No.190(2007年5月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
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発行日/毎月1日発行

2007 新春講演会

「小さいからこそできる人づくり・会社づくり・まちづくり」 (後編)
〜高齢化を吹っとばす、おばあちゃんたちの葉っぱビジネス〜


(株)いろどり 代表取締役副社長 横石 知二氏



与えるシステムでなく使いたくなるシステムを

 私は、 商売をするのではなく 「仕組みをつくること」 が大切だと思います。 日本で上勝町ほど仕組みをつくっているところはないのです。
 まず、 日本で初めて防災無線を使っての電波送信を考えました。 たった1秒で送信することができます。 行政のものも全てみんなで使えればいいのです。
 そして、 日本で初めておばあちゃんが使えるコンピューターを開発しました。 コンビニの商品棚を見て 「必要な人に必要なものを必要なときに届ければいいんだ」 とひらめいたのです。 大型店にできない 「小回りと敏速さ」 を戦略にすればいいと思いました。 そのためにはどうしてもコンピューターが必要だったのです。
 議員さんに提案したら 「わしらに使えんもんが親につかえるか!」 とごもっともなご意見をいただきました (笑)。 そこで大手メーカー出身のコンピューターに強い同級生にシステム開発をお願いしました。 ところが、 導入した家に見に行くと使ってないのです。 「使うことがない」 と言われました。 このときに 「システムはこちらがつくって投げかけたらいけないんだな。 何が見たいのか?何でこのスイッチを押すか?を考えないといけないんだな」 いうことに気づきました。

自らヒットが打てる環境づくり

 社員が元気になる、 小さい会社が元気になるには 「出番と評価」 です。 自信がない、 やったことがない人に絶対空振りさせてはいけないのです。 コツンとヒットを打たせることです。 ホームランではなくセンター前にコロコロとヒットを打たせると、 「あっ!打てた!」 と思います。 そして 「次もヒットを打ちたいな!」 と思うのです。 これがとても大事です。 成功体験がある人は必ず成長できます。
 ですからコンピューター画面のなかで空振りをさせないようにするのです。 まずは個人情報である自分のやった成績と順位が出てきます。 おばあちゃんたちにとって 「何人中何番」 というのを見るのは面白くてしょうがないのです。 1番の人が北海道へ旅行に行くときに、 「3日休んだら、 2番の人に負けんかなぁ?」 と聞いてきました。 3日間いないうちに抜かれると思うとソワソワするくらい気になるのです。 やったことが目に見えることがとても大切です。 空振りを何回も繰り返すと人は自信をなくします。 「自分はダメなんだな」 と思ってしまいます。
 商品の動きは先読みをかけます。 ホテルの混雑状況や天候や結婚式の件数などの必要な情報が入ってきます。 1ヶ月で一番売れる日と売れない日で10倍も違うのです。 その売れる日に自分がコンピューターの前にいないとダメなのです。 (株)いろどりでそれらの情報を分析しておばあちゃんたちに発注します。 見たら得する情報だったら絶対に見たくなるわけです。 家にいながらスイッチひとつでどんどん情報が自分のものになるのです。
 人は日々の生活習慣からなかなか抜け出せないものです。 昔の上勝町も、 講師を呼んだり視察に連れていったら 「いい勉強になった。 ありがとう」 と言うものの家に帰れば元通りということが多かった。 変えないほうが安心できるから、 その上にどっぷり浸かってしまうのです。 上勝町が一番変わったのは、 「与えられている環境」 から 「自分の頭で考えるという習慣」 を一人ひとりが持つようになったところです。 講習会や研修会で学んだことが次へのステップにいかなければならないですが、 たいてい元に戻って前に進まないものです。

リーダーからプロデューサーへ

 ですから、 これからは 「リーダー」 が 「俺についてこい」 という時代から 「プロデューサー」 になって一人ひとりに力をつけて、 全体をレベルアップさせることをやらなければならないと思います。 リーダーだけが楽しんだらいけません。 リーダーだけが楽しんで、 社員や町の方々は動かないという場合がとても多いです。 上だけで楽しむのでなく、 一人ひとりが 「自分のこと」 として考えられるようになったら、 「何をしたらいいのか?」 という問題意識をしっかり持つようになります。
 この間、 80歳半ばのおばあちゃんがコンピューターを見ながら見学者に説明しているのを聞いてびっくりしました。 「あんた、 時間と情報が自分のものになったら田舎で商売するほうがおもしろいでよ!」 と。 「はぁ〜」 と思いました。 「これはすごい言葉だ!」 と思いました。

土俵を変える 「気」を育てる

  「人のせいにする」 というのは同じ土俵に立ってしまうからです。 「大きいスーパーができたからあかんようになった」 「ドコドコの産地ができてきたから農業がだめになった」 「うちの社長があかんからうちの会社があかんようになった」 とみんな人のせいにします。 これは土俵が同じだからです。 「自分の土俵をつくればいい」 ということに気がつかなければなりません。 朝青龍と私が相撲して勝てるか?1000回したって勝てるわけがありません。 でもみなさんなかなかここを気がつかないまま土俵に上ろうとするのです。 土俵に登る必要はないのです。 自分の土俵、 勝てる土俵を持てばいいのです。 だから自分に磨きをかけることなのです。
 コンピューターも、 やる気を育てるのが7割でデータを見せるのは3割で7対3なんです。 だからこちらから 「気」 を送ります。 「このくらいにしておこう」 というのを毎日ちょっとずつ頑張って100、 120となるのと、 80に落ちるのとでは年間で考えたら恐ろしいくらいの差に変わってきます。 だから、 最後は 「気」 だと思います。 「気」 を育てるのです。 私はいつも自分で手書きの漫画にコメントを入れてファックスで 「気」 を送ります。
 うちの会社にもコンピューターに詳しいスタッフはいます。 でもコンピューターだけをいくら使いこなせてもいけない。 スタッフには 「現場行って、 おばあちゃんのもとに行け」 と話しています。 「何を求めているか?」 を分からずしてコンピューターや道具は使えないのです。
 冒頭にお話ししたとおり、 上勝町の方々はとてもプライドが高かった。 プライドが高いことぐらい上手に発揮すれば力になることはありません。 プライドの高い人ほど、 負けたくないという気持ちを持っている人ほど、 妬みや恨みにならないように上手にツボに入れるとものすごくがんばります。 逆へ作用してしまうと大変なことになります。
 うちのシステムがどうして喧嘩にならないかというと、 全部事業家で区切っているからです。 一人ひとりが事業家としてやっているので、 情報ではつながっているけれど家が離れているから直接はつながらないのです。

「場面」 「価値」 「情報」 「仕組み」 が商売を変える

 商売は商品だけを考えても実は売れません。 「場面」 「価値」 「情報」 「仕組み」 の4つをどうやって組み合わせるかです。 徹底して自分が商品に対して場面を考えます。 「どうやったら場面をつくれるか?場面を生かせるか?」 と考えるのです。 人でもそうでしょう。 「あいつあかんな」 と思っても場面が変わったらとてもいい持ち味を発揮することがあるのです。 この葉っぱのビジネスは 「おばあちゃんだから」 できるのです。 植物に対する豊富な知識や経験があります。 木登りも若者は落ちますがおばあちゃんは絶対落ちません。
 これがおばあちゃんのいいところです。 同じように、 若い人には若い人のいいところ、 仙台には仙台のいいところ、 上勝には上勝のいいところ、 みなさんの会社にはみなさんの会社のいいところが必ずあるということです。 「その場面をどうやって経営者がつくれるか?見抜けるか?」 が大切なのです。 商品によっては場面をかえただけで10倍ぐらい売り上げが違います。 だから経営者は場面を読めなければいけません。

葵の御紋づくりと情報の逆輸入

 20年間やって一番よかったのは 「葵の御紋づくり」 です。 具体的で分かりやすく伝えることが大切です。 「これだけはどこにも絶対に負けない」 というものを持たずして商売は上手くいくはずがありません。
 昔は山のなかに住むことは条件が不利な地域と言われていました。 でもこんな山だから紅葉の色が綺麗に色づいて、 香りのいいものもたくさんできるという 「短所から長所」 になりました。 先ほど 「ヒットを打て」 と言いましたが、 「打てる!」 という自信を持てたら打てるのです。 バット持ってじっと立っていてはヒットは打てないのです。 ですからどんなに小さくてもいいのです。 「葵の御紋」 を持つことです。 これがあると自信につながっていきます。
  「人の悪口23倍、 いいこと6倍」 というデータがあります。 田舎で一番いけないのがこの 「悪口」 です。 これでは下りのエスカレータに乗ってしまいます。
  「町や会社の自慢ができるか」 ということです。 みなさんの会社の社員は会社を自慢できますか?自慢ができて自信ができて行動が起こせるのだと思います。
 そして大切なのは 「情報発信」 です。 私は70%は外に出します。 どうして外に出すか?小さいところでは自分自身が 「負けている」 という気持ちを持っているところへ何回言ってもダメです。 外に情報を発信して生まれた価値を戻したほうがいい。 「うちの会社はいい!」 と社長が100回言うよりも、 外から 「あなたの会社はいい!」 と言われるほうが効果がある。 うちの会社のメールには 「採用してくれませんか?」 というメールがいっぱい来ます。 それを見ている社員が一番 「もっと頑張らないと」 と思っているようです。
 この間も上勝が全国紙の一面トップにカラーで載りました。 最初の3日は効果がないと私は分かっていました。 なぜなら上勝町でその全国紙を読んでいる人がいないからです。 全部が地元紙です。 でも、 しばらくすると、 親戚や知人や子どもが 「一面トップで見たぞ!」 と言ってくるわけです。 そうすると、 「あんなに子どもが言うのだからすごいんだな」 と思うのです。

思いを結集しよう

 「一体感」 ── 思いと価値観を結集させることです。 私の師匠はテレビのプロデューサーです。 この 「一体感」 というものを分かるまで2年かかりました。
 「『よい番組』 は主役に 『よい人材』 を持ってきたらできるのではなくて、 テレビの 『最後』 に価値がある」 と言ったのです。 最初は全然分かりませんでした。
 「最後」 というのは、 カメラや衣装や構成を担当する人たちの思いが、 主役に対してどれだけ一体感を持って結集するかがとても重要なのだということです。 「なるほどな!」 と思いました。
 自分たちの思いを一つに結集し、 一人ひとりの社員のしっかりした出番を生み出していけるかどうか?私も考えながらやっています。
 私は、 田舎に将来を見出すには、 団塊の世代と20代の自分の出番を求めている人に出番を与えるしかないと思っています。 特に 「20代の女性」 に焦点を合わせています。 若い元気な女性をどんどん迎えたら、 男性は必ず帰ってきますから (笑)。

夢の種を蒔こう

横石さんのために集められた嘆願書

  「人は誰でも主役になれる」 ── この言葉が私は大好きです。
 葉っぱの種を蒔く80歳を過ぎたおばあちゃんを見つけて、 「生きているうちに採れないのに何のために蒔くの?」 と聞いてみたのです。 そしたら、 「私は100歳までやりたい。 死んだら子や孫がきっと継いでくれる。 これは夢の種だ!」 と言いました。 「いいこというなぁ!夢の種を自分で蒔くのか!」 と思いました。
 みなさんのお手元の資料のおばあちゃんは94歳です。 その方は75歳から始めたのです。 「自分がいなくなったら家が廃屋になって畑が荒れる。 それがいちばん辛い」 と言われ、 「じゃあ、 いろどりやってみない?」 と私が何度か誘って始めました。 そうしたら、 子どもが戻ってきて、 孫が戻ってきて、 今はとてもにぎやかです。 「どうして戻ってきたの?」 とお孫さんに聞いてみました。 すると 「あんなに楽しそうな親を見たら上勝に帰りたくなった」 と答えました。 そしてそのおばあちゃんは 「横石さんありがとう!やってみることが大事やな!一歩踏み出すことが自分の幸せになった。 やらなかったらこの幸せはなかったな!」 と言いました。 これは大切な言葉です。 一歩前に踏み出してみなければ幸せは掴めないと思います。
 先ほどビデオでも見てもらいましたが、 平成8年で実は辞めようと思っていました。 そうしたら、 みんなが町中を駆け回って一字一句に心を込めて嘆願書を書いてくれました。 本当に嬉しかったです。 頼りにされるのは嬉しいことです。 会社も、 小さくても地域に存在感があったり、 お客さんから 「いい社員ばかりだね」 と言ってもらえたりすることが大切だと思います。
  「存在感」 ── 「あんたの会社があって地域は助かっているんだ!」 と言われるような会社を目指してがんばっていただきたいと思います。 存在感を持って自分の夢を追いつづけること、 自分の幸せを一歩踏み出して掴んでいくことがこの同友会の目的でもあると思います。 この講演会で、 ますます宮城同友会のご発展、 みなさんがこの1年グッと踏み出して商売を伸ばしていくことを期待して私の話を終わります。 ご静聴ありがとうございました。
(※文責は同友会事務局にあります)

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