No.190(2007年5月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
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発行日/毎月1日発行

新入社員共育研修会 先輩社員の体験報告

「私の生きがい、 働きがい」


(株)八木澤商店 鈴木里沙さん (入社2年目)



 八木澤商店は今年で創業200年を迎える、 現社長で8代目の醸造会社です。 事務所や工場は近代的な建物ではなく、 瓦をのせた屋根で、 なまこかべと言われるあみの目のような壁の古い土蔵の中にあります。 創業時は酒づくりもしていて、 醤油の製造は大正から始まりました。 八木澤商店の名前が入った酒樽やとっくりなどが蔵にたくさん貯蔵されており、 建物だけでなく普段使っているものにも歴史を垣間見ることができます。 現在はヤマセン味噌・醤油の製造、 めんつゆやタレ類、 自根きゅうりの漬け物を作っています。
 私は現在、 醤油製造部の仕事をしています。 醤油ができるまでを大きく分けると [1]麹をつくる工程 [2]もろみができるまでの管理の工程 [3]もろみを搾る圧搾工程 [4]火入れの工程 [5]ろ過と出荷工程 の5つに分けられます。 私が担当するのは圧搾工程です。 この1年間でいろいろなことを学び、 悩み、 感じたことをお話しします。

私をとりまく人たち

 私には同期入社の同僚が一人います。 研修期間のうち4月〜5月までは彼女と一緒に働き、 6月〜9月、 10月〜12月はそれぞれ醤油製造部と店舗運営・営業企画に分かれて仕事しました。 彼女とは高校のこと、 恋愛のこと、 仕事のこと何でも話してきました。 彼女は 「製造現場で働きたい」 と言っていました。 私は何も言いませんでしたが、 その言葉はずっと私の心に残っていました。
 醤油製造部の現場は、 みんな私よりずっと年齢が上の人ばかりで、 醤油がどう作られているかもまったく知らないので不安もありましたが、 とても親切に教えてもらいました。 特にお世話になったのがトヨ子さんという方です。 いつも明るく元気で、 60歳を超えていますがエネルギッシュで素敵な方です。 ベテランで醤油製造の仕事は何でも知っているので、 分からないことがあると細かいところまで熱心に教えてくれます。 同時に、 何もできない自分に腹がたつこともありましたが、 トヨ子さんは私のことを怒りません。 逆に私を気遣い心配してくれ、 私にとってもう一人の親のような存在です。
 店舗運営・営業企画の仕事は、 醤油製造とはまた違いました。 こちらの部署では史恵さんという方がとても丁寧に教えてくれました。 お店にはいろいろなお客様がやってきます。 「いつものを」 という近所の方。 関東からいらして商品について詳しい説明を求める方。 対応や会話はなかなか上手くいきませんでしたが、 お客様に顔と名前を覚えてもらったときは嬉しかったです。

自分がやりたいこと

 12月は1年のなかで八木澤商店が一番忙しい時期です。 10月に製造現場に戻った私はトヨ子さんの気迫に押され、 毎日ヘトヘトになりながら仕事をしていました。 その中で信頼関係のようなものが生まれていたのかもしれません。 トヨ子さんの存在は私の中でとても大きくなっていました。 12月には醤油製造か営業企画か、 配属を決める面談もありました。 「どっちの仕事がしたい?」 と聞かれ、 決めてきたはずの答えもなかなか言い出せず、 泣いてしまいました。
 私の答えは醤油製造部でした。 それを言い出せなかったのは、 同期が言っていた希望と私の希望が同じだったこと。 もう一つは、 面談の場に史恵さんがいたからです。 お世話になった史恵さんを前にして違う部署を口にすることが申し訳なく思えたのです。 ところが面談で同期の彼女が希望したのは営業企画でした。
 トヨ子さんは先月で20年勤めた八木澤商店を退職する予定だったそうです。 「だから里沙に仕事を覚えてもらうために必死なんだよ」 と言われたことがありました。 トヨ子さんが持っている全てを私に託してくれていることを知り、 それに強く応えたいと思って希望した仕事ができることになりました。 面談のとき 「トヨ子さんが辞めたあとに“里沙にして良かった”と言われるようになりたい」 と言いました。 後日の配属発表で、 私が製造醤油部になったことを聞いてトヨ子さんはとても喜んでくれ、 私に全てを教えるために 「もう2〜3年はがんばる」 と上司に言ってくれたそうです。

この環境の中で私は成長していきたい

 入社から1年が経っても、 まだまだ見よう見まねで必死に仕事を覚えている毎日です。 しかし、 「一つ一つの作業が丁寧で早くなった」 「もろみを搾るときの布のたたみかたが上手くなった」 など、 小さなことですが私にとってはできるようになったことが嬉しいのです。 もっとがんばろうという気持ちになります。 家族も八木澤商店の商品をおいしいと言って食べてくれます。 自分が関わった商品だと思うと、 嬉しさもひとしおです。
 八木澤商店には人の絆があります。 現在は仕事のほかに、 今年9月に行う200周年記念事業にも取り組んでいます。 佳境に入っているところとこだわりが強すぎて折り合いがなかなかつかないところがありますが、 どんな状況になっても最後はみんなで成しとげる確信があります。
 確かに、 仕事にはつらいこともあります。 私も“くさい、 きたない、 きつい”ことがつらいと思うことがあります。 もろみを触るので服も汚れます。 大量の醤油かすを移動するので力仕事もあります。 体にも服にもにおいが染みついてしまい、 仕事後に遊びに行くことができません。 でも自分が選んだ仕事、 希望する部署で働くからは 「どんな仕事もこなしてみせる」 と心に決めています。 辞めてしまうのは簡単です。 でも自分自身を変えることも止まってしまうと思います。 私は苦手なことはすぐに人に頼ってしまいますが、 仕事を通じてこの性格を直していきたいと思います。 さらには、 頼られる存在になりたいという目標もあります。 新入社員の皆さんも、 働く楽しさを知り、 仕事を通じてどんどん自分を変えていってください。

今月の内容

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