No.199(2008年2月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

第2分科会 設営:青葉地区・県北支部

社員と共に歩む経営指針の実践で企業革新

     

パネラー
(有)ほのぼの介護
社長 澤田 修次氏

 

パネラー
東北黒沢建設工業(株)
社長 佐藤 正之氏

 

パネラー
(株)ティーティーシー
社長 阿部 明雄氏

 

コーディネーター
太陽建物(株)
常務 森 知一郎氏

はじめに

森】経営指針の成文化は経営革新の出発点であり、 企業経営に生命を吹き込むものです。 そして、 何よりも、 経営者の生き方、 姿勢が問われます。 今回のパネラーの皆様は、 成文化後1〜2年の方々です。 成文化の際、 どのような葛藤、 苦しみがあったのか?また、 成分化後、 どのような変化があったのか?報告を通して深めていきます。 それでは、 自己紹介をお願い致します。

自己紹介

澤田】(有)ほのぼの介護は6期目を迎え、 高齢者の訪問ヘルプサービスとケアプランなどを作成する事業を主に、 (有)ひだまり介護は5期目を迎え、 障害を持った方のヘルプサービス、 小、 中学生の放課後のケアをするデイサービスを主な事業としております。
 自社を取り巻く環境は、 介護保健法、 障害者自立支援法の改正により、 報酬が下がり、 厳しい状況です。 国に財源もなく、 この先どうのようになっていくかが、 私たちの進む道に大きな課題が投げかけられております。 私たちは国の制度にふりまわされない、 本当にお客様に喜んでもらえる会社づくりを目指し、 社員と共に、 取り組んでいます。
阿部】コンピューターの業務ソフト開発、 及び販売の仕事を行っています。 7期目に入りました。 業務ソフトとは、 小売業、 製造業、 流通業などの業種のソフト開発で業種は多岐に渡ります。 流通業界で言えば、 納品書や請求書を発行するソフト、 在庫管理するソフト、 製造業で言えば生産管理で、 在庫管理や原価管理などです。
佐藤】わが社は父が創業者の解体工事業で26期目に入りました。 現在は解体工事業の他に中間処理業も営業しており、 コンクリートの破砕と再生砕石の販売を仕事としています。 解体工事業というのはバブルを境に仕事が増え確立したまだ新しい業界です。

受講前の会社の状況は?

森】 『経営指針を創る会』 受講前の会社の状況を教えて下さい。
澤田】私が起業した当時は、 介護保険が始まった翌年でしたが、 携わる事業者が少なく、 あまり苦労せずに売上が右肩上がりに上がっていくという状況でした。 私は経営者の仕事は、 社員に給料を払い、 雇用を守っていくことくらいにしか考えていませんでした。 全く経営者としての問題意識が無いまま受講したのが本当のところです。
阿部】わが社の業務ソフト分野というのは設備投資型です。 一つはお客様である地元の企業が厳しい状況にあるということ。 もう一つは既製品の安価で高性能なソフトが急速に普及し、 生業にしてきた自社用のソフト開発の市場が、 縮小してくるという状況。 その中でどの方向に向かって、 何をしたら良いかが分からず悩んでいました。
佐藤】直接のきっかけは同友会を紹介して頂いた会員の勧めからです。 当時の私は経営者としての自覚が甘く大失敗をしていました。 安易に歩合制を導入し、 社内では 『自分さえよければ』 というギスギスした雰囲気をつくりだしていました。 結果、 歩合制は辞めましたが、 そんな状況の中で、 経営指針を受講しました。

成文化の中でふれた社員の気持ち

森】経営指針を成文化する中で、 経営者として気付いたことは何ですか?
阿部】成文化をきっかけに社員と話し合いをする中で、 初めて気付いたことがたくさんありました。 『わが社はみんな無責任で誰も真剣に取り組んでいないのでは?』 など厳しい意見も出ましたが、 うれしかったのは、 社員は会社をどうにかして良くしたいと考えてくれていたことです。 私が経営者として踏み込んだコミュニケーションの場をいかにつくってこなかったということです。 わが社の経営理念には 「夢を叶えるソフトウェア」、 「思いやりと情報技術の融合」 という文言が入っています。 技術だけではない 「幸せ、 豊かさ、 生き甲斐」 を感じられる会社をつくっていこうというみんなの思いを込めました。 成文化とは社員の夢や想いを明文化することだと感じました。
佐藤】私の場合は一人で成文化し、 挙げ句に失敗したというのが本当のところです。 成文化後、 社員を集めて発表会をしましたが、 当然、 社員には全く伝わりませんでした。 現在、 一から社員と一緒に成文化している最中ですが、 大切なコミュニケーションの場になっています。 成文化が目的なのではなく、 それを通して社員と話し合い方向性を確認し合うことが一番大切なのだと痛感しています。
澤田】私は 『経営指針を創る会』 で 「逃げている」 とか 「金のことしか考えていない」 など様々な助言を頂きましたが当時の自分は受け止めることが出来ませんでした。 結局は 『売上が上がれば良い』 ということしか考えていなかったのです。
 しかし、 『経営理念は社員と一緒に創る』 と教わっていましたから、 社員と一緒につくりました。 社員は会社のこと、 利用されるお客様への思い、 もっと良い仕事をしたいという思いをたくさん持っていました。 恥ずかしい話ですが一番思いが無かったのは、 自分だったのだと思います。

成文化しいざ実践!しかし・・・

森】成文化後、 自社に持ち帰りどんな変化が起こったのでしょうか?実際見えた現実の課題と併せてお聞かせ下さい。
澤田】結局、 私自身が何も変われませんでしたから、 会社も変わらず、 幹部社員を含む3人が会社を去ることになりました。 しかし、 みんなでつくった経営理念は生きていました。 残った社員は一丸となって、 『お客様に迷惑をかけないようにがんばろう』、 『現場のヘルパーさんが不安にならないようにがんばろう』 と、 常にみんなでつくった経営理念を振りかえりながらがんばってくれました。
 しかし、 肝心の私は変われず悶々と過ごしてある時、 『人は弱くてもいいんだ』 と、 弱さを認め自分がどこに立つかを考えた時にがんじがらめの呪縛が解けました。 『経営者だからこうでなければならない』、 という理想に縛られていた。 自分が本当に恥ずかしかった。 そこに辿りつくまでに成文化から1年半かかりました。
阿部】会社に戻り、 経営指針の発表をした時に社員から 『こういうのを待っていました』 と言ってもらいました。 「良かったな」 と思いました。 しかし、 スタートラインに立っただけで、 経営理念があっても具体的なアクションが無いまま時間だけが経過しました。 結果、 右腕にしていた社員が辞めることになりました。 もし、 その社員が少しでも目標に向かって会社が変化していると実感していたら、 「辞める」 とは言わなかったと思います。 自分が情けなかったです。 経営指針を現実に形にしていくことは容易ことではなく、 本当に覚悟を決めて取り組まないと絶対形にはならないなと痛感しました。
森】現在、 佐藤社長は一から社員と一緒に成文化しているとお聞きしましたが、 その中で気付いたことがあればお聞かせ下さい
佐藤】解体工事という仕事は、 終わった仕上がりの状態はどこの会社がやっても大して変わり映えはしません。 それでは 『何が大切か?』 『何がわが社の売り物なのか?』 と聞くと、 お客様と 『楽しく仕事をしたい』、 『あたたかい気持ちで仕事をすすめていきたい』、 『自分達が成長しなければならない』 という意見が出ました。 私と同じようなことを考えていることに気づきます。 話し合いの場を通して改めて経営指針は必ず会社に必要なものだと再確認しました。

今後の展望については?

森】経営指針の重要性に気づき、 現在取り組んでいることを踏まえ、 今後の展望についてお聞かせ下さい。
阿部】形骸化していた月1回の全体会議を週1回のミーティングに変える、 朝礼のやり方を変えるなど、 とにかく 『変える』 というアクションをしています。
 仕事では必ず問題がおきますが、 目の前の問題だけを考えて、 3年〜5年を見据えていない行動をしていれば必ず行き詰まります。 我が社では、 目の前の仕事と、 将来的な仕事とを同時進行していく必要性を常に確認しています。 少しずつですが、 ちょっとした変化が見えるようになってきました。 非常にうれしいことです。
 また、 コンピューター業界は下請けの構造です。 最近までは、 大手企業が地方に仕事を出していましたが、 現在は全く仕事が無い状況です。 その中でわが社は地元の企業をお客様に直接、 販売しています。 地元の企業が活性化していない状況の中で、 わが社の変化と提供した仕事が、 必ず地域の活性化につながると信じ社員と共に自社、 地域に 『変化』 を起こしていく取り組みをしていきたいと考えています。
澤田】現在の私の仕事の90%が社員との対話になっています。 ほとんど現場には入っていません。 『社長と社員』 から 『人と人』 のかかわりをキーワードに、 社員が越えられない壁を一緒になって考えています。 社員一人ひとりは能力を持っていて、 力もあります。 その力を発揮できる環境づくりが私の大きな仕事だと考えています。 『この会社にいると成長できるという自信になった』 と言ってくれるようになりました。 社員が会社と共に成長できるように取り組んでいきます。
 (有)ほのぼの介護では今まで高齢者介護に関わる仕事をやってきましたが、 新たな取り組みとしてペット事業を立ち上げることになりました。 これは社員からの 『高齢のためにペットの世話ができない方々に応えることが出来ないか?』 という現場の意見から実現に至ったものです。 介護保険制度、 障害者自立支援制度を利用する方々だけがお客様ではなく、 その家族、 地域住民の方々にわが社の役割は何かを真剣に考えていかなければならないと考えています。
佐藤】現在、 一から成文化している途中ですが、 一部の幹部とだけで社員全員と話が出来ていない状況です。 今後、 社内全体で 『何のために働いているか』 を共有していくことが大切だと考えています。 また、 新しく入社した社員に、 生まれ変わった経営指針をどのように浸透させていくかも考えていかなければならないと思っています。
 20年30年先まで解体工事業は増えていくと思いますが、 業界全体が価格競争に陥っている状況です。 また、 解体工事業界の歴史が非常に浅いことからまだまだ解体業者に対する社会的地位は低い状況です。 しかし、 わが社の仕事は社会にとってなくてはならない仕事だと誇りを持っています。 とにかく経営者として@適正な価格で仕事をとってくる。 A命がけでがんばっている社員の生活を守り、 厳しい中でも自社を守っていく。 Bしかし、 その中で人間の優しさを感じられる社会をつくっていく。 少し値段は高くても 『東北黒沢建設工業だったら仕方がない』 と仕事が来る。 一緒に携わる業者も少しでも優しくなれて感動がもらえる。 そんな 『優しさ発信企業・東北黒沢建設工業(株)』 にしたいと考えています。
森】私自身も後継者として、 どのように事業を継承していくかをテーマに成文化しました。 経営者として、 人間としてのエゴのような部分があり素直に学べない点に非常に悩みました。 自分と向き合うことは大変勇気のいることです。 報告をして頂いたパネラーの皆様は、 成文化後、 自社での実践の際に様々な問題にぶつかりました。 しかし、 一番大事なことは学び続けるということです。 学び続けてこそ理念は本物になることをパネラーの皆様から学びました。 ありがとうございました。

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