No.204(2008年6月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
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発行日/毎月1日発行

気仙沼本吉支部 2月例会報告

 去る3月6日(木)、 「第38回 中小企業問題全国研究集会・第5分科会」 において、 宮城同友会の代表として報告をいただき、 たゆまぬ革新姿勢で、 常に業界をリードする気仙沼本吉支部・清水支部長の2月に行われた例会報告を掲載いたします。

「八葉水産ってどんな会社?」


(株)八葉水産 社長 清水敏也氏

修行時代に学んだこと

 私は昭和35年11月26日生まれで今年で48歳になります。 気仙沼に生まれ、 地元の高校を出て、 仙台の大学を卒業して大手Mという会社に就職しました。
  学校を出たばかりで何も分からない自分に、 ある社長さんが教えてくれたのは、 「大きな声を出しなさい」 「お客様の前で一歩前に出なさい」 「誰が来ても挨拶をしなさい」 「仕事が終わったら掃除をしなさい」 ということでした。 そして 「余った品物は持って帰りなさい」 と言われました。 普通は 「こんなに頑張ったのだから品物は全部買ってもらえるだろう」 と思っていたのですが、 「余ったものは持って帰れ」 なのです。 賞味期限などがなかった当時だから許されたのでしょうが、 今ならあり得ないと思います。 そのような仕事を 2 年間させていただきました。
  当社に入社後は営業と仕入れから始まり、 現在があるわけですが、 他の会社で働く経験をさせてもらったことはとても有意義であり、 当時知り合ったお客様とは今でも親交を深めていて、 お得意様としてお付き合いさせていただいております。

創業期のこと

 当社は1972 (昭和47) 年の7月13日に設立いたしました。 資本金は2,000万円で4社合同で起こした会社です。 当時は大量生産・大量消費の時代で、 200海里問題などさまざまな問題が出てきて、 企業体質を変えなければいけない時代だったと思います。 今で言う 「企業連携」 の走りのような形で当社は生まれました。
  その前は個人創業をしていて、 両親が中心となって小さな加工屋をしていました。 市場で揚がった魚を持ってきて、 みりん干しや切り身や粕漬けにして、 また市場に届けて生計を立てていました。 規模も本当に小さな家内工業で、 ご近所の住民の方々に働きに来ていただいていました。 小さいながらも活気があって笑い声が絶えない、 良い雰囲気の職場だったと記憶しています。
  実は私の父親は気仙沼の出身ではなく、 和歌山県の出身です。 和歌山県からこちらの地に移り住み、 冬は魚の加工、 春は北洋船に乗って魚を獲りにいき、 そこで得たお金でまた加工の仕事をしていました。
  今はどの工場も清潔でとても働きやすい状況になっていますが、 当時はつくれば売れた時代ですから、 衛生管理よりも、 とにかくみんなで多くの品物をつくろうという感じでした。 私もまだ小さなころから、 従業員さんが働いている間を回って湯沸しの湯を配ったり、 味噌や粕を準備したりするのが仕事でした。 調味液に甘さを出すための水飴、 それをおやつにするような経験をしながら、 小さいなりに 「魚屋さん・加工屋さんとはこういうものなんだな」 ということを覚えていったような気がします。
  「なぜ 『八葉水産』 という社名なのか?」 とよく聞かれます。 4社の経営者とその奥様たちの8名が集まって起こした会社という意味合いと、 「八」 という漢字は末広がりなので 「だんだん良くなるように」 という願いを込めてつけた社名だと聞いております。

当たり前のことを当たり前に

 私は24歳で当社に入社し、 36歳で社長になり12年が経ちました。 二代目ですからトントン拍子にいったのですが、 これも仕方ないと思います。 人もいなかったので 「お前がやりなさい」 ということだったのだと思います。 社長になるまでの間にいろいろな取り組みをしてきました。
  最初に取り組んだのが 「あいさつ・掃除・約束守る」 ことです。 工場は整然としていなければなりません。 入社したばかりの当社は、 工場を見ると魚の箱やウロコが散らかっていて、 血水が流れているといった状態でした。 それを一つずつきれいにしていこうと掃除を始めました。 いくら社長の息子とはいえ、 先輩社員の方々がたくさんいましたから 「何だコイツ!」 と思われたでしょうが 「思われてもいいや」 と思って続けました。 すると、 掃除が終わったところにタオルがかかっているのです。 また片付けるとかかっているということが何回かあって、 「何でかな?」 と思っていました。 要は 「そんなことまでしなくていいよ」 ということだったのでしょうが、 私も鈍かったものですから、 それが幸いして少しずつ片付けられるようになりました。
  当時は、 10時と3時に休憩を取っていました。 時にはおやつを食べていました。 当時、 休憩を取りながら仕事をするのは当たり前で、 その度にイスとテーブルを持ってきて休んでいました。 でも、 そこは 「仕事をする場所」 という私の提案で、 反発もありましたが一切やめました。
  当時はあいさつも元気がありませんでした。 「上の人が下の人に声をかけるなんてことはやらなくてもいい」 という感じでしたが、 これもきちんとやっていこうとあいさつ運動もしていきました。 そのように一つひとつやってきたことが功を奏して、 若い人が入ってきても定着していくようになっていったと思います。

社員への感謝

 平成3年に当社で取締役をやっていた営業の本部長が会社を設立し独立することになりました。 当社のお客様は全て知っていたので 「ものをつくればそこに売れる」 と思ったようです。 ライバル関係にもなり、 「従業員の一部は移動するかな」 という心配がありましたが、 誰一人としてそちらの会社には行かずに残ってくれました。 これはとてもありがたかったです。 もしここで移る人がいたら私の心も萎えてしまっていたかもしれません。 これは私にとってとても大きな力になりました。
  私が社長になってから、 3つめの工場を建設しました。 それを建てる際に 「トイレ・食堂・休憩室をきちんとつくろう」 と考えました。 一番新しいこの工場は2階の食堂から気仙沼の良い景色が見えます。 本当ならば、 お客様が来たときに案内する事務所等がいいのかもしれませんが、 やはり従業員さんがリフレッシュできるスペースが大事だと思いました。 これは自己満足かもしれませんがとてもよかったなと思います。
  当社で25年程働いている従業員さんからは 「うちの会社はとてもきれいになりましたね。 外を眺めながら食事ができるとは思ってもみませんでした。 こうした環境をつくっていただいたので、 今はとても働きやすくなっています」 「休憩室にエアコンが入っているなんて。 自宅でさえも入っていないのに」 と言われました。 「ちょっとでも社員に満足してもらえたかな」 と思いました。

経営者として

 売上がグンと上がっている時は良いのですが、 少し落ちてくるととても不安です。 当社も売上が伸びた時期もありますし、 逆の時期もあります。 そんな時に私は 「良い時は続かない。 誰かが良い時は必ず誰かが良くないのだ。 それは時代とともに必ず回っていくのだ」 という気持ちがいつも私の中にあります。 まず何よりもやらなければいけないのは 「今わが社は何をしなければいけないのか?」 「わが社の軸は何なのか?」 「わが社の理念は何なのか?」 ということをもう一度おさらいすることだと思います。
  私は、 地域貢献というのは 「雇用と納税と仕事づくり」 だと思っています。 「仕事をつくる」 ことで雇用の場が生まれ、 利益を出して納税をすることが一番の地域貢献だと思います。 社員には 「人磨きは石磨き」 といつも言っています。 「私たちはダイヤモンドではなく道ばたの石ころかもしれないけれど、 毎日磨いていれば必ず光り、 光の当て方によってはダイヤモンドよりも光ります。 それを想い描きながら一日一日コツコツと仕事を続けていこう」 「会社がその仕事を続けていくためにどうしたら存続するかを一緒に考えていこう」 「ブランドづくりとは社員の誇りをつくっていくことだよ」 という話をします。 やはり自分のつくっているものに誇りを持てないと力を込めて押せないのです。 「ブランドづくりは人づくり」 だと思います。

これから目指すこと

 現在、 中国問題で大手企業が注目を浴びています。 昨年の暮れにある取材を受けた際、 「今年、 社長が一番注目する企業はどこですか?」 という問いに、 私はその大手企業名を答えました。 今その大手は拡大路線をとっています。 拡大路線をとっている時にこそ落とし穴があると思い、 「いろんな意味で注目したい企業だ」 と答えました。 たしかに大きくなることで競争力も増し、 良い面もあるとは思いますが、 その裏側にはリスクもどんどん出てきます。 大きくなることが中小企業にとって目的ではありません。 小さいままでいいとばかりはいえませんが、 ただ、 当社は小さい加工屋から始まって今までやってきました。 その気持ちを忘れずに 「みんなで食べて美味しいものを提供し続けられる会社」 でありたいと思います。

今月の内容

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