No.212(2009年2月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
〒981−3133 仙台市泉区泉中央2−11−1 リバースビル302
TEL(022)218-2571 FAX(022)218-2575
E-mail miyagi@m-doyu.gr.jp
【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

第3分科会

経営幹部がわが社を語る 〜もう一人の経営者〜

パネラー
日東イシダ(株)
取締役部長 藤見時雄氏

 

パネラー
中央営繕サービス(株)
取締役部長 長島和行氏

 

パネラー
(有)ほのぼの介護
取締役所長 鈴木秀明氏

 

コーディネーター
(株)サイコー
取締役部長 谷津武弘氏

1. 自己紹介、入社当時の自分と会社

 【藤見】当社は計量システムの製造・販売・メンテナンスを行っています。量や重さを正確に量るだけでなく、社会の情勢に適応する力を養って、お客様を支援していくのが使命です。私はその中でシステム開発部門を担当しています。私が入社したのは昭和54年で、営業に経営の重点を置いており、営業マンは個性的で元気があるのが特徴でした。一方でサービスマンは元気がなく、定着も悪い状態でした。当時のサービスマンは営業マンの後始末的な役割という暗黙の認識があったように思います。新製品開発の技術者として入社した私は、サービスマンの状況を改善したいと思い、開発協力を彼らに要請しました。しかし対話も少なく、新製品の試作品を完成させた時も喜び合うことができず、大変残念な思いでした。
 【長島】中央営繕サービスは佐元工務店のリフォーム部門です。私は東京と仙台で会社勤めと会社経営の経験を経て、平成7年に佐元工務店に入社しました。会社経営で人生のどん底を味わったものですから、佐元工務店に入社した頃は「大型物件を多く手がけてきたし、それなりの苦労もしている」という自負から、自分のレベルは相当なものだと自惚れておりました。工事部長を命じられたとき、新工法の開発に力を入れて失敗し、その責任をとる形で主力部門からはずれ、閑職に近い部門に配属になりました。いつ退職するかばかりを考える毎日でしたが、今思えば自分のやり方・考え方を見つめ直す機会だったのだと思います。
 【鈴木】私は平成16年に入社し、今年で5年目になります。わが社の事業内容は、高齢者の訪問介護事業・介護サービスを組み立てるケアマネージャー事業で、現在はペット関連事業『Only わん』 も展開しています。関連会社に障がい者の介護を中心とした、ひだまり介護があります。
 私は高い給料を自分で稼ぐという野望を持ってこの会社に転職しました。それまでにいた施設とは違って女性が活躍する職場なのにはギャップがありましたが、入社当時の経営が安定していたこともあり、どちらかというと長いものに巻かれるという姿勢でおりました。

2. 自分の変化と会社の変化

 【長島】私が配属になったのは、個別対応でマニュアルは通用しない部門でした。あるとき、設計事務所の所長から「息子が担当することになった物件を手伝ってくれないか」と相談されました。お客様のところで一緒に要望を聞いた後、所長とその息子さんは「お客様にとってどれが最善か」を毎回毎回、夜中まで喧々諤々と話し合うのですね。お客様のためにそこまでするものなのかと驚きました。
 当社の経営基本方針に 「軽トラ路線」 を掲げており、「大手がやれない事をやる」「狩猟型営業より農耕型営業」「お客様一人ひとりの身になって解決する」がテーマです。これらを実践すると、時にはお客様が望んでいるものと表面的には違う形になることもあります。会社の利益にならないものの提案になることもあります。大切なのは、お客様に本当に必要なものを提案することです。それはお客様をよく知らないとできません。
 【藤見】新社長が平成9年に経営理念を発表しました。新社長も社内を改革する必要がある、そのためには経営理念を共有し全社一丸となる必要があると考えたのです。しかし発表された理念は社内にはなかなか受け入れられず、平成15年、社内に『経営指針を創る会』 を立ち上げて「お客様は誰?」「何を売るの?」「会社の自立・部門の自立・個人の自立とは?」などのテーマについて幹部同士、部門ごとに時間をかけて話し合い、全社員で経営指針の再構築を行いました。最初の頃は「話し合いより実践の方が大切」との声もかなり聞こえていました。その度に「誰のためでもない、自分たちのためにやっているんだ」と声をかけたり、理念の必要性を理解した社員から意見を発信してもらったりしました。
 話し合いのなかでは、特に利益に対する考え方を共有しました。売上はお客様の利益に貢献した結果、利益はお客様に満足していただいた結果。部門ごとが切り離されることなく、すべての部門のすべての社員が協力し合って一貫した仕事をお客様に提供した結果として、売上や利益が出る。これを共有しました。その話し合いを通して、それぞれの役割をそれぞれが理解し、それぞれに必要としていることを認め合え、サービスマンの状況も解消されていきました。まだ、数字から話に入る傾向は残っているものの、仕事に対して「何のために」という対話が社内に増えているのは大きな変化と言えます。
 【鈴木】今から3年前、『経営指針を創る会』 に当社の澤田社長が参加、社長の思いと社員それぞれの考えを持ち寄って経営理念を作りました。いいものが出来たはずなのですが、なぜかその直後、現場を統括していた女性リーダーと連鎖して、2名の正社員と主要なパート数人が辞め、残った正社員は私を含めて20代男性のみという事態が起こりました。そうなった原因を考えてみると、理念の作成にあたり、社長が自分の思いを確認する過程で、悩んでいる姿を社員に見せたのですね。私にとっては社長のありのままの姿を見て支えていきたいと感じましたが、逆にその社長の姿に不安を感じた人もいたようです、退職していった社員たちはそうだったのかもしれません。
 訪問介護の仕事は家事支援がほとんどで女性中心の現場です。男性スタッフではサービスを断られることもしばしばで現場の陣頭指揮が取れません。そういう中で、やるべき答えは自然と湧き出てきたように思います。現場の情報を一番つかんでいるヘルパーと「お客様のために」という共通のテーマで話し合ってじっくり確かな方法を導き出す。これを残ったヘルパーたちとこまめに行い、連携をつくって進めました。立場や経験にとらわれずに一人ひとりを尊重してその人の優れたところを発揮させる、私にはそういう役割が求められました。徐々に信頼感が高まっていくのが感じられるようになり、社内は落ち着きを取り戻していきました。この出来事は後々、わが社の事業の中でも訪問介護に売上の多くを依存する経営を考え直すきっかけともなっています。

3. 幹部社員の役割と自分がこれからめざす姿

 【藤見】新製品開発の仕事が一段落したあと、私はシステム部の立ち上げを任されました。新入社員2人が配属され、私は常に難易度の高い仕事を課しながら、@お客様の現場を見ること A到達点をこまめに確認し、トラブルや解決策についてよく話し合うことを大切にして進めていきました。当時としてはかなり難題なシステムを組み、納入したお客様から大変に喜ばれて、すぐに次の仕事をいただいたことがありました。その一連の流れに関わった2人は、大変だけれども仕事が面白いと言ってくれました。当時の私は意識しておりませんでしたが、人は自分の可能性を追求できたとき、意味のあるものに挑戦できたとき、やりがいを感じるのかもしれません。お客様に喜んでもらうことで働きがいを感じるのかもしれません。それを気づかせてくれたこの新人は、現在は私の右腕となっています。
 会社は私に機会あるごとにチャンスをくれ、育ててくれました。社員にも同じようにしてあげたいと思います。また、わが社の方針でもある新卒採用をこれからも積極的に続け、将来に希望が持てる会社、“自分らしさ”と“自信”を持てる人生を、若い世代と一緒につくってまいります。
 【鈴木】わが社の社員共育にも取り入れている介護業界のキーワードを2つ紹介いたします。一つは「自立支援」です。自分で出来る事は他人にしてもらうよりも自分で行うのが最も良いという概念です。例えばタオルで顔を拭くという行動一つとっても、他の人がどんなに上手に介助しようとも、自分で拭く以上には気持ちよく拭けないのです。
 もう一つは「共依存」です。アルコール依存症の治療から発見された言葉で、例えば夫婦の場合、「妻は夫のアルコール依存症に困っているのだけれども、アルコールを欲する夫の要求に応えると自分の存在を実感できるためにアルコールを渡してしまう。それで夫と妻の関係が安定している」という状態です。これが家族や社内(特に上司と部下の関係)で起きることがあり、わが社でも考えられることです。助けてほしいという部下の要求は、本人の力で解決することが出来ることなのか、上司が介入する必要があることなのかを上司は見極めることが大切です。わが社では部門ごとに直系面談を行っていますが、部下が自分の話を聴いてほしいという目的と内容を聞いて「私ではなく、部門のメンバーに話してみんなで考えてみて」とつき返したこともあります。それで反発されたり、距離を置かれたりもします。私もさすがに辛いですが「自立支援をしている辛さだ」と自分に言い聞かせます。
 社会保障が先細る中で、制度に頼らない独自の事業展開を考えていかなければなりません。冒頭の『0nly わん』 事業はその一つです。将来的には、人の「生きる」+「活き活き」=「生活」を支える会社をめざし、地域に生活支援の拠点を増やしていきたいと考えています。頑張っただけの給料が欲しくてこの会社に転職したはずが、それだけではなくなっています。私自身がすべての出来事を楽しみ、人生を楽しんでいる私と一緒にやっていきたいと感じてもらえるような人になっていきたいと思います。
 【長島】情勢が厳しくなると、会議、特に幹部会議や取締役会では数字をつきつめたくなります。しかしそれをやると、黙ったり人を責めたり情勢のせいにしたりして、みんなで意見を出し合いながら合意と納得を生み出す会議にはなかなかなりません。こういう会議になる原因は私を含め幹部の「やらされ感」によることが大きいように思います。「数字を上げろ」の前に幹部自身は「わが社は何をする会社か」を確認する必要があるのではないでしょうか。
 当社では、経営理念「明るく豊かな地域づくり」に基づいて、毎秋に地域のお客様に向け『ふれあい感謝祭』 というイベントを行っています。10年目を迎えた今年は1000名ほどの方々にご来場いただきました。この『感謝祭』 は私たちのベクトル合わせにもなっています。お客様の喜ぶ顔、楽しそうな顔を見るのはやはり嬉しいことで、その笑顔と自分たちの日々の実践が重なっているのを肌で感じることができます。以前は『感謝祭』 に批判的だった人も、今では当然のように取り組んでいます。その他には隔月の情報紙「真心」の手配り、町内清掃も行っており、これらも私たちのベクトル合わせの取り組みになっています。
 しかしながら「お客様満足度をあげるために、自分の生活をどこまで犠牲にしたらいいのか」と悩む社員もおります。そういう部下に犠牲感を持つなと言っても解決になりません。私が伝えられるのは「今、自分がいるところから学んでほしい」ということだけです。私もこの報告をするにあたっては、最初は「やらされ感」だけでしたが(笑)、報告の準備をしながら会社の方針と自分の考えや実践が一致していたことを確認できたのです。普段、幹部の役割を意識して仕事してはいませんから、こうして自分をふりかえって確認する必要性を感じました。だから「やらされ感」から始まることがあってもいいのかもしれません、大切なのはそこから何を気づくかだろうと思います。気づく、気づいてもらう、気づく力を養い合う。そこから新たな感性が育っていくかもしれません。それをしかけていくのが、幹部の仕事なのだろうと思います。
 「私達はともに成長し豊かな人生を実現できる自立した会社を目指します」これは当社の経営理念です。これを実現させる鍵は幹部が握っています、若い人にその鍵をバトンタッチしていきたいと思います。
 【谷津】これから必要とされる会社とはどんな会社なのか。幹部とはどんな役割をもつ存在なのか。それらを自らに問いかけ、自分が立っている場所から取り組みを始めて、自分と社内に変化を起こしていった3人の報告には「共有」「ベクトルあわせ」「自立」というキーワードがありました。そしてその根底には「共に育つ」という理念がありました。魅力ある人間をめざすという本質的な課題にむけて、真の会社のリーダー、地域のリーダーをめざしていきましょう。

今月の内容

バックナンバー一覧に戻る