No.212(2009年2月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

第4分科会

採用と共育こそが成長の源泉
〜学校と地域を巻き込んだ広島同友会の取り組み〜


発表者 (株)テクシード 奥河内博夫氏

会社の主人公は社員

 当社は創業から12 年間赤字もなく、経営に苦しむことは一度もありませんでした。社員の年収も他の零細企業に比べると高収入で、売上げが悪くてもある程度社長が何とかしてしまうため社員に危機感はありませんでした。しかし社長のキャラクターによる売り上げには限度があります。中小零細企業は昔から親方日の丸的な意識が充満しています。親方日の丸という経営は、大企業や公務員に多いといわれていますが、私は中小企業の方が意識が強いと思います。
 企業の成長がなければ社員には夢も希望もありません。私も含めて社員の危機感が非常に薄いと感じます。危機感が薄いということは、厳しさを理解していないことではなく、本質をつかむ科学的な深い認識が弱いということです。例えば経済のグローバル化や市場原理主義が失敗したのは考え方に誤りがあったからです。最も大切なことは考えのどこに誤りがあったのかということです。人間も会社も間違いは避けられない中で、問題を直視したときに本質的な原因をつかめるかが本当の問題だと思います。大切なのは経営指針を作る際に、社長と社員が同じ目標に向かって進むことです。当社も最近は新規分野が構築されずだんだん経営が苦しくなり、新しいお客も開拓されなくなってきました。だからこそ経営指針に力を注いでいます。
 同友会では「経営を維持・発展」させることが重要だと言っています。その為には継続的な「採用」をしなければ社員は希望がもてません。後輩が入社することにより自分の存在感を改めて感じ、後輩を育てることで自分自信が成長します。会社の発展と課題は、「社長のキャラクターによる経営」から「全社一丸となった経営」、つまり社員が主人公になるような経営が大切だと思います。
 弊社は各部門で委員会を作り、経営指針に沿った実践をしています。小さな会社でも、大きく発展する基礎ができてきたと思います。
 ある部門のリーダーの部下に素晴らしい人材がおり、その人材をさらに活かす為、新しい事業を設立し新たなリーダーを誕生させました。沢山の経験の中から社員の個性を活かす経営こそが社長の仕事だと感じました。
 建設投資は最高時に比べると現在は約40%で、約60%の企業がなくなるくらい深刻です。しかし、苦しい時だからこそ学ぶことが大切であり、自社の経営指針を発展させることが大事です。ともすれば木を見て森を見ずという経営に陥ってしまいがちですが、自分の独断と偏見で見るのではなく「ありのままでみる」「物事を部分だけではなく全面を見る」「表面を見るのではなく内面を見る」「一時的ではなく長期的に見る」ことが大切です。つまり時代の変化に対応するのではなくて、日々の変化に対応する経営が大切です。

社員にステージを与える

 一昨年、神戸の経営研究集会で、「人生には希望があるように、会社にも希望がなくて、やりがいがあるのか」ということを学びました。
 ここで、私の会社に子育てをしながら経理の仕事をしている社員のレポートを紹介したいと思います。
 「私は入社してまもなく一年になります。この一年を振り返ってみると、テクシードは私にさまざまなことを教えてくれました。
 これまで私が勤めてきた会社では、自分の仕事さえ責任を持ってこなしていけばそれでいい、という風潮があり、仕事ができる人間が一番で、それなりの協調性を保っていれば良いという職場が多かったのです。それを当たり前のように思ってきた私にとって、テクシードは驚きでした。それはチームワークの良さです。すばらしい経営指針に基づき、社員全員で助け合いながら会社を築き上げていくということを教えてくれました。テクシードには「さりげない気配り」や、「フットワークの軽さ」、「情報交換の場」がたくさんあります。働きやすい環境で仕事をすれば、のびのびと仕事ができ、能率も自然と上がりました。インターンシップでは学生にテクシードのよさを一番に伝え、学んでもらいました。これから増える後輩にも、良い環境で働いてもらえるよう試行していきます。
 そしてもう一つは、努力することの大切さ、楽しさです。入社して仕事を覚えるまでは、全てが新鮮で、必死にがんばりました。しかし、覚えてしまうと同じことの繰り返しになり、単調な日々を送ってきた気がします。前任者のやり方を引き継ぎ、忠実にこなしていただけなのです。しかしここでは、自分が良いと思ったことは取り上げてもらえ、改革していく楽しさを味わうことができます。努力したことが活かされていくのです。これからは仕事になれたころに成長が止まってしまうのではなく、常に目標を持ってがんばっていく努力をしたいと思います。
 2年目は今までのデータを基に、さらに良いものに仕上げていきたいです。そして資格取得に挑戦し、自分に力と自信をつけて会社に貢献していければ、と考えています。」

 この女性はお子さんが2人いますが、去年は建設経理の一級を、子育てしながら取得しました。このように、自分がテクシードで力を発揮できるか、あるいはチャンスがあるか、働く充実感を感じなければ意味を失って退職していくのだろうと思うのです。
 社員にとって大事なことは、「会社に対する希望」と、「自分が成長できるステージがあるかどうか」です。「頑張った先に何があるか」、到達点を認識させることが大事です。

社員が自ら考えて行動する(社風で人を育てる)

 私は必要と思った社員には本を買い与えていました。しかし、ある時、本を与えていなかった社員から、「私は本をもらっていないから評価されていない」という声を聞きました。私は日頃から社員に対し「自分は変わる力を持っていることに確信を持て」などと言っていますが自分自身もまだまだだと感じています。「社員は変わる」という確信を持ち接する事によって、社員の定着率も上がっています。しかし、当社は「考える力を持った社員をつくる」というところがまだ確立されていません。
 私が46歳で会社を創業した当時、子ども2人が大学に通っており、なかなか仕事をもらえない時期がありました。なんとか仕事を頂きたいという一心で手紙を送ったある会社から「仕事を任せてみたい」という返事をいただきました。その会社の社長に「どうして仕事を頂けたのですか?」と聞いたところ、「手紙に感動した」と、今でもその手紙を大切に持っていてくれています。「営業」は商品を販売することが目的ではなく、相手の心をつかむことが大切だと感じました。
 井上ひさしさんの「イソップ株式会社」の一節に「読書は言葉を鍛え、言葉が頭を鍛え、鍛えた頭が物事を良く考える」という言葉があります。大切なのは、自分の頭で物事を正しく判断できる力を養っていくことです。なぜ教育をするのか。それは成り行き任せの生き方ではなく、自立した人間としての考えで物事を正しく判断できる人間をつくることだと思います。
 社員共育の先には何があるのか?新卒、中途を問わず、自分がこれから実行しようとする結果を描ける力と、先が見通せる力を身につけることが重要と考え、私の経営は 「社風が人を育てる」 ことを中心に実践しています。
 最近、わが社の社員が「建設業で働く」という作文コンクールで入賞しました。このコンクールは、大企業のスキルの高い社員の応募が中心であり、中小企業に就職した事を嫌がっていた両親が大変喜び、賞状を額縁に飾ってくれたそうです。新聞にも載り、取引先からも祝福されました。このような「効果」がまわり回って、社員も会社も共に成長するのです。

「人は必ず変わる」という確信を!

 2年前、2名の社員を取締役にしたのですが、その一人が昨年の3月に約3千万の赤字を出し、退職願を出してきました。そこで経営に対する考え方を語り合うことによって、改めて行き詰った時こそ「経営指針」に戻ることの重要性を知りました。
 最近、大手企業に就職できなかった学生が中小企業を仕方なく受験する傾向がありますが、実はここに会社を大きくするエネルギーが潜んでいます。能力がある学生を解き放てば、想像以上の力を発揮します。ですから中小企業でも新卒者一人ひとりを磨きあげる経営者にならなくてはなりませんが、それ以前に経営者自身が「輝く素質を磨く力」が弱いと思います。「就職」とは他の可能性を捨ててその会社で生きていくということであり、経営者は大事な責任を負っています。私達は掛替えのない人生を預かっている「人間」として「人」を見るということが求められます。“退職”を前提に「社員共育」を惜しんでは人は育ちません。決して「退職=給料が安い、仕事が厳しい」ということではなく、問題は人間関係や自分自身が評価されないところにあるのです。「共育」とは自らが実践しようとする力を創造することだと思います。ですから経営指針は非常に大事だし、ビジョンが大事だと思っています。
 共同求人で採用してもすぐ退職をしてしまうのは、社員共育と連動していないのが原因だと思います。「採用」とは、社員の潜在能力をいかに引き出すか。「人は変わる」ということに確信が持てるかが、社員の成長するカギだと思います。
 なぜ「共育」をするのか。それは成り行き任せの生き方ではなく、自立した一人の人間として、物事を正しく判断できる人間をつくることだと思います。
 つい先日も求人社員の担当者が40名ほど集まって「学ぶとはどういうことなのか」ということを勉強しました。「学んだことをどのように自社で実践するか」がとても重要だと思います。

【グループ討論後の発表、質問に応えて】
〜大学の就職担当者から質問をいただきました〜

 「中小企業は活力がない」とお話をいただきましたが、同友会をもっと知ってもらいたいと思います。同友会には非常に活力があります。なぜなら同友会の合同企業説明会は経営者自らが学生へ「働くとはどういうことか」や「仕事を通じてのやりがいや生きがい」を直接訴えます。広島同友会の場合は、共同求人に命をかけているといっても過言ではありません。大学、専門、高校からは「働くなら同友会の企業へ」という推薦をいただいています。合同企業説明会は各支部で年間10回程あり、広島県内の殆どの大学就職担当の先生が来場されます。この宮城でも学校側から多くの方々が、同友会の合同企業説明会にぜひご参加いただき、同友会の中小企業のすばらしさを学んでいただきたいと思います。
 また、同友会と学校が共同でインターンシップを行なっています。同友会のインターンシップは「とりあえず受け入れる」ということではなく、参加した学生も、受け入れる会社も「共に学ぶ活動」という位置づけで活動をしています。現在では多くの学校から「インターンシップをしてほしい」という声が上がり、事前学習会や企業と学校の連携が図れるように委員会も作りました。また広島同友会では、約100社が参加して、県内の10大学に90分のカリキュラムをいただき、経営者自らが中小企業の実態と魅力を訴えています。
 合同企業説明会では、参加企業の一覧を持って学校訪問を行なっています。求人で困っている企業は学校の力を借りることも数多くあります。大学生でも就職後に退職をする人達もたくさんいます。今年の1月に同友会企業が27社参加して、同友会だけのブースをつくり再就職のための採用活動も行っています。
 広島同友会は他の同友会と違い小さな会社が多く、中には牛乳の宅配をしている個人経営の方も参加しています。最初は「牛乳配達する会社が参加をしていいのかな」という気後れがあったようですが堂々とブースを開き、とても元気に熱く語っていました。学生はこのようなところを良く見ています。小さな会社でもコンプレックスを感じることなく、胸を張って学生さんに「自社」を直接訴えることが共同求人です。現在の広島同友会の就職ガイダンスの参加人数は、地元新聞社のガイダンスよりも多くの人数が集まるようになりました。このようなボリュームも大事です。宮城同友会でも、たくさんの企業が参加して、共に手を携えて「中小企業はすごい」という運動を広げていただきたいと思います。
 各地の同友会が互いに交流しながら、「中小企業こそが日本の経済を支えている」という運動を是非やっていきたいと思っています。「共同求人」を通して企業が発展するような同友会づくりを進めていきたいなと思っております。

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