を設定していくことがひとつの方向性でしょう。
 さらには、「おばあちゃん、風邪引いているけど大丈夫?」というように、お客様の名前を全部知っているようになれば、絶対に地域小売店は生きていけます。それを当社は応援しなければいけないと考えています。
 「中小企業よしっかりしろ!中小企業こそが世直しの主役だ!」と訴えながら、自社の生きていく方向を示すのが「中小企業憲章」なのです。混迷する現代社会の中で、地域とともにある中小企業の活力こそが、「人間が人間らしく生き、一人ひとりが尊重される活力ある社会」をつくると確信しています。

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