No.212(2009年2月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
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発行日/毎月1日発行

第1分科会

“第二創業”で時代を切り拓く
〜経営指針の全社的実践が未来を変える〜


東洋産業(株) 専務 玄地学氏

自己紹介

東洋産業(株)は、社員数11名の清掃用品・ビル管理用品の販売会社で今期24期を迎えます。私は山形県出身の現在42歳。大学を卒業後、大手化学品メーカーで営業として6年間働いた後、山形で父が経営するケミカル産業(株)に入社しました。その5年後の1999年、倒産の危機に瀕していた東洋産業(株)をM&Aし経営に関りました。
 現在の業界は、主力商品の床用ワックスが毎年5〜10%減少、ここ5年で約30%下がりました。その一番の要因は、床材の変化と原材料高騰による商品の値上げです。現在、80社〜100社の仕入先がありますが、毎月何社かの値上げがあり常に煩雑な状況です。その中でも、環境問題や食に関する安全のニーズが大きな追い風になっており、その分野での売上は伸びています。

入社当時の経営危機から学んだこと

 事前に財務諸表を見たこともあり何とかなると安易に考えていましたが、財務諸表には表れないことがたくさんありました。まず事務所が汚い。倉庫が汚い。しかも倉庫には棚がない。流通業で棚がないというのは致命傷で、在庫管理も出来ていません。営業の予定表や日報もない。会社内に“個人商店”があり、担当でないと何もわからないという状況でした。
 この状況をどのように感じているか社員にアンケートを行いました。「東洋産業が変わる良いきっかけだ」「これからどうなるのか不安だ」という意見もありましたが「いいことをしても褒めてくれない」「悪いことをしても叱ってくれない」など、経営者との対話ができていない事もわかりました。しかし、今後ついては「こう改善したらよくなります」「お客様からこのような要望もあります」など、この会社を何とかしたいと思う気持ちは、社員が一番強かったという事も解りました。これなら再建ができると確信しました。
 厳しい中でも、全国の同業者の若手経営者で、「モノ売り」的なメーカー主導の業界を、「事売り」の出来る問屋主導に変えようとチームを組み、海外の良い商品を共同購入で仕入れる仕組みを開発するなど結果経営再建は順調に進んでいました。しかし、平成18年、同友会大学のある講義の先生にこの取り組みについて質問をしたとき、「共同購入であれば仕入れ価格が安くなるというメリットだけで、それ以上ないですよね」といわれ、はたしてこのまま経営できるのかと不安がつきまとうようになりました。

第18期経営指針を創る会を受講

 そのようなとき『第18期経営指針を創る会』(以下、「創る会」)を受講することになりました。目的は2つ。1)自分自身のぶれない経営軸、「経営のモノサシ」をつくること。2)経営理念を社員と一緒に創ること。すでに経営理念はありましたが、社員と一緒につくることによって何の為に仕事をしているのか、また社会の一員である事や、使命感をより明確にする事ができると思ったからです。
 最初に創った経営理念について「あなたの理念から、社員の笑顔が見えません。」と言われました。私が一番社員のことを考えているはずなのに、どの文章を見てそう言われたのかも分からず、言葉が出ませんでした。改めて社員と対話したところ、考えてもみなかった意見がたくさん出され、いかに自分がうわべだけのコミュニケーションで接しており、本質的な対話ができていないかを気づかされました。中には、変わった意見をいう社員もいますが繰り返し対話することによって考えも明確になりました。
 会が進む中、10年ビジョンが全く描けませんでした。受講前は10年先よりも、2、3年後の計画をより具体的に立てる方が重要と感じていましたので、あえて見ようともしていなかったのかもしれません。10年先が見えないことで今まで経営再建してきた自信はもろくも崩れ去り、一転、恐怖感に変わりました。経営者でありながら、10年後は不安だから考えたくないという無責任な考えでした。しかし、逃げずに立ち向かえたのは、改めて経営者としての責任を自分に問いかけ、社員や家族、お客様、仕入先の人たちの将来が自分に掛かっていることを感じ、ビジョンをつくらなければいけないと考えたからです。
 困り果てて、社員に相談したところ、「専務の弱いところを初めて見ました。何とかして助けてあげたい。」と言ってもらい、たくさんの意見を出してくれました。社員自身も「何か役に立てる」と生き生きし、その姿を見たときにまさに「人を生かす経営」とは、このことだと思いました。そんな関わりの中、これからの夢やあるべき姿を打ち建てたときに10年後が見え、希望が見えました。それに向う為には3年、5年後をどうするかというところに辿りつき、これまでの3年計画の立て方の誤りに気付きました。
 受講中は仕事ができず、すべてを社員に任せっぱなしで申し訳ない気持ちでいっぱいでした。しかし社員自身はそうは感じておらず、むしろ新しい取り組みをやり遂げた達成感、会社に役に立てた事への喜びや、存在感を感じることができたと聞くことができました。再建の苦労を共にしてきた社員は、着実に成長しており、逆に私が社員の仕事を奪っていたと思わされたほどでした。

自社が存在する理由(経営理念)

 今回の経営指針を社員と一緒に創ったことにより、自社の存在意義を認識できました。
【科学性】私たちの仕事は、フロアケア・床ワックス、さらには食品衛生まで、人間が生活する上で欠かせない衣・食・住すべてに関わっています。なぜこの仕事をしているのか?実は転倒して亡くなる方は年間 3,000人もいるのです。フロアケア等は転倒防止にもなります。食品衛生も、食中毒・異物混入などさまざまな事故があります。我々は、快適な環境ではなく“大切な命”を守ってきたのです。そこに思いが繋がったとき、なくてはならない仕事だと思え、我々の使命だと思いました。
【社会性】今、地球は1個半必要と言われており、自然を守るだけではなく、蘇えらせる環境づくりが必要です。「自然が芽生える環境創り」というのは、人間も自然の一部であり、「人が育つ環境づくり」とも解釈し、それはまさに会社がその現場なのです。だからこそ社員共育は大切なのです。
【人間性】すべては、人と人がお互いを認めるところから始まります。しかし、これが一番難しいのです。お互いを認めるということは人の意見を聴けるということ。仲間として目的を共有し、協力し合い進んでいくことで共に成長し、人間として成長します。会社は地域社会にとって必要な人を育てなければならない使命があります。

卸売業現状と新たな事業の定義

 受講中、「あなたの事業の定義はなんですか?」とよく問われました。当社では、商品を買っていただくだけでなく、商品をどのように使い問題解決をして結果を出すかというセミナーや講習会を開催しています。そのためには使用方法や素材などについても知る事が大切で、我々は、「モノ売り」ではなく「事売り」をやっていましたが、総合的に事業を捉える必要性を感じ、これまでの「清掃用品総合卸」から「総合衛生プロデュース業」と定義しました。商品販売だけではなく、総合的に問題解決をすることで、価格決定権が生まれると考えています。現状、業界の価格決定権はメーカー主導で決まっています。「創る会」の中で、「あなたは業界を変えるぐらいの気持ちで指針づくりに望んでほしい」と言われました。「今後、卸売業界はさらに厳しくなる。自社は勝ち組でも、業種や業界が負け組では乗っている船は沈む」という意味でした。

強みを生かして第2創業

 自社の強みは数多く商品を扱っている事ではなく「情報」でした。お客様、メーカー、マーケットなどすべての情報の「量」・「質」・「スピード」が集まります。あるメーカーでは、商品開発の際、6セクションかかり、当初私たちが希望していたものとかけ離れた商品が出てきます。それならば、現場やお客様を知っている私たち卸売業だからこそできる「モノづくり」をやるべきだと考えました。「総合衛生プロデュース」として自社ブランドを持つことで、ものづくり、販売、教育、調査、分析、コンサルティングという一気通貫のサービスを提供する事ができます。その結果、今までなかった価格決定権が生まれ、お客様のコスト削減にも大いに貢献できると思います。
 数年前、山形県でレジオネラ菌が発生し、たくさんの人が亡くなり、衛生管理に携わりながら何もできずに悔しい思いをしました。しかし、今までの経験から浴室を泡で洗うシステムを考え発売しました。全国でも、温泉・浴室関係は唯一伸びている市場ですが困っている人はたくさんいます。私たちのシステムで「きれいになった」「疲労軽減になった」「作業が楽しくなった」と全国の方から喜んでもらえました。今回の商品開発により地域や業界の困りごとに関われたことは大変嬉しいことであり、今後の商品開発では、メーカーとしての立場で進んでいきたいと思います。

経営者の役割とは

 「創る会」にて、経営者の役割は「先見性を持って将来を示すこと」と学びました。
 先日、全国行事に参加した際のグループ討論において、「指針書は創っているものの社員に浸透していない」と悩む経営者がいました。その時、ある社員さんに「生き生き仕事ができるのはどんな時ですか?」と質問したら、「社長の考えがわかったとき」との応えが返ってきました。なるほど!と思い、逆に沈む時は?と聞いたら、「社長の考えがわからないときです。」と言われました。このとき、グループにいた経営者全員が下を向きました。経営者の考えをしっかりと伝える事が大切だと思い知らされました。
 その考えを示すものは「経営指針書」です。すべての答えは会社にあります。だからこそ一番身近にいる社員と話し、全員が目的・役割を持ち共有することによって、初めて会社が一つになって前に進めるのです。これからも経営指針書を基に実践して参りたいと思います。

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