No.195(2007年10月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

若林地区6月例会

「家業から企業へ 〜 先代からの想いを次代へ継承する為に〜」


(株)菅誠建設工業 代表取締役 菅原 清秀氏

自分が継がなければという思い

 私は4代目で、 跡継ぎとして育ちました。 しかし学生の頃、 当社が保証人になっていた会社が倒産し、 大学進学を断念せざるを得ませんでした。 ある企業から内定をいただき、 父に相談すると、 「やっぱりうちの会社を手伝ってほしい」 と言われ、 大変悩みました。 当時のわが社は下請けの比率が90%近くありました。 うちに帰ると、 母に酒を飲みながら愚痴を言っている父の姿を見ていましたので、 正直そんな会社に入りたいとは思いませんでした。 私は入社の条件として、 父に 「下請けをやめてほしい」 と伝えました。 父にとっては苦渋の決断だったと思いますが、 少しずつ体質を変え、 元請けの比率を増やしていきました。
 そして、 平成7年に私が社長に就任しました。 それから1、 2年は親の七光りで維持していた売り上げも、 だんだんと落ちていきました。 正直はじめはその理由すら分かりませんでした。 「景気も良く忙しいので、 人を採用してはどうか」 という私に、 大工上がりで職人気質の父は 「景気が悪くなったらどうする?事業は派手にしてはダメなのだ」 と言います。 当時の私は、 地味でもとりあえずは食っていけるだろうと甘い考えでおりました。

お客様との絆

 平成14年に同友会に入会しました。 その前年の売り上げは約3分の1に減っていたのですが、 利益も出ていました。 しかしこれからは住宅の着工数も減少が予想されるだけでなく、 わが社の社員の年齢も私より上の者ばかりで、 私は自分の代で会社をたたんでもいいと考えたりするようになりました。 反面、 『会社は自分のもの』 と傲慢な気持ちでいました。 しかしそういう気持ちが影響してか、 翌年から赤字体質に転落していったのです。 お客様から見放されるのではないかという不安も感じるようになりました。
 同友会では、 皆さん活発に求人活動をしていましたが、 私は 「今の仕事が精一杯なのに、 人なんか雇えるわけない」 と思っていました。 しかし各地の例会に通って報告を聴くことで、 自分の中で気持ちが変わっていきました。 中でも一番心に響いたのは、 自分と同じ立場の方の報告でした。 赤字で本当に倒産寸前だった彼は、 経営理念をつくり会社一丸で取り組むことで、 みごとに企業を再生しました。 また、 野球チームに例えた話で、 「メンバーが変わらない (新人が入らない) チームに、 皆さんは魅力を感じますか?そのチームでプレーしたいと思いますか?」 と問いかけられました。 そういわれれば、 そうですよね。 わが社も事務員と私、 大工さんが社員でいるだけでしたので、 社員がみんなでわいわい経営のこと語り合うような会社がうらやましいなと思いました。 もしそのようになれるとしたら会社を続けていくのもおもしろいかもしれないと考えるようになりました。
 そして自分なりにつくった経営理念が 『ずっと幸せな家造り』 です。 このときの 「ずっと」 は、 「@お世話になった建物が長持ちする丈夫な家で、 Aそこに住まわれる方が幸せで、 Bお世話になった私たちも幸せである」 という3つの思いを込めました。 自分なりに考えてつくった理念でしたが、 この理念を語り、 新しく社員を迎え入れました。

家業から企業へ、 〜会社は公のもの〜

 あるとき、 『会社は公のもの』 という話がありました。 会社は自分のものだと考えていた私には、 正直理解できませんでした。 幼い頃から後継ぎとして育った私ですが、 自分の息子には好きなことさせてやろうと考えていました。 そのためにできることは、 会社をたたむしかないと考えたりもしました。 この話を親戚に相談したとき、 「他人に財産を持って行かれるようなことはないように」 と言われて以来、 私の頭には 「財産を守らなければならない」 との思いがありました。
 しかしここで、 「会社は公のもの」 と考えると、 息子ではなく、 誰か能力のある人が社長をやればいいのではないかと考えるようになりました。 「会社は自分のもの」 と考えるうちは、 働いている社員を道具としかみていないということに気づかされました。 私は結局自分の財産を守るということしか考えていませんでしたから、 その財産を守り大きくするための道具でしかみていなかったのですね。 この気づきによって私の考えは少しずつ変わっていきました。

一歩踏み出す勇気

 平成17年に第8期同友会大学を受講しました。 平成17年度は過去最大の赤字を出した年です。 しかし私は、 赤字になるのを予想した上で社員を増員しました。 あえて一歩踏み出してみたのです。 普通、 景気が良くて社員を増やすことはあっても、 赤字になることが目に見えているのに社員を増員する人はいないでしょう。 でも、 どうしてこの選択ができたかというと、 「経営理念を持っていれば必ず成功する」 「信念を持つ」 という報告を聴き、 理念を持てば自分にも絶対できると思ったからです。 ただ漠然と一歩踏み出すのではなく、 「自分は絶対できる」 と思うことが大切です。
 昨年、 「第17期経営指針を創る会」 を受講しました。 経営指針を創る中で、 「自社でなければだめだというものは何か?」 「何のために働いているのか?」 など今まで全然考えてこなかったことを質問されました。 そして助言者の方から 「自分一人でできると思っているんじゃないの?」 と言われたことに、 はっとさせられました。
 後日、 指針受講前に入ってくれた社員に、 自分ひとりでつくった 『ずっと幸せな家造り』 という理念を話したら涙が出てきました。 しかしそれを捨てることができずに社員に涙ながらに相談したときは、 そっぽをむかれてしまいました。
 しかしその後、 社員と共に話し合い、 創った経営理念は 『ずっと幸せな家造りを通して、 明るく豊かな地域作りに貢献します』 です。 決して、 無駄ではありませんでした。 『ずっと幸せな家造り』 の意味合い、 魂が指針創りで変わりました。 言葉は同じでも、 一緒に深く考えながら肉付けをしていくという大変良い経験ができました。
 自信がついた私は、 経営指針で創った計画をそのまま会社に取り入れてみようと考えました。 やれない理由を並べることは簡単ですが、 大事なのは、 指針を創ることではなくて実行していくことだと気づきました。
 そして社員を一人増やそうと考え、 ある日同友会の仲間に相談しました。 「みなさんはどちらが先でしょうか。 仕事が忙しいから人を採用しますか、 それともまず採用してその人にあった仕事をやってもらいますか」 と問いかける私に、 同友会の仲間の皆さんは 「誰かに入ってもらったら新しい仕事をつくれば良いのだ」 と言ってくれたのです。 私も単純なので、 「それならば大丈夫だ!」 と思って増員を決めました。
 社員が増えることにより、 「お客様の目」 が変わってきました。 たとえば高額の仕事を依頼するときに、 「二人でやっている会社に任せて大丈夫だろうか?」 と思う方もいるかもしれません。 それをわが社におきかえて考えてみました。 それでもわが社に頼んでいただけるお客様がいることを思い、 私は自分の代で会社をたたもうと思った自分を恥じ、 今まで支えていただいたお客様に申し訳ないと思いました。 今の私の思いは、 家業だった昔とは違います。 まず経営理念があり、 「ずっと」 の意味は 「時間的な意味・広がり・想いの深さ」 という3つに変わってきました。

ずっと幸せな家づくり

 私の行動の動機は、 「自分がこうなりたい、 やりたい」 と思うことです。 今なりたいと考えているのは 『ドーナツの穴』 です。 これは社員がドーナツの身で、 経営者はドーナツの穴になるということです。 ドーナツの穴はあってもなくてもいいように感じられますが、 穴がないとドーナツにならないのです。 この話をわが社ですると、 「社長、 ドーナツの穴って言うけど、 身がないのに穴はできませんよね」 と言われ、 それもそうだなぁと思いました。 これからは、 ドーナツのような組織を創っていきたいと思います。 それができた時の私は、 同友会活動に没頭し、 今以上に人のために役に立ちたいと思っていることでしょう。
 今後は、 木材および自然素材を多用し、 住めば住むほど健康になる福祉住環境を創造しながら、 この分野のリーディングカンパニーとして発展し、 業界や関係団体を巻き込んで輝ける長寿社会を支えていきたいと思います。 また少数精鋭でやっていくには、 社員がそれぞれ勉強を重ねることでスキルを上げ、 自分の得意分野でエキスパートをめざさなくてはなりません。 10年後は生き生きと明るく楽しく働ける社員がいっぱいいてくれたらいいなと思っております。
 こういう会社になれればいいなというお手本と参考が同友会にはたくさんあります。 これを生かすか生かさないかは、 自分で覚悟を決めて実際にやるのかやらないのかという差です。 せっかく一度しかない人生なら、 思い切ってやっていきたいものです。 前はお客様に仕事をお渡しして 「ありがとうございました」 と感謝されることが嬉しかったのですが、 最近は社員が仕事から帰ってきて、 「お客様がすごく喜んでくれました」 と感動している姿と仕事を通して少しずつ社員が成長しているのが見えたとき大変嬉しく感じます。 まだまだ夢の途中ですが、 皆さんと共に夢に向かって勉強していきたいと思いますので今後共よろしくお願いいたします。

今月の内容

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