No.204(2008年6月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
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発行日/毎月1日発行

第38回 中小企業問題全国研究集会 第6分科会報告

社員とお客様の夢を叶える自立型企業づくり
〜 経営指針でビジョンの共有と足元を見据えた経営を 〜


グルメライフ販売(株) 代表取締役 菊地 肇氏

 グルメライフ販売(株)は、 1989年 (平成元年) パンの宅配事業から3人でスタートし、 現在の従業員数は200名 (うち正社員30名)、 売上約10億円、 営業利益は約5%です。 事業内容はパンの宅配業、 スーパーのインストアベーカリー、 そして現在の主力である、 郊外型ベーカリーの3つの業態を展開しています。 時代の変化に対応し徐々に重心を移しながら業態転換をしてきました。

創業〜創業時のころ

 私は、 大学を卒業してすぐに地元スーパーに就職しました。 スーパーでの経験は売場が4年、 バイヤーが14年の合計18年でした。 その時の担当商品はスポーツ関係、 インテリア用品、 時計、 カメラなどで食品には一切関わったことがありませんでした。
  1989年の2月、 40歳を迎えた時に、 「他の世界を見てみたい」 「もう充分にこの仕事をやりきった」 という理由で、 次の仕事のあてもないまま、 その年の 5 月に辞表を出しました。 当時、 2人の子供は小学生と中学生。 今考えると本当に無謀だったと思います。
  辞表を出して1週間ほど経った頃、 大学の先輩から 「パンの宅配の仕事があるからやってみないか?」 という誘いを受けました。 私は販売の仕事でもあり、 前職の経験を活かせると思い引き受けることとし、 翌月の6月、 正式に退職。 退職金500万を元手にグルメライフ販売(株)を設立しました。 創業のメンバーは、 私と後輩の営業マンと事務員の3名です。
  宮城県内に代理店をつくり、 パンの仕分け、 トラックへの積み込み、 代理店への配送、 個人宅への直接販売もしました。 また経理についても、 事務員任せにせず、 小口伝票、 振替伝票の処理、 給与計算に至るまで、 全て自分でもやりました。
  創業から1年後、 食品問屋さんから勧められインストアベーカリーを2店舗譲り受けました。 宅配事業だけでは不安もありましたし、 「もっとスーパーでの経験を活かせるかもしれない」 と考えたからです。 私はパンをつくることが出来ませんので、 職人さんを雇ってこの事業に乗り出しました。 生協や西友、 ジャスコなどに多店舗展開し、 インストアベーカリーは18店舗まで拡大しました。 宅配事業も順調で、 2000年ごろには12億5千万の売上げとなりました。

「経営者」 の仕事とは? 答えを見つけた同友会

 平成5年の11月に友人に勧められて同友会に入会しました。 創業から4年が経ち、 社員と苦楽を共にするうちに、 社員を幸せにしたい、 「社長と一緒に仕事をしてよかった」 そういわれる経営者になりたいと思うようになりました。 しかしこの思いをどのように表現したらいいのか分からず悩んでいた時に、 友人に勧められるまま同友会に入会し、 「第3期経営指針を創る会」 (以下創る会) の発表を聞く機会に恵まれました。 創る会では先輩方が 「自分はこんな会社にしたい」 「社員を幸せにしたい」 と涙を流しながら大きな声で発表をしている姿に胸を打たれ、 私はすぐに翌年の 「創る会」 を受講することにしました。 「創る会」 では 「会社とは何か?」 「社員とは何か?」 「仲間とは何か?」 「経営とは?」 という本質的な話合いを徹底的にしました。 「創る会」 を受講中、 私が心に刻んだことは三つあります。 一つは、 会社は自分のものではなく、 社会の公器であること。 二つめは、 会社はどんなことがあっても継続発展させていかなくてはならないこと。 そして三つめは、 社員は信頼して共に成長していくパートナーであるということです。 その時に私が決めたことは、 裏表のない経営をするためにオープン経営 (経理の公開) をし、 公私混同ができない、 させない仕組づくりをしていこうと考えました。 もう一つは黒字経営を続け、 10年以内に10億円企業を目指すことを目標として掲げました。
  平成11年には、 宮城野若林地区で会長を仰せつかりました。 250社の大きな組織ですが、 「今以上に会社を良くしよう、 それが会長としての使命だろう」 と思い頑張りました。
  経営指針を創る会の第15期からは、 経営労働委員長に就任しました。 毎月土日、 指針の受講が行われる中、 受講生の理念の検討が進まないため、 委員長として自社の10年ビジョンを考えようという宿題を出しました。 この宿題は 「10年後どんな会社にしたいのか?」 「どんな会社だったらいいのか?」 という内容です。 これは受講生に出した宿題でしたが、 自分自身の課題でもありました。 わが社を振り返り10年後どうなるか?と考えた時に、 インストアベーカリー店の売上が2000年をピークに少しずつ下がってきていることに気がつきました。 スーパーの増加に伴い過当競争が激しくなる結果、 当然お客さんの客数は落ちてしまいます。 これはいくら品質、 サービスの自助努力をしても限界があることに気がついたのです。

厳しい経営環境の中での繁盛店視察

  将来の不安を考え、 あらゆる業界誌、 情報誌等を見て、 現状を打開するヒントを探していたところ、 東京をはじめとする首都圏で、 とても繁盛している路面店が掲載されていました。 一度この目で見てみたいと思い、 幹部社員2人を連れて、 東京、 千葉、 神奈川の繁盛店10店舗を視察しました。
  現場へ行き、 まず感じたことは、 お客さんが本当に楽しそうに行列をつくりながら買い物をしていること、 そして何よりもパンを売っている社員さんがイキイキと笑顔でパンを売っていることに 「ほんとうにすごいな」 と心から感動しました。 一緒にいった幹部社員からは 「社長、 あんなお店がやりたいですよね」 と声をかけられ、 帰りの新幹線は、 将来の夢でいっぱいになりました。

社運をかけた決断

 この視察で郊外型店舗の出店を決意し、 視察後の店長会議において 「繁盛店をやってみよう」 と路面店の構想を発表しました。 自立型企業を目指すことを方針としてやるからには 「絶対に成功しなければない」 「成功するためにはどうする?」 ということを徹底的に話し合い、 考えました。 今までやってきたスーパーの下請け的な仕事から脱却し、 元請としてすべて自分たちの力でやっていこうと呼びかけました。
  それにはまず店舗設計から、 販売・接客、 オペレーション、 物件探しに至るまですべて自己流に任せず、 プロの力を借り一から作り上げました。
  インストアベーカリーの時と違い、 初期投資にも多額の資金を要します。 金融機関に相談すると、 以外にも 「是非やってください、 応援します」 と二つ返事で引き受けてくれました。 黒字経営を続けてきたことが、 ここにきて活かされたのです。 本当に嬉しい驚きでした。 それまでは、 単に 「赤字企業は倒産の第一歩」 と黒字経営にこだわっていましたが、 もっと前向きに、 自分は何をやりたいか、 そして将来につながる大きな一歩に備えるためにも、 黒字経営が大切なことに気づかされました。 ここ一番というときに借り入れができるかどうかは、 普段の経営にかかっています。
  一方でインストアベーカリーからの撤退を決めました。 なぜならこの業界はますます先細りになり、 これ以上悪くはならなくても、 良くはならないだろうと考え決心しました。 もう一つは年中無休で営業するスーパー、 そこで働く社員の生活を考えると、 この業態を残す必要はないという思いがありました。

ついに一号店がオープン

 事業転換がうまく図れるか、 これはいうまでもなく一号店の成否にかかっていました。
  私は、 この成功の鍵を握る1号店店長を指名ではなく志願という形で決めました。 店長会議の席で 「この1号店は失敗したら2号店も3号店もない。 社運を賭けた、 我々の夢を賭けた1号店だ。 われと思わん者は、 手をあげてくれ」 と話をしたところ、 1人の店長が 「自分がやりたい。 自分に任せてくれ」 と手をあげてくれました。
  こうして丸一年の準備を経て、 平成17年の6月19日、 ついに郊外型路面店 「石窯パン工房パンセ」 の第1号店をオープンさせることができました。 幸いなことにみんなの夢は2号店、 3号店、 4号店へとつながり、 来月開店予定の5号店へと今も膨らみ続けています。 そしてなによりも郊外型路面店に切り替えたことで、 1番変化したのは社員です。 最近ではお客様より 「良いお店を出してくれてありがとう」 「おめでとうございます」 という言葉をかけてもらえるようになり、 私も同じ喜びを社員と共に感じています。

10年ビジョンの成文化

 2004年は、 経営労働委員長に就任したのをきっかけに、 自社の10年ビジョンを模索し、 成文化しました。 目標に掲げたことは3つあります。 一つは、 働きがい・生きがいを業界 No,1にすること。 二つめは高い収益性を追求し、 企業として社会的責任を果たすこと。 三つ目は、 年商30億円、 宮城県内に郊外型路面店を15店舗以上展開することです。 ここに掲げた店舗展開スピードは、 業界の常識をはるかに超えていますが、 このビジョンを掲げたことで、 外部の金融機関やメーカー、 問屋からもさまざまなアドバイスや提案、 ご支援、 ご協力をいただくことができました。 しかし、 金もない、 人もいない。 ないないづくしの中小企業に、 そんなことができるかという不安もありました。 しかし 「人が育つ」 「資金が揃う」 のを待っていては、 あまりにも時間がかかりすぎる。 まずは理念ありき、 ビジョンありきではないか。 理念・ビジョンを掲げ、 ひたむきに取り組んでいれば、 必ず後押ししてくれる人や支援してくれる組織が現れます。 これが、 10年ビジョンを掲げ、 4年、 5年と歩んできた私の実感です。 理念・ビジョン・目標を掲げることがいかに大切か。 これが今日、 みなさんに最もお伝えしたいことの一つです。

今月の内容

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