No.205(2008年7月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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発行日/毎月1日発行

総会記念講演

「元気な企業、地域づくりを私たちの手で」
〜帯広市中小企業振興基本条例の制定で地域が変わった〜


北海道同友会帯広支部副幹事長
帯広市中小企業振興協議会会長
東洋農機(株) 代表取締役会長 渡辺 純夫氏

 第35回定時総会記念講演から、帯広市における中小企業振興基本条例が制定されるまでの、他の経済団体や行政との連携や制定後の具体的な取り組みを中心に、抜粋して掲載いたします。

〜条例制定に向けて〜

 帯広支部が中小企業基本条例制定を目指したのは、2003年の中同協からの提唱がきっかけでした。2005年の全道研究集会、経営者研究集会を経て、準備会が作られ、キックオフするための委員会を作りました。メンバーは帯広市からだけではなく、周辺の町村からも3人ほどが入りましたが、帯広が良くなればいずれは自分たちも良くなるなどとは思っていません。商売は十勝管内全体で行っているため、帯広市の経済はどうなるかなどと考えている人は誰もいないわけです。しかし行政は、帯広の工業出荷額や税収がどうなるかを考えているわけです。このような中で骨格にしたのが、「十勝農業を基盤とした田園都市である帯広を、人が住みやすく活力あるまちにしたい」、「帯広市域を中小企業が創業しやすく、既存の企業が成長するまちにしたい」 というこの二つを軸にしました。郷土地域が中小企業の生命線であり、主要産業が破綻すると、地域も崩壊する、それを認識するという内容が含まれています。地域崩壊の危機は、人口流出が起き、購買力が低下し、売り上げが減るという負の循環が始まります。中小企業振興と豊かで活力ある地域を築くことは密接にして不可分な課題です。
 条例制定運動を進めるためには、地域の経済団体・行政との連携が必要です。現在帯広の同友会の会員は660人、商工会議所の議員は87人いるのですが、会議所の議員の半数が同友会の会員です。40人の議員が変わり、一時期、会議所は同友会の革新の集まりではないかといわれたこともありましたが、条例制定を推進するためにはやっぱり会議所を中心に進めなければならないということになり、会頭も含め、説得力のある人選を行ったわけです。

〜 合同特別プロジェクトの発足 〜

 そこで、帯広市と商工会議所と同友会の役員で合同特別プロジェクトを発足させ、まずは、東京都墨田区、大阪八尾市の条例を討論素材にして勉強会を行いました。当初は、条例の骨格をどうするか、条例の基本理念をどうするか、つまりどういう考えでこの条例を作ったかということをしっかり記録していく必要があり、そこが討論としては一番大事であるということになりました。そこで基本理念についての前文を作り、そこで考え方をしっかりまとめることになりました。

〜 市長の責務を明確化 〜

 いくら住みやすい地域があっても、働く場所がなかったらどうにもなりません。そこで条例の中に、行政の責任として 「市長の責務」 を明確に記載することになり、中小企業振興対策として 「産業振興のビジョンの策定」 が明示されました。
 骨格のところで大事になったのが概念図に示されているとおり、広域圏でものを考えるためにも、「十勝」 の要素を入れたいと要望したところ、前文に 「帯広・十勝は農業および関連する幅広い産業が発展している」 と織り込んでもらえることになりました。
 地域産業を支える両輪の一つである中小企業は、地域資源の最大化を進め、雇用を確保・拡大し、市民所得の向上をもたらすなど、帯広・十勝の地域経済の振興・活性化を図るきわめて重要な担い手、という位置づけになり、行政、中小企業の役割・義務、そして市民の理解、この3つが骨格となりました。後ほど概念図にてご確認ください。
 振興条例の検討過程で大切なことは、地域の未来を見通すことです。帯広市から財政部長などにも来て頂いて、共同の勉強会もやりました。税収の構造や、固定資産税、所得税がどうなのか、人口産業力、財政指数はどうなのか。方向性を統一するためには、基礎数字を勉強することが重要です。
 行政と地域の経済団体が地域の活力を向上させるために手をつなぐ、手をつないだということに大きな意義があると思います。検討段階で大切なことは、条例が出来るまでの検討の過程を大切に記録することと、施行後の産業振興策をリードする組織作りと具体策の実行です。そして 「伝道者」 をどうやって発掘するかは大きなポイントのひとつになります。帯広は会議所と関連経済団体が手をつなぎやすい恵まれた環境でした。現在も協議会には、同友会から4名の部会長、副部会長を出しています。
 条例作りは地域作りです。行政、地域住民の意識改革を迫り、私たち自身がどう変わっていけるのかということです。
 また、条例ができることで、たとえ市長が代わろうとも、この条例を追行していく責任が担保されたということになります。市長の責務が条例化されたというのはものすごい意味があるわけです。市長の責任の明確化と、優秀で情熱的な行政の現場指揮者が必要です。行政を説得できなくて条例は出来ません。同時に議会の方からも突き上げていく応援者を作らなければいけません。

〜 条例制定後、4つの部会を発足 〜

 さて、条例制定後の帯広市の活動状況ですが、7月に 「中小企業振興協議会」 が発足しました。振興協議会は18人で構成されています。発足にあたり、4つの部会が立ち上げられました。@創業・ものづくり部会、A経営基盤・人材部会、B交流部会、C産業基盤部会の4つです。
 創業・ものづくり部会と、経営基盤・人材部会は同友会のメンバーが部会長になりました。この2つの部会は企業に直結する問題です。経営基盤というのは、企業体質・経営者そのもののレベルをどう上げていくか。社員や人材のレベルアップをどう図るかという内容のため、明らかに同友会が一番マッチしています。
 交流部会は観光が中心で、インフラを伴ういろいろな問題がありますので、政策的に見るとこれは会議所の議員がふさわしい。
 産業基盤部会は、空港、港湾、道路などの様々な問題がありますが、十勝周辺で港湾や空港は既にあり、これらの施設の新たな利活用を含めた方向など、今後の産業基盤をどのように運営していくかというソフト面の問題を検討し、産業の必然性に応じて、基盤作りをどのようにすすめるかという討議が続けられる予定です。
 帯広市中小企業振興協議会における中小企業振興の指針を策定するビジョンづくりにおいては商工観光部に新たな役割を負う部室として、商業・観光・工業と農業の各産業、及び政策・企画の関連部門の連携・調整を図る、産業連携室を設置しました。各部局の調整はそこでなされます。また、商工観光部の中にワーキンググループがあり、現在20人くらいが実働しています。これは周囲の評価がとても高い一因ともなっています。
 中間報告は3月に出されました。仮称の提言書が6月、産業振興ビジョンの作成が並行して作られます。この後、市長との懇談を行い、商工会議所の正副部会長に今までの中間報告を行います。そして七月に産業振興協議会を行い、帯広市のホームページの中で、これまでどのような討議がなされてきたのかがご覧いただけます。この中の 「中小企業振興協議会」 では4つの部会に出された資料と、協議項目や論点などの全ての議事録が出ています。

〜 部会の活動状況 〜

 創業・物作り部会では、創業に適した地域の条件、それから産学官連携では産業クラスター形成を主流において、「十勝ブランドとは何だろう」 と検討を重ねた結果、最終的には 「地域の商標」 ではないかと言う結論が出ています。
 経営基盤・人材部会では、地域人材の育成に力を入れており、創業者の教育を学校教育の中で取り入れてもらえるように、学校の校長、教頭先生を軸にした教育検討協議会という委員会を持っています。年に二回検討会を行い、インターンシップについて協力を受けています。それから中小企業が求める人材育成、中小企業の第三者継承等の問題です。中小企業が求める情報提供のあり方、交流の活性化策などについて、検討を行っています。
 資金調達、ファンドは難しいです。北海道では中小企業基盤整備機構がお金を出して100億のファンドを作るのですが、その中の80億を基盤整備機構で作り、ファンドの中に組み入れています。残りの20億は各団体や金融機関も出資する予定となっています。
 交流部会では環境資源の問題を取り上げています。東京で働いた人が来ると、この地域にはもてなしの心がないといわれますが、問題はこれからです。
 産業基盤については、特にインフラと、共用設備を中心に検討がなされます。産業支援センターがあるので、その中でのレンタルラボなど、これからやっていきたい項目の検討を行っていきたいと思います。
 それから、当然産業の誘致、企業誘致の問題が出てくると思いますが、非常に難しい問題のため、十勝で地域活性化促進の協議会が発足しましたので、技術支援・道路・港湾・空港などの項目に沿って検討する方向です。


〔質疑応答より抜粋〕

〜 組織内の伝道者の必要性 〜

 先ほどの討論の中で、「私たちの地域でやるのは無理である」 という感想が多かったと伺いましたが、地域で無理と感じた時から後退は始まるのだと思います。私たちも夢中でやって参りました。結局そのときに伝道者がいるかどうかがとても重要です。帯広の同友会には過激な幹事長がいて、もしその人が言い出していなければ条例制定は実現してはいなかったと思います。一人の人が世の中を変えるということがあるわけです。決してあきらめるのではなく、人任せでは地域は良くなりません。同友会の一番の良いところはみんな平等であり、企業の大小にかかわらずボスは居ない、ボスを作らないから意見が出るのだと思います。「どうする」 というよりも 「進める」 という気持ちを持った人を増やしていくことだと思います。

 役所内の伝道者も必要です。商工観光部長が率先することによって、役所内の雰囲気ががらっと変わったといいます。「こんな面倒なことを本当にやるのか」 と言われましたが、三日後に若い職員が 「是非やらせて下さい」 と言ってきたそうです。行政もこれまでの形ではダメだということを認識しているはずです。行政に自分たちの悩みを分かってもらえるためには、話し合う場を作らなければいけないと思います。仲間内で話が出来る組織を作ることが必要です。行政が地域循環にどのような情熱を持って取り組んでくれるかが重要だと思います。行政と産業界の目的が一緒になるタイミングが合ったということが今回の話でご理解頂けたと思いますが、中小企業の目が向いていなければ、こちらを向かせないといけないと思います。
 また、今までのプロセスで一番の問題は、集まってくる正副部会長は、勉強してきます。しっかりその場を捉えます。ですがその場しのぎで来る人は、その時になってまた同じことを言います。それがヒントになることもありますが、同じ次元に立てるということは限られるわけです。従って、その人たちが本当にそれを大事であると感じて、常に考えてくれるような人たちの集積の場を与え続けなければいけないと思います。9月には新たな振興ビジョンに対する 「パブリックコメント」 を求める予定です。

今月の内容

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