No.199(2008年2月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
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発行日/毎月1日発行

第6分科会 設営:泉地区・白石蔵王地区

一粒の種子に人類生存の願いを込めて!!
〜自然、 歴史、 風土など地域の資源に深く根ざした仕事づくり〜

(株)渡辺採種場
社長 渡邉穎悦氏

白菜の品種改良から 「松島交配」 の誕生

 私は昭和58年に社長になりました。 職業は種苗業、 いわゆるタネヤで専門は育種を主に品種改良の仕事に携わってきました。
 野菜の種のメーカーは日本全体で約30社あり、 東北のメーカーは当社のみです。 ひとつ品種を作るのに平均12〜3年、 長いものになりますと25〜30年かかります。 ですから育種の仕事は先々のことを見据えながら取り組まないといけません。
 創業は大正11年、 私の父が宮城県の農事試験場を退職して始めた仕事です。 そのころは日清日露の戦争に従軍して中国に行った兵隊さんが結球白菜があることを知り、 種子を持ち帰って栽培が始まったばかりで、 種子の採り方、 栽培の仕方などよくわかっていませんでした。 官公の試験場はほとんど穀類の育種で野菜はあまり手がけていなかったので、 父は白菜の育種を最初の仕事に選んだわけです。
 民間の育種事業としても草分け的なものと言えます。 大変幸運だったのは@比較的早くいい品種が育成できたことA種子を採る場所として融離条件のよい松島の島々を利用できたことB宮城県内に白菜の栽培に適した北上、 鳴瀬、 阿武隈という三大河川の沖積地帯があったことなどです。 さらに、 熱心な農家の方々の努力で、 全国一の白菜産地が出来上がり 「仙台白菜」 の産地銘柄で広く知られるようになると共に、 その種子 「松島白菜」 品種も全国に広がったという経緯です。

創業者の思いを胸に社会貢献を

 農業は国の本と言われ種はその農業の本です。 種は生き物です。 普通2〜3年ほうっておくと芽が出なくなり生命が絶たれます。 種の良し悪しは、 作ってみて初めて分かるものなのです。 その品種としての品質は遺伝的な純度が高いか低いかということ。 それから種そのものの品質としては、 よく芽が出るかとか病原菌がついてないかとかいうことです。 外から見てもわからない商品ですから信用を買ってもらうことになるわけですね。
 その種を蒔いた後は、 天候・地力・それから農家の人の技術など多くの要因が総合されて収穫に結びつくのです。 さてどうやって新しい品種を作るかといいますと、 まず育種の材料を手に入れなければなりません。 もしなければ人為的に作り出さなければなりません。 ここにバイテク技術を使う場合もあります。 通常は従来の育種技術を使って取り組んでいます。 1つの例として私のところで日本で一番最初に、 ネコブ病抵抗性の白菜の品種を開発した話をします。 白菜、 キャベツ、 カブなどのアブラナ科野菜では、 昭和40年頃から連作障害で根っこにこぶがいっぱいできる病気が出はじめました。 この病気はいったん発生しますと、 なかなか畑から取り除くことが出来なくなります。 病原菌は10年ぐらいは生きているんですね。 昭和40年代はそれに効く薬の開発も大変遅れておりましたので被害が増え、 何とかしてその抵抗性品種を早く作らなければということで、 わが社は総力をあげて取り組み、 幸い、 日本で一番早く世に出すことができたのです。 実は白菜にはネコブ病に抵抗性の遺伝子がなく、 近縁のものに強い材料がないか、 探しましたら、 ヨーロッパで家畜の餌にするカブにあったのでその遺伝子を白菜に移しかえる仕事をしたわけです。 それに13年かかっております。 ほぼ1年に2回ずつ世代を進めながらですから20世代以上経過しているということなんですが、 1年に1回ずつ進めれば、 それこそ30年以上もかかる仕事なわけです。 扱った個体数はおそらく100万を超えるかもしれません。 それだけの個体数を扱いながらやっと作り上げたわけですが、 育種の材料作りの過程とはこういうものなのです。
 育種の仕事をするには技術者の養成が大切です。 育種、 栽培、 検定技術を持った者でないと、 しっかりした仕事ができません。 その他に農場がないと栽培もできませんし資金もある程度ないとできません。 またこうして10年〜15年かけてつくり出しても売れる保証はどこもありません。 むしろ失敗することの方が多いのでそれに耐えられるだけの企業体力もないとやれません。 成功率は低く、 当社でメインに取り組んでいる白菜では、 1年に600ぐらいの組み合わせを作りますが、 その中から新しい品種として発表できるものが1つあるかないかという確率です。 ですから、 育種事業に新しく参入する企業はあまりないのです。 その上、 種のマーケットも非常に小さいです。 野菜の種子のマーケットは輸入野菜の影響などで、 右肩下がりになっております。 その点、 花は一鉢200〜300円、 500円という値段で売れるものが多く、 大手企業がやるものですから宣伝もされますのでそれに伴ってマーケットも大きくなっています。 ところが種は、 非常に単価が安い。 特に野菜の種は農家がそれを作って得られる収入の1%前後です。 小さいマーケットのうえに、 15年も20年もかかって開発し、 それだけの売り上げにしかならないので現在は種を輸出しながら経営をしている会社が多くなっている状態です。
 しかも私どもの会社では父親がこの仕事を始めるにあたって 「とにかく良い品種を作って世の中の役に立とう」 と言っていたものですから、 それを受け継いで育種の仕事に取組んでいるわけです。
 育種の仕事はこのように長い年目がかかる仕事ですから、 会社が存続しないと続けられません。 それで 「拡大より継続」 ということを経営理念に訴えているわけです。 それから会社の応接室に 「道法自然」 という額を掲げています。 韓国の全国農業技術者協会会長・柳達永氏の書で 「道は自然を法とす」 と読むようで、 どんなことをするにしても自然をお手本にしてやりなさいということなんですね。 人間がどんなに科学を発展させても反自然的であれば自然の摂理には敵わないということです。

環境問題の危機

 現在、 環境問題がクローズアップされています。 農業も環境が変わってくると、 中身も変えていかないと対応できません。 特に地球温暖化に関しては、 まさに地獄がやってくるという恐ろしさを感じずにはいられません。 温暖化が進んだときに、 どんなことが起っているかというと、 アジア太平洋では土壌劣化や砂漠化が進んでいます。 それから土地利用の変化に伴って森林環境が悪化して、 生態系に影響してきています。
 大気についてはオゾン層の破壊と大気汚染などがあり、 廃棄物管理の問題では、 飲み水や衛生の問題が起こってきます。 それから災害としては、 一方では洪水が、 一方では干ばつが起こるなど、 異常気象が頻発するといわれています。 この辺の詳細については、 アメリカの前副大統領のゴア氏 「不都合な真実」 や山中良一著 「温暖化地獄」 などをぜひご覧いただきたいと思います。
 少しずつ進む小さな変化が、 ある日突然に大きな異変をもたらします。 私どもも育種に携わってきて、 目に見えない小さな異変がある時点を超えると突然変異として出てくることを経験しますが、 そういう現象が自然界に起こるということです。 温暖化が進むと、 生態系が変わり、 農業生産にも影響を及ぼす水の制約があったり、 穀物不足も起きるでしょう。 現在、 中国では黄河の渇水が問題になり始めています。 上流でかんがい農業が広がったために下流では水がなくなっているのです。 これは中国の食糧生産に大きく影響しています。 また温暖化で両極の氷が溶けて淡水塊ができ、 海流が変化してヨーロッパに冷害をもたらすことが予想されています。 海水の温度が変化すれば魚の生態系も変わり、 北の方で南の魚がとれたりします。 空気中の炭酸ガスは海で三分の一ほど吸収されますが、 その量が多くなると海水の酸化が進みます。 そうすると炭酸カルシウムで殻を作っていたサンゴなどが生きていけません。 それからアメリカやブラジルを中心にエタノールを作るための農作物を作ろうという流れが、 どんどん進んでいます。 そうすると、 本来食糧生産に用いられるべき有機質が欠乏します。 食糧生産のほうにものすごく影響が出てくるということですね。 ですから必ずしもバイオエタノールは諸手をあげて歓迎するべきものではないのではと思います。 ただでさえ人口は増えているわけですから、 その食糧を生産する上ではよく考えていかなければならないと思います。 わが社の役割としては、 微力ですが、 こうした栽培環境の変化の下でも何とか適応できるような野菜品種を開発し続けることを考えています。

命のバトンを受け継ぐために

 資本主義は大きく二つに分かれます。 一つはアングロサクソン型 (アメリカ、 イギリス型)もう一つはドイツ型。 本来、 日本経済はドイツ型に近いものでした。 アングロサクソン型の株主主権に対し、 従業員も企業の主権を持つというのが以前の日本型経営だったわけです。 そういう日本型やドイツ型の経営は、 アングロサクソン型にとっては邪魔なんですね。 強いものが勝つ、 そういう構造にしたいというのがアングロサン型ですから環境が少しずつ悪化してきているということが実はシグナルなんですが、 残念ながら今はこのアングロサクソン思想の人たちが世界を牛耳っているものですから、 環境に配慮した経済になかなか直せないのです。 産業革命が始まった時代を0としてそこから2℃平均気温が上がると、 もはや地球は元に戻らず破滅にまっしぐらということが数字的に裏付けられています。 しかし地球そのものにとってはどれだけ炭酸ガスが増えようと、 温度が上がろうとまったく関係ないですね。 地球は地球で存在するわけですが、 人間は生きていけないはずなのですね。 環境問題を切実な問題としてみなさんに関心を持っていただき、 少しでも人類に悲劇が起こる時間を遅らせる、 その間によい方法が見つける。 それに向けてみんなで頑張るしかないと思います。 私は仕事を通して、 そのことを強く感じています。


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