No.208(2008年10月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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発行日/毎月1日発行

第40回 中小企業家同友会全国協議会 定時総会報告

去る7月10日 (木)〜11日 (金)、中同協第40回定時総会が埼玉県さいたま市で「人と企業を育て、地域の未来を担う同友会運動を」をスローガンに開かれました。今回は全18分科会の中から、第5分科会の「日本型中小企業憲章の骨格を探る〜ヨーロッパ・EU視察から学んだ教訓〜」のテーマで行われたEU視察の報告分科会の一部をご紹介します。
  第5分科会は大橋正義氏 ((株)大橋製作所社長、中同協政策委員長) が座長を務め、ヨーロッパ視察に参加した4名の報告者がそれぞれ、@競争原理によらない出来ない子を無くすというフィンランドの平等の教育理念からくる世界最高の教育水準についてA強い社会性が発揮され、地域が主役の個性的な町を形成するヨーロッパについて、B21世紀の中小企業政策の重要な柱と位置付け、Think Small First (小さい企業を第一に考える) の精神が脈々と生きている企業家精神の推進について、CEUという人類史上経験がない壮大な実験の中で中小企業及び小企業を最重視するという国家的戦略の定着について、報告しました。助言者の三井逸友氏 (横浜国立大学大学院環境情報研究院教授) からは、20年あまりのヨーロッパの中小企業政策の歴史と小企業憲章から現在進行形で発展を遂げつつある SBA (スモールビジネスアクト・小企業議定書) について報告しました。以上の報告内容を踏まえて分科会の最後に行った三井氏の助言内容と大橋氏の座長のまとめの一部をご紹介します。

三井逸友氏 (助言者) の報告の一部

憲章から SBA (スモールビジネスアクト) への動き


 憲章は制定後の検証が重要だと思います。UEAPME (欧州クラフト・中小企業同盟) では 『チェックも決して充分ではない。むしろ弱まってきている』 という不満の声がありましたが、毎年EUはレポートを出し会議を召集して実行のチェックをしています。ただ単にアリバイ的にやっているのではなく、検証の取り組みには各国政府関係者、EU関係者、そして中小企業団体等からも必ず参加し自分達の抱える問題点等を積極的にアピールしています。検証の取り組みの中で中小企業の声を聞くこと自体が重要な目標になっています。この取り組みは今後、日本型中小企業憲章の運動を考えていく上で大事なところの一つです。また、UEAPME からの問題点として 『憲章は完全な拘束力を持っていない。あくまで精神的な部分がかなりある。もっと強制力、拘束力のあるものを求めている』 ということを強調していました。それが実は現在進行形で発展を遂げつつあり SBA (スモールビジネスアクト・小企業議定書) というものが出てきています。その文案が欧州委員会の方から発表され10の原則が示されています。

  • 企業家と家族経営が繁栄し企業家精神が報われる環境を築く。
  • 倒産に瀕した正直な企業家は第二のチャンスをすぐに得られるようにする。
  • Think〜の原則に沿った諸規則を設定する。
  • 中小企業のニーズに応える行政機関を設ける。
  • 中小企業のニーズに公共政策のツールを適合させる。
  • 官工事への中小企業の参加機会を推進し中小企業への各国支援策をもっと利用しやすくする。
  • 中小企業の金融アクセスを推進し商取引における適切な支払い。(これはいわゆる支払い遅延問題、ここについての法的、事業的環境を築く。)
  • 市場統合から生じる機会から中小企業が一層利益を得るのを支援する。
  • 中小企業でのスキルの高度化とあらゆるイノベーション形態の推進を図る。
  • 中小企業が環境問題を事業機会と変えられるようにする (いわゆる中小企業にとって環境問題を経営の制約ではなくて、逆に新しいビジネスチャンスでもあるという考え方)、そして、いろんな市場の成長から中小企業が利益を得られるように奨励、支援する。

欧州委員会が出した文案ですから最終的にどうなるかはわかりません。個人的に言えば小企業憲章の格調の高い文章に比べて少し生々過ぎる気がします。こうした形で大きな枠組みが強制力を伴う形で形成され、それに合意されれば今後のEU各国、各地域の取り組みにとって非常に大きな推進力になることは間違いないと思います。Think Small First の考え方をあらゆる制度、政策に積極的に生かし、中小企業の声を反映させる。それが経済の発展、社会の安定につながるという共通理解が着々と進みつつあり、その為にヨーロッパの中小企業団体等は、いろいろ努力し声をあげている。こういう現実を我々は見ることが出来たと思います。

三井氏 (助言者) の補足報告

ヨーロッパの小企業憲章の制定以降の教訓は何か?


 『Think Small First (小企業を第一に) という原則をあらゆる面で反映させ、求め、実行していく』 これは SBA (スモールビジネスアクト・小企業議定書) のサブタイトルです。中小企業の為にある仕組みや政策が世の中を良くする、中小企業家の自己主張がはじめてより良い社会をつくるのだという強い意味を持っています。『中小企業の声に耳を傾けること』。EU が小企業憲章制定後少なくとも実行してきた重要な原則です。ヨーロッパには円卓討議という同じテーブルを囲み対等に議論し意見を出し合う場が設置されています。小企業憲章自体は白紙の文ではありません。理念を持っています。裏返せば中小企業の存在自体が理念を持っているということです。企業の社会的責任 (CSR) という視点から考えれば、ヨーロッパでは雇用機会、人材育成、失業対応の問題から、中小企業の役割が改めて評価されました。一方、日本においては戦後の経済発展、明治以来の近代化の流れで中小企業が果たした役割は、本来誰しもが認めるところです。しかし、それにもかかわらず中小企業で働く、経営することがマイナーであるかのような印象が振りまかれている。そうではない新たな社会をつくり上げていく為には、中小企業家の皆さんが声を大にして、憲章・条例を日本の中で実現していくこと以外にはないと思います。

大橋正義氏 (座長のまとめ) より


 今回の視察から日本型の憲章運動に生かしていく点は、一つは日本の強みと弱みを整理することです。ヨーロッパには、歴史に伝わる自治能力があります。日本は社会的にあるべき都市の自治が無い。私達自身も自治能力に欠ける部分がある。そこを克服することの必要性を学びました。ヨーロッパの歴史・文化を背景に、障害を乗り越え平和、経済、社会を粘り強く発展させる努力を続けているプロセスから私達は大いに学ぶことができるのではないでしょうか。
  二つ目は同友会運動の特に歴史・理念の先進性、私達の日常の取り組みが日本の未来の土壌作りを推進するものになっていくという確信です。 大きく前進している中小企業振興基本条例制定運動は地方対策の課題の解決や住民自治、地方自治機能を強化する運動に発展する可能性を秘めています。
  三つ目は日本の特徴をもった憲章運動を考えることの重要性です。 地方財政の危機、地域経済の衰退、社会保障、環境問題など、この問題の解決は誰がやるのか?やはり中小企業がその役割を高め、日本固有の問題や課題を明らかにし、先頭に立って行動するということではないでしょうか。憲章運動をさらに前進させることを改めて決意したいと思います。

 宮城同友会では今年度から各支部・地区で「中小企業振興基本条例の学習・制定運動」を本格的に起こしていくことが提起されました。現在、各支部地区役員会・仙台支部理事会・県理事会で1〜2名の「外部環境阻害シート」の発表をもとに、わが社の方向性と外部環境阻害要因、中小企業政策に関わる意見交換などの活発な討論がはじまっています。この「外部環境阻害要因シート」の書き込み活動は、自社の継続発展を妨げている外部要因、内部要因を整理し、自社の現状認識をもう一段掘り下げ、自助努力だけでは解決できない問題の改善に取り組む第一歩として行っています。現在の原油・原料の高騰などは中小企業の経営を急激に圧迫し、危機を深めています。自助努力と併せて外部環境まで視野を広げ、地域を担う中小企業が維持・発展していくうえでの「望ましい経営環境」を実現していくため、多くの幅広い「外部環境シート」の事例を集め、整理し、政策提言までに練り上げ、この運動を進めていきましょう。

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