No.212(2009年2月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
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発行日/毎月1日発行

第2分科会

人が育つ会社を目指して 〜社長と社員の信頼関係づくり〜


(株)オプス 社長 菅原俊樹氏

【自立部門制】と【全体最適】 〜任せる・信頼関係〜

 当社は総合ビルメンテナンス業です。従業員は150〜160名、正社員は20名程です。我社の組織運営の基本方針として、【自立部門制】と【全体最適】の2本柱があります。自立部門制には、【任せる】ということ、全体最適には【信頼関係】が必要不可欠です。この任せる事と信頼関係を基盤に取り組んでいます。
 自立部門制は、我社の組織の骨格になります。業務の専門性を元に、10以上の部門に分け1〜3名程度の小グループで活動し、毎月、部署の売り上げ、現場経費、給与を計算書で出しています。独立採算との違いは、全体最適という考えを基に利益を部署内で還元するのではなく、会社全体の予算に組み入れるところにあります。
 一つ例を挙げるとトイレなどを清掃する日常清掃という部署があります。限界利益率は15%程度しかありません。しかし、お客様に非常に近いポジションであり、ここでお客様の信頼を頂くと、他の利益率の高いサービスを提供できる大きな役割があります。利益を追求するよりも仕事を通じてお客様から信頼を頂き、得た情報を会社に持ち帰るという役割を果たしています。部分最適ではない、全体最適という会社全体で総合力を発揮することが一番大切であるという考え方で取り組んでいます。

「人を育てる人」を育てる連鎖への転換

 創業から数年は、同業大手の下請け、孫受け、更にはもっと下の下請けの仕事をしていました。同業他社が嫌がる、早朝・深夜・休日の仕事、危険で厳しい仕事、そして、指値、仕事が終わった後に予算を伝えられるという今考えると最低な経営状況でした。よい社長とは安い給料で何倍も働く社長だと全ての場面で先頭に立ち走り続けました。とにかく失敗はできない。最高のものを提供しなければならない。そして、コストを削減しなければならない。徹底した効率経営で、会社の成功の為、社員の為「俺の言うとおりにしろ」と言って必死に走り続けました。
 6期目には社員が10名を越え、会社の組織化に取り組みました。しかし、うまくいかない。その日起きた事に左右され下請け体質が染み付いたその日暮らし経営でした。そして、ある時、全社員と面談をした際に大きなショックを受けます。それは、社員同士の中に信頼関係がつくられていない、会社に尊敬する人がいないということでした。全体最適を掲げながら心の底からの信頼関係がない。危機感を感じました。以来、@幹部が人を育てること、A社員同士の信頼関係を築くことの2点を経営の重要テーマに位置付けました。

社員からの一言が新たなステージに立たせてくれた

 同友会に入会し、人間尊重の経営という考え方に非常に共感したのと同時に反発に似た感情もありました。「我社にはできない。下請けで規模も小さい、人もいない。周りは恵まれているから出来る。」と素直に受け入れられませんでした。しかし、どこか悔しかった。同友会では例会等に社員と一緒に参加し学びます。当時の私は嫌でした。立派な社長の報告と聞いて自分と比べるだろう。我社の社長はだめだと思われる。しかし、ある時例会に一緒に参加した後に「すごいですね。あんな会社にしたいですね。」と言ってくれました。本当に嬉しく「一緒にやってくれるか」と心から言ったのを覚えています。
 当時の我社は下請けの安い仕事をたくさんこなし売り上げは伸びていましたが、一方でこのままでは社員は幸せにはならないと感じていました。何とかしなければと売上重視・効率追求型経営から新たな方向へと舵をきりました。最初にやったことは「オプスはこれを大切にする会社です。その為極端に安い金額ではお受けできません。しかし、これについては徹底的にやることをお約束いたします。」と言うところから始めました。「オプスは高い、出す仕事は無い」と言われたこともありますが、言い続けること、必ず実践することによってお客様にも認められ、社員にもその覚悟ができました。価格についての本物の価格競争力とは、安くても良い品質でしっかりと利益が得られることだと考えるようになりました。他社が読みきれない細部までリスクをよみ、低価格でもしっかりとした仕事ができるということに取り組んでいます。この転換が無ければ今はありません。2 年前に社員が家を立てる報告に来ました。今思うとぞっとします。あのままだったら社員はローンを組めなかったと思います。改めて、会社とは社員一人ひとりの人生設計に大きくかかわるのだと思います。

任せられない正論と優先順位の変化

 私は任せることがなかなか出来ませんでした。当時の私には任せられない正論がありました。当社の最高のものを提供する。最適な判断をする。そして失敗は出来ない。それが出来るのは社長である自分だという正論です。例えば、@時間、A決め方、B内容、の三つに優先順位を付けるとしたらどうでしょうか。会議について言えば@決められた時間通りにやる、A会議の決め方、B会議の決めた内容。私はずっとB内容でした。だから「俺の言うとおりにしろ」だったのです。「自分の意見を持て」と社員に言いながら意見を持って来ると「本質的な意見じゃない、短絡的だ」と私の考えに押されてしまう。結局は上司がいても、その先の社長を見て仕事をしている。それでは本当の信頼関係や尊敬は生まれません。現在は第一に@時間です。みんなで時間を共有しそれを続けるということ。時間の共有が無ければ何も始まりません。次にA決め方です。各々が討議をし尽くし納得して受け入れる。そして最後がB内容です。方針・戦略の解釈が曖昧な点があっても意見を闘わせ自分達で決めたことを社長が受け入れる。内容が良いか悪いかも重要ですが自分達で決めた過程と主体者意識、責任感を持つことが最重要だと考えるようになりました。これは私にとって大きな変化です。人の成長は何事にも変えられない喜びがあります。私はその喜びを独り占めしていた。最終的に「俺の言うとおりにしろ」では、「ご苦労さん、ありがとう」と言っても本当の感謝はあったのかと思い返します。
 しかし、方針・戦略と正反対では困ります。幹部に求めるのはどこまでも経営理念の理解です。私と全てが一致していなくも自らの言葉で理念を語ることが重要だと思います。任せるとは、逆に自社の理念、方針、戦略が明確になっていなければならないのだと思います。

社内に対話を起こし信頼関係醸成の場をつくる

 育てると育つの違いは何か。育てるは育てる側(上司)に視点を当てた考え方です。育つは、育てられる側(部下)、人間の育つという力に視点を当てた考え方です。
 我社の理念は、共生企業(共に生きる)です。経営者の私は徹底的に支援に回るようになりました。対話から会社の組織づくり、企業風土をつくる支援です。お互いを知り、育つ力を支援する、信頼関係醸成の場づくりに取り組んでいいます。幹部会議、営業会議、討論会、面談と直接の上司の力量だけに依存するのではなく、社内全体で縦、横、斜めの様々な場面で対話を起こすことを心掛けています。
 幹部は部下が育たないと苦悩します。しかし、『そうか、大変だな。でも時間がかかるよな。』 の一言で、楽になった顔になることがあります。上司が焦るのは、会社が焦らせている側面があるのだと思います。

共生企業の原点

  昨年、『我社をどのような会社にしたいですか?』 というテーマで討論会をしました。多くは「自慢できる会社、誇りの持てる会社にしたい」という意見でした。私は「それを達成する為に全力を尽くす」と約束しました。私と社員のみんなで合意し、決めたことです。『社員の為に』 から『社員と共に生きる』 という私の変化、効率追求型経営からの転換、オプスの人づくりこそが我社の第2創業なのだと思います。
 私は創業前、親へ反発し実家を飛び出しました。東京ではフリーターのような生活で「自分の将来はどうなるのだろう」と不安な毎日を過ごしました。それが清掃という仕事を通して初めて将来に向かって生きようと思いました。きっかけはあるビルの貯水槽の清掃でした。当時の上司が突然辞めてしまい、私がやらなければならない状況になりました。清掃を終え水の復旧をしようとしてもどうしても出来ない。飲食店が多く入っているビルで、復旧出来なかったら大変な損害を出す。先輩から教えてもらったことを思い出し汗だくで必死でやりました。30時間以上寝てない状況で、勢いよく水が飛び出し貯水槽に流れ込んだあの日の朝の気分は忘れられません。当時の私はエリートやサラリーマンに対して劣等感がありました。しかし、あの朝方の帰り道、通勤中のサラリーマンとすれ違う時「俺も負けてない」という気持ちになりました。「人は仕事が重要な時、自らを重要と感ずる。」まさにそうだと思いました。私はあの仕事を通じて自分を重要だと思い、未来に希望が持てたのです。
 私の夢は自分が経験したように仕事を通じて誰もが自分の大切さを実感でき、人生に自信を持って生きることができる会社です。清掃という仕事は老若男女に雇用の窓口を広く持ち、誰でもきれいにするという目的を達成できる素晴らしい仕事です。ステップアップできる階段をつくり、バランスを崩しても、掴んでぐっと踏ん張れるような手すりをつくっていきたい。しかし、自分の足で登ってもらう。これをみんなで励ますような会社を目指して取り組んでいきたいと考えています。

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