No.206(2008年8月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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発行日/毎月1日発行

第38 回中小企業問題全国研究集会・第16 分科会報告

生活者の声をとらえ、 市場を創造し続ける
ソリューション企業


アイリスオーヤマ(株)
代表取締役 大山 健太郎氏

 プラスチック製造業として出発した創業当時から、 本当のお客様は 「生活者である」 として、 小売店に直接お届けすることで 「生活者」 の声がダイレクトにフィードバックされ、 「グローバル業態メーカーベンダー」 として発展し続けるアイリスオーヤマ。
  その原動力は大山社長が提起する 「ユーザーイン発想」 に基づく取り組み姿勢が全社に徹底されているからです。 3月に行われた 「全国研究集会・第16見学分科会」 の報告内容を要約してお伝えいたします。

プロダクトアウト経営からの脱却

 本来、 メーカーというのは問屋や商社を経由して小売店やお客様に接するのが基本です。 当社も 50年前のスタート時は製造オンリーの会社でしたが、 現在はメーカーベンダーという形になりました。 日本のものづくりをしている会社の基本はプロダクトアウトの経営です。 その会社にしかない独自の技術・設備・材料などがあり、 それらを活かした中で、 いかに競合するメーカーや商品より品質が優れているものを安く作るかというのが、 ものづくりの基本だと思います。
  わが社も1966年に、 海に浮かんでいる産業用のブイを開発してメーカーになりました。 同業者よりも良い商品を安く作り販路を拡大する際、 数量というのは原価を安くする一番の秘訣です。 水産である程度の売上げを上げ、 その後農業の分野に目をむけ育苗箱や農業資材の商品づくりを行い、 品揃えの拡大を図りました。 シェアが拡大するとブランド価値がアップします。 プラスチック製品の特許もいろいろと取得し、 品質の向上にも努めてきました。 2、 3年前に買っていただいたお客様が、 また当社の商品を買われるという繰り返しが一番効率が良く、 プロダクトアウトの経営でどんどん会社を大きくすることができました。
  しかし、 プラスチックの原料は全て油からできています。 オイルショックのときに十数年間培ってきた会社の財力が、 2年という短い期間で底をついてしまう経験をしました。 製造業はもろに好不況の波をかぶってしまいます。 しかし、 景気が悪くても売り手市場の業種、 メーカーはあまり景気に左右されないというのが現実であり、 オイルショックを通じてそのことを学びました。 わが社の工場には金型がたくさんあります。 プラスチック成型業は全国にもたくさんありますが、 当社は成型業ではなく金型投資業という形でオンリーワン・優位性を取ろうと考えたわけです。

わが社の企業理念

 わが社は企業理念の第一条に 「会社は永遠でなければいけない」 と掲げております。 今年も新入社員を百数十人迎えることができました。 会社を存続するにはオイルショックが来ようと何が来ようと、 いかなる環境においても利益が出る仕組みを確立しなければなりません。
  競争の少ない業種、 あるいは競争相手がたくさんいても、 自社にしかないサービス・商品を持てば競争から逃れることができ、 付加価値や利益を生み出すことができます。 当社は生活提案型企業として市場を創造し、 そのパイオニアとして市場を創造してきました。 最近のペットブームのように、 常に生活者の視点で市場を創造し顧客作りを行っていけば、 いかなる時代においても利益の取れる仕組みはできるであろうと考えています。
  「社員を雇用する」 これが地域にとって一番大事なことです。 そしてその利益が税収に変わり社会貢献を図るという形で善の循環が始まります。 社員は働くために入社します。 企業は働く社員のために雇用の場を与え、 企業は社員を大事にします。 そして、 大事にするから働く社員がもっと頑張るという仕組みづくりを我々は目指しています。
私が一番大事にしている言葉があります。 「常に高い志を持って常に未完成である」 これは、 「未完成な企業には成長力がある」 ということにつながると思います。 昨日まで完璧な企業でも、 「今日」 に対応できるかは未知数です。 これは、 常に組織を完成に近づける努力を惜しまず好不況に左右されない経営をするということであり、 オンリーワン商品をたくさん作ることにより、 bP経営をやろういうことです。 オンリーワンというのは競争の無い社会、 bPというのは競争のある中で一番ということです。 中小企業は小回りが利きます。 自分が得意な分野、 マーケット、 地域の中でオンリーワン経営を目指そうということです。

商品開発の視点は 「ソリューション」

 そこで主力製品のひとつである 「園芸用品」 を30年前に手がけるにあたり、 業種転換には3つのルールがあると考えました。 1つは自社の強み、 2つめは収益性があるか、 3つめは目先が儲かっているということではなく、 将来性があるかが問題です。
  実際、 「園芸」 がここまで伸びるとは想像していませんでしたが、 間違いなく伸びるという確信の下、 当社で持っている育苗箱の技術を活かし園芸用品を開発し、 どんどん商品を作りました。
 そして25年前、 年間を通した商品開発としてペット用品の開発にも着手したのです。 市場がまだ確立されていなかった中で、 ペットは家族の一員であり、 家庭の中でペットが飼えるようにというコンセプトのもとで開発を行い、 今までにはなかった 「癒し」 というマーケットの拡大に成功しました。
  もう一つの主力商品として、 「クリア収納」 があります。 昔からあった収納箱は色がついていて中身が見えませんでした。 「中身が見えれば便利」 誰でも考えそうなことでしたが、 誰もやらなかったし、 やれなかった。 20年前、 我々は原料から開発を行い、 世界中が透明の収納容器に変わりました。 当時、 同業者がすぐに50社にものぼり、 コピー商品があっという間に出回り、 需要よりも供給が多くなり、 投げ売りが始まりましたが、 我々はいち早くアメリカやヨーロッパに工場を作り、 日本のソリューション (問題発見・問題解決) 市場を広げることができました。
  現在、 競合メーカーは大半が廃業・撤退し、 3社のみになりました。 一時は良くても自社の強みがなければ価格競争に巻き込まれ、 いずれは廃業に追い込まれてしまうということを、 身をもって体験したわけです。
  では、 わが社はなぜ次々と対応・開発ができるのか、 それは自分の生活の中で 「不満・不便」 を発見するという、 実に簡単なことです。 「こんな物が欲しいな、 ここが不便だな」 と思えば、 少し変化させる、 欲しいものを作ればいいわけです。 ソリューションの目線で物事を考えると商品開発は比較的楽です。 問屋さんは実績のあるものしか扱いません。 当社は自社で作ったものを、 直接店舗に必死になって売り込んできました。 そのおかげで提案型商品が売れる仕組みづくりが出来ました。

メーカーからメーカーベンダーへ

 納入額がbPになると売り場はアイリスの商品が多くを占め、 「ベンダーサービスはできないのか、 問屋のサービスをしてくれなければ困る」 という要望が出るようになりました。
  問屋経由で商売をしたほうは確かに楽ですが、 やはり、 自社の製品は自社の手で売ろうと決断し、 ベンダーの道を歩き始めました。
  ベンダーを確立するために10年程かけて、 各地に新たな工場を必死で作り、 人を集めベンダー教育をし、 商品供給をする形を作り上げ、 現在は問屋との取引は一切無く、 日本全国のホームセンターや大手のチェーンストアへ全て我々が直接商品をお届けしています。 物流の無駄も非常に少なくなりました。 我社のものづくりは、 「作った分だけ売ろう、 売れたものをつくろう」 ということを原則にしています。
  こうしてわが社では、 小売店やお客様のニーズに合わせた商品を提供できる仕組みを作りました。 「売れたものをつくろう」 という発想やサプライチェーンマネジメント (供給業者から最終消費者までの業界の流れを統合的に見直し、 開発・調達・製造・発送・販売といった各プロセス全体の効率化と最適化を実現するための経営管理) の確立を図ることがまさしくオンリーワンになるのです。 また、 普通の会社では8〜10年しかもたない機械を、 わが社では25年もつようにメンテナンスを行っています。 機械を高稼働させてコストを下げるのも一つですが、 長くもたせることによって原価を下げるというのも減価償却の発想のひとつだと思います。
  わが社はオンリーワンメーカーであり、 お客様からの信頼があるので原料が2倍3倍になっても多少の値上げは可能です。 しかし、 価格幅によってはやはり買い控えが出て、 売上げが減れば原価がアップしてしまいます。 当社のプラスチック製品の売上げ比率は約4割ですが、 そのような意味からしても、 いろんな素材を持つ必要があります。
  そこで、 当社の工場は従来のメーカーとはまったく発想の違う工場作りをしており、 大連の工場ではプラスチックの成型をはじめ、 一方では全ての金属製品、 家具の材料であるパーティクルボードまで生産しています。 しかし、 技術革新の中でのものづくりのオンリーワン技術というのは結局一時の問題です。 それよりも大事なのは 「流通力」 を持ったときに市場を支配することができるのではないかと思います。
  もちろん流通力を得ても、 長くオンリーワンになるとは限りません。 ただ、 オンリーワンの技術よりオンリーワンの流通力を持ったほうが強いのは事実です。 この二つをいかに兼ね備えるかがとても大事になってくるということです。

これからは 「安心・安全・健康」

 わが社では、 家庭での 「安心・安全」 をテーマにホームセキュリティに取り組んでいます。 私たちが普段の生活の中で不満・不便というものを1つずつ解決していきたいと考え、 数十万円もするセキュリティシステムに変わるものとして、 一般家庭でも普及率が高くなるように、 安価で取り付けも簡単な 「センサー」 作りを行っております。
  また、 健康というテーマでは、 どんな小さなガンでも発見できるPET検診 (陽電子放射断層撮影) の推進活動を行っています。 普通では15万円程かかる高額な検診料金を半分に抑え、 その一部をわが社で負担し、 少しでも検診率が高くなるようにと、 社会貢献事業の一環として取り組んでいます。
  「安心・安全・健康」 というテーマについては、 収益事業ではなく社会貢献事業の一環として、 今後も積極的に取り組んでいきたいと考えております。

今月の内容

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