No.202(2008年5月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

“会社づくり”と“地域づくりを両輪とした実践

「若者たちの 『ここに生きる』願いを叶える取り組み」

(有)もちっ小屋でん 社長 狩野千萬男氏

  「米ていら」 といえば、 栗原市一迫にある“(有)もちっ小屋 でん”の人気商品です! 「米ていら」 は3年前に地元・一迫商業高校の生徒たちとデュアルシステムで共同開発した米で作ったカステラ。 今回は、 地域と共に歩む狩野社長の取り組みについてご報告いたします。

1、 わたしたちは、 ふるさと讃菓を、 地域の幸、 誇りの味で提供します
1、 わたしたちは、 ほっとする幸せづくりに、 貢献します
1、 わたしたちは、 毎日が創意、 培った技で、 未来(あした)をめざします


【もち文化を守りたい!】

 栗原は県内有数の米どころ。 ここで培われたもち文化を地域や次世代に伝えているのが、“(有)もちっ小屋 でん”。 1995年に設立した会社です。 社長の狩野氏は栗原市一迫の役場につとめていて、 定年まであと3年というところで退職、 起業しました。 地元の米を加工した昔懐かしい“しんこもち”や“やきもち”は食べると思わず顔もほころび、 自然に会話も生まれます。
  「お米はとっても働きもの!」 そう語る狩野社長は、 伝統を守りながらも新しいもち文化の創出にも精力的に取り組んでいます。

【デュアルシステムの取り組み】

昔懐かしい味の「やきもち」と「しんこもち」

 地域を思う心も人一倍強い狩野社長は、 一迫商業高校が第77回選抜高校野球大会 (2005年3月) に、 東北地区代表で甲子園初出場を果した時、 「甲子園にいクッキー」 「激励ーズンパン」 をつくって練習でお腹を空かせている生徒たちに届けるなど地域の中に入って活動していました。
  その後、 一迫商業高校では、“デュアルシステム (生徒たちが学校で学びながら地域の企業で職業教育を受けるシステム) ”に取り組んでいました。 (デュアルシステムは、 地域の企業と連携し新商品の開発を行う 「企業家研究」、 年間30日程度の 「企業実習」、 空き店舗を利用してチャレンジショップを運営する 「販売実習」 の3本柱で地域に密着した活動を行います。) 3年前、 一迫商業高校からデュアルシステムの受け入れを依頼された狩野社長は、 自社の理念を説明しこの仕事内容でよければとデュアルシステム運営委員会に理解してもらい、 「地域貢献」 のひとつとして、 1年目は11名、 2年目は8名、 3年目も8名も実習生を受け入れました。

【地域の担い手を育て、 共に考える】

実習生と共同制作した「米ていら」と「夢・持ッちーず」

 デュアルシステムに際して、 特に時間をかけたことは、 生徒に経営理念を説明してきたことです。 狩野氏は、 2004年同友会に入会、 同時に 『第16期経営指針を創る会』 を受講しています。 10年間夢中で走ってきて70歳を目前にしたとき、 今後の会社の方向性、 自分の考え方をしっかりしないと自分ももち文化もこのままで終わってしまうという危機感をもっていました。
  経営理念づくりの過程で、 伊達藩政時代からの 「百姓と米づくり」 の歴史を辿り、 もち文化は農民の豊かな知恵から生まれたかけがえのないご馳走であることをつき止めます。 そこから 「私たちは、 ふるさと讃菓を、 地域の幸、 誇りの味で提供します」 という経営理念が誕生します。
  このもちが持つ文化を伝え、 地域の米を加工することで付加価値を生み出し、 さらに米の偉大さに気づいてもらい、 食料自給率を向上させ、 農業の振興を目指していること。 独自性のあるものづくりを栗原から全国へ発信し、 そして地域に根ざす中小企業が、 この地域で生きるためにもいい経営環境をつくろうとしていることを伝えてきました。 「生徒が地域に入っての地域教育というのは今の時代、 とても大事だと考え自習を受け入れてきました。 生徒たちは短期間でプロになれるわけではないし、 新商品の完璧な完成まではできないのです。 ただし、 一番大事なのはそのプロセスであると思っています。 ものの見方や考え方というプロセスを大事に捉え、 実習を行ってきました」 と狩野社長は語ります。
  生徒の企業実習が終わったあとも、 社内で試行錯誤を重ねて生まれた夢は、 1年目は 「米ていら」 【商標登録】 (第10回みやぎものづくり大賞グランプリ受賞)、 2年目は 「夢・持ッちーず」 【商標登録】3年目は 「みやぎの幸・福米包み」 【商標登録出願中】 (ギョウザ風の惣菜) というお菓子・お惣菜となって毎年表現されていきました。

【企業づくり=人づくり】

 会社としても、 生徒たちの受け入れ体制をつくる必要があり、 また生徒たちの夢をどう形にしていくかという計画も必要でした。 社員であるおばあちゃんたちも、 ケーキのつくり方を熱心に勉強したり限られた材料と設備の中で最大限の工夫をしたりと、 自分たちの仕事を理解してもらうために切磋琢磨をし、 会社にとってもよい影響をもたらしました。
  生徒と接することで自分たちの仕事が地域に入り込むという責任、 生徒たちの夢にかかわる仕事をしているという使命感、 働くことの楽しさを世代を超えて共有する喜び。 デュアルシステムが終わったあとに、 「お菓子の職人になりたい」 という夢が生まれた生徒や、 将来の夢をかなえるために進学を決め、 そのための努力を楽しんでいる生徒が生まれています。 そして、 高校の志望倍率が減少するなかで、 一迫商業高校に行ってデュアルシステムをやりたいという中学生が増え、 市内の高校で唯一志望倍率が伸びているということです。 一人でも多くの若者が地元で夢を実現できるように働く場をつくりたいというのが狩野社長の夢でもあります。

【中小企業=地域=学校】

囲炉裏を囲んで行われる狩野社長の食育授業

 最後に、 奈良県の方からのお手紙の一文から。 「この度、 娘がおみやげに買ってきた“米ていら”があまりにもおいしくて、 新聞記事を読ませていただき感激しています。 狩野社長、 “もちづくり”を生かして“パンづくり”へ。 一迫商高の先生方、 また若い生徒さんたちすばらしいですね。 私たち消費者が安心して食べられ、 一番新鮮な地元の食品をこれからも提供してください。 すばらしい皆さんにエールを送ります!」
  「学校と地域」 という新しい関係をつくり、 地域に誇りをもった大人たちが単なる授業という枠をこえて生徒たちと取り組む。 そして、 大人と若者が共同で開発した新商品が、 地域から外へ発信されて感動となって返ってきます。 地域の歴史や文化を掘り下げ、 現代の人々の知恵と工夫を加えることで地域の可能性を広げたいという新しい夢を一つずつ実現しながら・・・。

今月の内容

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