今回は、 会員企業における経営指針の成文化と運用の状況について調査が行われた。 同友会の長年にわたる 「経営指針を創る会」 の活動が実り、 また経営者たちの努力によって多くの企業が成文化による効果を上げていることは大変嬉しいことである。 企業経営にとって最も重要なことは、 どのような商品をどのような顧客にどのように売るかという決定である。 経営指針は、 経営環境の変化に対応しつつその決定を継続的に導き、 そして力強く実行していくために求められる。 こう考えると、 経営指針の策定と実行にとって最も基本的なレベルで必要なのは、 自社の商品と想定される顧客に関する豊富な知識である。 商品と顧客に関する豊富な知識こそがほんものの経営指針の決め手となる。
J.W.ヤング (1886〜1973) という人物は、 米国の広告史に名を残した広告マンである。 彼は広告アイデアづくりにおいてこの知識の重要性を強調する。 著書 『アイデアのつくり方』 の中で彼が指摘したように、 私たちは、 商品と顧客について身近な知識をもつことの重要性を絶えず口にするけれども実際にはめったにこの知識の探求をやっていないのではなかろうか。 この知識の探求について、 ヤングは、 19世紀フランスの代表的な作家モーパッサンが小説を書く勉強法としてある先輩の作家からすすめられた勉強法を紹介している。 「パリの街頭に出かけてゆきたまえ。 そして一人のタクシーの運転手をつかまえることだ。 その男には他のどの運転手ともちがったところなどないように君には見える。 しかし君の描写によって、 この男がこの世界中の他のどの運転手ともちがった一人の独自の人物に見えるようになるまで、 君はこの男を研究しなければいけない」。 ヤング自身、 石けんの広告アイデアを探すのに、 石けんと皮膚と髪の毛との関係を研究し、 かなり分厚い一冊の本を書き上げ、 この本から5年間広告に使えるいろいろなアイデアを得たという。
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