No.204(2008年6月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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発行日/毎月1日発行

仙台支部総会報告

仙台フィンランド健康福祉センターのめざすもの」
〜 フィンランドに学びながら、安心して暮らせるまちをめざす 〜


講師 吉村 洋氏
(財)仙台市産業推進事業団FWBC推進本部 本部長
仙台フィンランド健康福祉センター

なぜフィンランドなのか

 仙台フィンランド健康福祉センター (以下、 FWBC) プロジェクトは、 仙台市とフィンランド共和国が提携しているプロジェクトで、 高齢社会を迎える中で健康・福祉産業を育成し、 産・学・官クラスターをつくっていくのがねらいです。 市と国が連携するプロジェクトは他に例を見ることがなく、 同じ敷地内に産業支援機関 (研究開発館) と高齢者福祉施設 (せんだんの館 TERVE) があるのも全国でここだけです。
  日本の高齢化率は21%です。 仙台もほぼ同じです。 2015年には4人に1人が65才以上、 2050年には3人に1人が65才以上になります。 つまり65才以上の高齢者人口は増えたまま、 64才以下の高齢者を支える労働人口が減っていきます。 生活環境も子どもとの同居は減り、 高齢者だけで生活している人が増えていきます。 日本の社会構造は、 世界のどこも経験したことのない急激な速さで大きく様変わりしようとしています。
  一方、 フィンランドは高齢化社会を早くに迎え、 高齢化問題に関するノウハウを蓄積し、 高水準の福祉社会を実現してきました。 国民の税負担は消費税が20%強、 累進所得課税が最大50%ですが、 不平不満を言う人はいません。 福祉・教育・医療などの社会サービスのすべてを国や自治体が負担し、 すべての国民に保障され還元されるからです。 老後生活までをしっかり支えるしくみがフィンランド社会にあります。 「自立」 「健康」 「生活の質 (QOL) 向上」 がキーワードです。
  誰でも年をとっていきます。 そして誰でも年を重ねていくと、 体のどこかが弱くなっていきます。 体の弱くなったところを支援するしくみ、 一人でも多くの高齢者が長く元気で生活するのを支援するしくみをつくり、 新しい製品やサービスの開発で新しい生活スタイルを提案していく。 こうして新しい産業をフィンランドと提携して仙台に創造し、 長生きで健康で安心して生き生きと自分らしい生活をしていける社会をつくろうというのが、 このプロジェクトの目的です。
  また、 もう一つの大きな意味は、 健康・福祉という視点から仙台市の経済活性・国際活動の活性を図って仙台のポテンシャルを高めるということです。 地方都市には、 東京を経由せずに直接海外と付きあっていく姿勢が必要になっていくと思います。
  このプロジェクトの基本理念は3つあります。 @個人の尊厳の尊重、 A社会性の維持、 B身体機能の維持・低下防止 です。 この理念のもとに健康・福祉関連産業を育成していくことは、 市民の皆さんにも還流されていくでしょう。 今日は、 @フィンランドとその取り組み、 Aこれからの高齢化に向けたFWBCプロジェクトが考える取り組みと自立支援、 それをベースにして具体的に考えられる産業についてお話しします。

フィンランドから学ぶこと

 現在のフィンランドには、 10年先、 20年先の日本に到来するだろうと思われる社会的課題の解があると思います。 それはなぜかという話をいたします。
  フィンランドは北欧の一国で、 日本からは飛行機で9時間半ほどのところにあります。 スウェーデンに600年、 ロシアに100年と長い間、 他国に支配された歴史を持ち、 1917年に独立した若い国です。 国土面積は日本の90%で、 人口は520万人です。 人口は北海道より少なく、 日本から見れば国全体が過疎地と言えますが、 この国はOECD諸国の中でもトップクラスの国際経済競争力と教育レベルを誇ります。
  社会的には既婚女性の就業率は80%以上です。 出生率は1.80で、 日本と大きな差があります。 高齢者の生活環境も、 子どもに面倒を見てもらわなくとも自分 (たち) の力で生活しています。 育児中の夫婦には社会だけでなく企業も支援します。 国家の方針と法律で社会的弱者がサポートされているので、 社会全体で彼らを支えるのだという考えがしっかり根づいています。 日本でよく聞かれる身内の高齢者の介護は、 フィンランドにおいては自治体が一定の費用を家族に支給します。
  そして人を育てる手間を惜しみません。 人口が少ないから、 お互いの存在を大切にします。 まさに人が国の財産で、 フィンランド国民でなくとも住んでいれば他国民でも大切にされます。
  こういった取り組みが、 フィンランドを国際経済競争力・教育レベルをトップレベルにしている所以となっています。
  こういったことから 「いかに安心できる生活をサポートするか」 が大きなヒントだと言えるのではないでしょうか。 日本の出生率は 1.29、 少子化はますます加速傾向にあります。 これは大量の移民でもない限り、 経済規模は縮小するということでもあります。 フィンランドは自分たちの課題をうまくコントロールして、 自分たちの力で解決できるしくみを社会の中に作り上げています。 そこをしっかり捉えることで、 私たちは新しい産業をつくっていくことができるのではないでしょうか。

健康・福祉産業の具体的なマーケット

 現在のフィンランドの福祉は、 施設介護からできるだけ在宅介護へ、 また介護から健康増進の方向へと舵を切っています。 高齢者を対象にした介護福祉だけではなく、 40代の若いうちから自分の将来をイメージし、 それに向けて準備するという広い意味での福祉です。 そういう準備をしながら今の生活を将来に向けて組み直していきましょう、 というアプローチです。
  例えば、 今の自分の家に長く住み続けたいとします。 地域と交流してコミュニティをつくっておく、 将来の生活に不便の無いような家に改造をする、 体調を整えたり不調なときの対応を考えておくといったことの中に、 健康・福祉サービスの新たな事業分野を見ることができるのではないかと思います。
  FWBCでサポートした製品事例をいくつかご紹介します。 トイレ用の手すり (使い勝手を優先したもので障がい者の人にも使い易かった)、 個人の尊厳を守りながら施設入居者の様子を見守れるベッドセンサー (部屋をのぞかなくてもよいのでプライバシーが守られる)、 骨粗しょう症を予防するプログラム (予防医療)。 これらはフィンランドから仙台に持ち込んで、 企業や大学が日本の市場に合うようにモディファイ (修正) された例です。 また逆の例で、 仙台で開発して発信し、 フィンランドを通してEU市場に流通した歯科矯正ソフトウェアがあります。
  他にもリストバンド型のナースコールや、 ノルディックウォーキングの普及 (スキーのストックに似たポールを使ったウォーキング)、 団地の公園の新利用法の提案などをサポートしています。
  どのように製品化するか、 どんなふうにサービス化するか。 ご紹介した製品の中にはハイテクなものもローテクなものもあります。 いずれにしても製品やサービスが持つコンセプトが大切です。 フィンランドのように、 いくつになっても自分の意思で暮らせるようにサポートするとか、 自立を支援していくためにできることをこうして考えていくとさまざまなビジネスや事業が考えられます。

西花苑プロジェクト〜コミュニティづくりにも応用できる〜

 この視点は、 製品だけでなくコミュニティにも生かせます。 プロジェクトに参加した企業数社が連携して、 高齢化社会に対応したコミュニティのモデルをつくりました (西花苑プロジェクトと言います)。
  住みなれた地域を離れ、 高齢者施設に入って単独のコミュニティの中で生活するのではなく、 自分の住みなれたところで生涯にわたり、 地域の一員として暮らし続けるための住まいを町ごと創ったプロジェクトです。 地域の近くに高齢者福祉サービスを提供する機能 (緊急時の電話連絡、 情報技術を用いて連絡できるしくみなど) を持たせて、 これまでと同じように地域の生活資源を利用しながら住み続けることができます。

フィンランドはEUのゲートウェイ〜私たちの市場はEUまで広がる〜

 FWBCプロジェクトは2003年から企業間交流が始まり、 現在では約100社が参加して具体的なビジネスの話が生まれています。 フィンランドの健康・福祉産業を参考にして、 仙台の産・学・官がそれぞれの得意分野で技術と知識を出し合って連携し、 仙台モデルの産業を育てています。
  とにかく今までとは違う社会構造になっていくのです。 だから、 新しい生活スタイル〜何才になっても生活するのが楽しくなるような〜を提案できるところに新しい産業の芽があるのです。
  日本の企業は規模が大きくなってから世界に展開する傾向がありますが、 フィンランドでは中小企業であっても世界を見据え、 チャンスがあれば展開を考えます。 日本とフィンランドの中小企業が交流しお互いに発展すれば、 仙台の国際的活動を育て、 人やものの流れを活発にして経済活動も活性します。
  フィンランドはもちろん、 フィンランドをゲートウェイとしてEUの市場も見えてくる。 仙台にはそれを具体化できる支援とインフラが整っています。 私たちセンターのスタッフも仙台とフィンランドの協業をコーディネートし、 企業のコミュニケーションをサポートしていきます。
  私たちのこのコンセプトに賛同し、 一緒に汗を流してくれる企業を歓迎しています。 この仙台から新しい生活スタイルを一緒に提案していきましょう。 FWBCにぜひ足を運んでみてください。

仙台フィンランド健康福祉センタープロジェクト (Sendai-Finnish Wellbeing Center project) とは

  フィンランドと仙台市が2003年に協同合意書に協印しスタートした仙台フィンランド健康福祉センタープロジェクト。 センターを仙台市青葉区水の森に構え、 フィンランド型福祉を実践する特別養護老人ホーム 「せんだんの館 TERVE」 と 「研究開発館」 を拠点としています。 人生の 「幸福」 を追求することを最大の目的として、 フィンランド・日本の両国の大学・企業がフィンランド型介護のサービスや、 IT やハイテクを活用した健康福祉機器の研究開発を進め、 健康福祉産業の創出を図っています。
【フィンランド側の参加】
フィンランド貿易局、 フィンランド国立社会福祉研究所、 フィンランド技術庁、 オウル市、 オウル大学、 民間企業
【日本側の参加】
仙台市、 東北大学、 東北福祉大学などの研究機関、 福祉団体、 日本政策投資銀行、 市内企業

 このプロジェクトの中で、 商品開発、 サービス開発などさまざまなプロジェクトが立ち上がっています。 プロジェクトへの参加や新たなプロジェクトの立ち上げについては、 仙台市産業振興事業団がフィンランド側関係機関とともにサポートをしています。

仙台フィンランド健康福祉センター 研究開発館
  〒981-0962 仙台市青葉区水の森3丁目 24-1
  電話:022-303-2666 FAX:022-303-2667 e-mail:info@sendai.fwbc.jp
  ※詳しくはこちらのホームページをご覧ください。 →http://sendai.fwbc.jp/index.htm

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