No.192(2007年7月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
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発行日/毎月1日発行

女性部会総会

「生きる力」


社会福祉法人わらしべ舎 理事長 中村晴美氏

私の人間観

 私には一人娘がおりまして、 心臓病と知的障がいをもって生まれました。 娘が生まれたとき、 まわりの方々に娘の障がいのことを告げられない私がいました。 結果的には勇気を出して言ってよかった。 ごまかしていたら、 まわりの方々に顔向けができなくなるところでした。 今は理事長という立場にあっても、 私の障がい児の親としての人生は、 自分の弱さのなかで迷い、 悩んだなかで決心した、 そういうスタートだったのです。
 私が娘の障がいを受け止められるようになるには、 ある程度の時間も必要でしたし、 学生のときのボランティアの経験も影響していると思います。 東京の病院で長期入院の患者さんや子どもたちの学習指導ボランティアをしておりまして (夫ともそのボランティアで知り合いました)、 筋ジストロフィー患者さんのNさんという方と出会いました。 私たち学生や若者が訪問すると、 Nさんはいつも私たちをねぎらって感謝の言葉を言ってくださる。 何かお手伝いできることは、 と思うのだけれど、 Nさんは笑顔で自分のことは自分でしようとする。 手を出すのが逆におこがましいような思いでした。 難病で回復の見込みがない、 いずれは死に至る。 余命が決まっているのに自分ができることはやろうとする。 その前向きな生き方は胸に迫るものがありました。 私が結婚をして仙台に移ったあと、 Nさんが亡くなったと聞きましたが、 Nさんの前向きに生きている姿が私の人生観の原点になっています。

わらしべ舎を立ち上げることになったのは

 娘は7歳になって養護学校に通うようになりました。 でもあと2年早く生まれていたら、 娘は学籍すら得ることができなかった。 1979年、 重い障がいの方も学籍が得られるようになったのは養護学校が義務化となったからです。 私が送り迎えして娘は小・中・高と休まず通いました。
 卒業式の時期、 学校にはたくさんの来賓がおいでになり、 お祝いの言葉を述べてくださいます。 しかし実際は作業所が足りなくて、 卒業式の日にまだ自分の行く先が決まっていない生徒もいます。 こういう実態を、 在校生の親として出席していたときにずっと疑問に思っていました。 高等部を卒業する頃、 わが子も同じことになるのか、 娘の行く先はどうなるのだろうか……。 障がい者施設が足りず行く先がない障がい者がいることを行政に訴えても、 いつも 「実情はよくわかっています」 という回答でした。 「当事者の自分がなんとかするしかない」 と決心し、 障がい者の働く場所、 生きる場所、 生きがいのある場所をつくろうと、 障がいを持ったお子さんを持つお母さん方と一緒にわらしべ舎を設立しました。

働くことで自立していく

 仙台郊外に一軒のアパートを借り、 作業場に改造しました。 私の娘を含めた障がいを持った人たち、 お母さん方、 ボランティアの人たちと一緒になって働く場で最初に始めたのは、 廃油を使ったせっけんづくりです。 毎週1〜2回、 近所の食堂やおそば屋さんに廃油をいただいて作ります。 協力してくださった方のなかには、 わらしべ舎の仕事を手伝うために昼間から夜間の高校にわざわざ移った先生もいます。 その他、 養護学校の先生、 指導員の方、 ボランティアの方々に支えられました。 そういう中で、 障がい者の人たちが、 「休みはいらない」 と毎日言うくらい、 嬉しそうに生き生きと働きます。 障がいを持つ人たちに、 当たり前のことを当たり前にさせたい。 その考えのもとに集まった多くの方々、 一人ではできないけれどみんなが集まれば何かができると思っています。
 現在は、 わらしべせっけんに水の浄化に役立つEM菌を入れて作っています。 水の浄化を西多賀のそばにある天沼 (あまぬま) で実証しようと、 地域の方にEM発酵液とわらしべせっけんを使っていただきました。 天沼は生活排水で汚れてしまった沼なのですが、 使い続けていただいたら、 水の透明度があがってきたのです。 公園の隣が西多賀中学校で、 化学部が一緒になって水質検査をしてくれたり、 老人会の方が公園のお掃除をしてくれたり、 地域の商店街・子ども会が缶拾いをしてくれたりして、 汚れた沼、 草ぼうぼうだった公園がきれいによみがえりました。 このせっけんが軸となって、 住民運動になっています。
 わらしべ舎は障がい者の親子が悩みを語り合うのではなく、 悩みをもとにしながらみんなで 「どういうふうにしていこうか」 と考える場所です。 だから、 年を取った人も、 若い人も、 男の人も、 女の人も、 障がいを持った人も持ってない人もいるし、 世の中のある部分をちょっと切り取ってみたら、 わらしべ舎があった。 ここにはいろいろな人がいる、 世の中の当たり前の構成の中に私たちもいる、 という実感を味わえる場所でありたいと思っています。  私もそうですが、 障がい者の親になるということは誰も予測しないことです。 でも娘がいてくれることで、 世の中で人を思いやる気持ちとか、 人として忘れたくないと思っても慌ただしい世の中で忘れがちな大切なことを、 私に忘れさせないでいてくれます。

ノーマライゼーション  〜“共に生きる”という考え〜

 ノーマライゼーションという言葉を福祉で使う場合は 「障がい者が差別されずに、 健常者とほぼ同等の生活ができる社会をめざす」 という意味です。 20年ほど前にデンマークのバンク・ミケルセン氏が提唱しました。 彼の没後にバンクミケルセン記念財団が作られて、 理事長を務めておられるのは日本人、 千葉忠夫さんという方です。 千葉さんが来日したとき、 数時間ご一緒してデンマークの話をお聞きしました。 驚いたことをお話ししますと、
 一つ目は、 デンマークには福祉という言葉がない。 なぜなら福祉的社会が当たり前なので、 あえて日本のように福祉と声高に言う必要がない。
 二つ目は、 税金が高い。 けれどもみんなが納得して納税している。 自分が高齢者・障がい者になったときは政府がきちんと面倒をみると、 国民が実感しているからです。 そこには自分だけが守られればいいという考えはありませんし、 日本のように自分の定年後の心配をして、 個々人でせっせと貯金をしている人もいません。
 三つ目は施設がない。 障がい者は特別な存在ではない、 地域の一員だから施設が必要でない。 日本のようなヘルパー制度はなく、 夫・妻・恋人・友人、 国が認めれば身内もヘルパーとなれて、 その費用は国が保障する。
 まだまだ驚くことがいくつもありますが、 全て、 国がそれなりの支援をすることで障がい者を含めた全ての人の人権が尊重され、 人間として心身ともに豊かに生きているのです。 これが世界一福祉の進んだ国・デンマークの 「ゆりかごから墓場まで」 です。 お別れの際に千葉さんが 「ぜひデンマークに一度いらっしゃい。 言葉を話せない娘さんの方がコミュニケーションを上手にとって、 お友だちをいっぱい作ると思いますよ」 とおっしゃいました。 デンマークの全てはできないまでも、 私もあきらめずに日本のなかでこういう社会づくりを目標に掲げて生きたい、 施設を運営していきたいと思っています。

“地域と共に学び・共に育ち・共に生きる”の実践

わらしべ舎での作業風景

 現在、 わらしべ舎には34人の利用者が通っています。 障がい者も自分たちでできることで頑張り、 その生き生きと仕事をしている姿を、 多くの人たちに知っていただこう。 そしてわらしべ舎を含めた地域の人たちの出会いと交流の場所をつくろう。 そう考えて 『カレーショップ桜蔵 (さくら)』 を作りました。
 カレーは職員スタッフが食べ歩きをしながら研究し、 試作に試作を重ねた自信作です。 私たちは“おいしいカレーを障がい者の人たちが作る”のであって、 “障がい者が作るカレー”を提供するわけではありませんので、 お客様においしいと言っていただけるカレーを作ることを心がけています。 最初は障がい者の子たちにもおどおどした様子も見られたのですが、 今では元気に 「いらっしゃいませ」 と声を出しています。 また、 お客様がすらすらと注文されたり、 注文の訂正をされたりすると、 障がい者の子は混乱してしまったりもしますが、 そういう体験を含めて私たちにはすごくいい勉強になっています。
 わらしべせっけん、 カレーなど商品の売り上げは全て、 障がい者の方たちのお給料として還元していますが、 支援活動に関わるところは国からお金をいただいています。 しかし自立支援法が施行され、 障がい程度の区分によって、 入ってくるお金が変わってしまいました。 後援会の方々のご協力もいただきながら、 私たちの運動は続けていきますが、 手狭になってきた施設を目の前にして、 第二施設をそろそろつくりたいなぁなどと夢ばかり追っている状態です。
 金子みすずという童謡詩人がいます。 彼女の詩の中に 「みんな違ってみんないい」 という言葉がありますが、 これがノーマライゼーションの考え方ではないでしょうか。 差別することなく、 「みんな違ってみんないい」。 一人ひとりがダイヤモンドだよと、 お腹のそこからそう思える人間になりたいと思うのです。

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