No.197(2007年12月号)

どうゆう みやぎ

宮城県中小企業家同友会
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【同友会3つの目的】
●よい会社をつくろう。
●よい経営者になろう。
●よい経営環境をつくろう。
発行日/毎月1日発行

「会社づくりは“何のために経営しているのか”を明確にすることから始まる」


(株)真壁技研 代表取締役 真壁 英一氏

お客様さまの喜ぶ顔が見たい

 当社は、 大正11年に祖父が自転車の修理屋を起業したことがはじまりだと聞いています。 長男であった父が家業を継いだのですが、 自転車修理屋としての将来性が読めないと、 継ぐ前に技官として勤務していた東北大学から仕事を受注したのが現在の真壁技研の原型です。 当時は治具、 実験部品や架台などから始めたようですが、 父は技術的に優れていたのと、 困ったときのスピード対応が評価されて大学との信頼関係を深めていきました。 高度な装置を受注するようになって会社が成長期を迎えたとき、 父が急死しました。 私は9歳でした。 母が会社を継ぎ、 30年間会社の代表を務めました。 父が積み重ねた取り組みとは、 どの仕事でも当たりまえのことかもしれませんが、 お顧さまが最も求めていることに近づく努力を最大限にして、 仕事という最大の学びを通して対応力を向上させていったことです。
 お客さまとの信頼関係は、 社員との信頼関係とも比例しているのではないかと最近思うようになりました。 社員一人ひとりとの信頼関係が強ければ強いほど、 お客さまとの信頼関係も強くなるということです。 お客さまが最も求めていることを社内で共有して実現させようとする姿勢は、 お客さまに伝わっているのではないかと思います。
 例えば、 当社のお客さまに東北大学があります。 東北大学の材料研究所は金属などの新素材開発ではメッカと呼ばれ、 世界的に最先端開発の役割を果たしています。 そこで使用される機器は、 既に世の中にあるものでは合わなくて、 特別仕様のものを設計しなくてはなりません。 このような要請が生まれたときが当社の出番です。 ところが世にまだない機器を作るわけですから、 設計時には予測できなかったことが次々と起こります。 ときには最初から作り直しになることもあります。 そうなると見積もりは当初の予算をはるかに超えてしまい、 大赤字になるケースも多々あります。 それでも 「真壁技研の装置を使って最高の実験ができ、 素晴らしい論文を発表することができた」、 その論文の中で 「真壁技研が作った装置で開発した」 と発表されることが、 私たちにとっても何ものにも代えがたい喜びです。 先生たちの喜びをかなえるという思いで社員と徹夜で装置を完成させ、 徹夜あけの朝日が昇る中で、 装置ができた達成感と充実感を一緒に味わったことも何度もあります。

ありのままの自分をさらけ出す

 2001年春、 同友会に入会しました。 最初は同友会の良さというものを特別に感じておらず、 飲み会の少なくてまじめに勉強する会なんだという程度の認識でした。
 入会した年の秋、 【同友会大学】という講座に興味を持って受講しましたが、 そこで東北の歴史観を学んだときのことは今でも心に残っています。 東北地方は暗い・貧しい・寒いというイメージの強いですが、 そのイメージは弥生時代にコメが作られるようになり中央集権化されてから後の歴史が生み出したものです。 それ以前の縄文時代の東北には先進的な文化が栄えていて、 自信と誇りがあってとても活性していた。 だから東北には豊かな文化を形成する土壌と気質があるのだという講義を聞き (赤坂憲雄先生)、 「東北には素晴らしい土壌がある」 と誇りに思えました。
 2005年に【経営指針を創る会】を受講します。 経営指針とは 「経営理念」 「経営方針」 「経営計画」 の3つの総称で、 この【創る会】ではまず 「経営理念」 をつくることからスタートします。 その過程で経営者の資質が試されます。 例えば 「経営責任とは何か」 とか 「何のために経営するのか」 というように、 経営の本質的なところを問うてきます。 中途半端な意志で参加した私は 「とんでもないものを受講してしまった」 と後悔しました。 経営観や将来像などの質問に対して、 初めは取りつくろった答えばかりを返していたのですが、 学び進めるうちに自分の本音を率直に語れるようになっていきました。 自分の着ていた重いものを脱がされていくような感じです。 そうなってから初めて、 自分の実力を自分で知ることができ、 自分一人ではなく社内外の仲間と協力していくことが必要なのも見えてきました。
 また、 学び進めていくなかで、 【人間性】【社会性】【科学性】という、 物事を見る3つの視点とバランスがあることを学びました。

【人間性】人が持つ可能性は何歳になっても無限

 社員からは 「社長は夢ばかり追っている」 とよく言われます。 「何とかなると社長は言っても、 結局どうにもならないことが多いじゃないか」、 そんなことも言われます。 一方でこうも言ってくれる社員もいます。 「社長がいるから私はこの会社にいる。 いつかすごい会社に必ずなると信じている」。 私についてきてくれる社員がいるおかげで今までやってこられたと思いますし、 私もそれで励まされています。 社員はじめ支えてくれる人たちに認められたり、 助けられたりしながら今まで夢を追ってこられたのではないかと思います。 私の仕事は 「常に前向きな姿勢で考えよう、 時代に挑戦しよう」 という先代から引き継いだ社風を、 自分が実践することだと思っています。
 また、 【創る会】では、 なぜ助言者 (歴代修了生が当期受講生の成文化に関わってくれる) がこれほど真剣に受講生の指針成文化に一生懸命なのか不思議でした。 人は人と関わり合うことで成長していく、 だから助言者も受講生の姿を通して学びに来て成長しようとしていることが分かったとき、 感動を覚えました。 厳しさの中にある温かさを感じるとともに、 自分が求めれば何歳になっても成長する、 変わっていくことができるのだと感じました。

【科学性】本当に取るべき行動

 当社の目的は 「自然科学の真理を追究するお手伝いをする」 ことにあると考えていました。 しかし、 それだけでよいのか。 この目的に初めて疑問を持ちました。 自然科学の真理を解明していくことがどう役に立つのか、 何の意味があるのか。 誤解を恐れずに言えば、 真理の追究と解明を目的にすることは単なる自己満足に過ぎないのではないかと思いました。
 かつて、 東北大学の創始者の一人でおられる本多光太郎先生は 「学問とは実学でなければならない」、 つまり学問は世の中に役に立つものでなければならないとおっしゃいました。 私たちも社内に 「人間の豊かさ」 を目的とした視点と考え方を持つことが必要だと思いました。 現在なら、 特にマテリアルの分野でいうと材料関係が持つエネルギーの発見や環境問題への対応などにつながってきます。 具体的には再利用可能な材料の開発や資源の有効活用などで、 最終的には自然の調和を創造していくことではないかと自社の活動を位置づけました。

【社会性】宮城が元気になる仕事をつくりたい

 地方の、 特に中央から離れるほど住民が減り、 町の商店がシャッターを降ろしています。 地域による経済格差が拡大傾向にあります。 また企業には自社の利益を優先して理念なき経営をするところもあります。 少子高齢化、 環境破壊、 エネルギーなどの課題を前に、 地方の人材が就職先を求めて中央に出て行きます。
 現在、 国立大学が独立法人となり、 お膝もとの東北大学も経営するという考えに変わってきています。 国としても、 政策的に技術開発を促進しようという動きを見せています。 東北大学は、 以前に持っていた 「大学を解放して実学を尊重する」 という理念に帰ろうとしています。 今まさに、 学問の世界だけにいた研究者たちが、 企業のように自分たちの成果を実学化させるようと努力しています。 しかし大学の研究者は企業のような活動には不慣れであることから、 企業 (とくに地元企業) と一緒に共同研究や共同開発をしたがっています。 大学にとっても企業にとってもチャンスの時代が来たのではないかと思います。
 私は【創る会】受講前に、 大学とのベンチャー立ち上げの話をいただいており、 受講中にその構想をつくりました。 その中で地域に対する考え方をしっかり捉えておかなければならないと考えておりました。 平成17年7月の経営指針修了後、 すぐにベンチャーを起業しようと思い、 修了2日後には設立趣意をまとめて関係者に配布し協力を要請して(株)BMGという会社を発足しました。 賛同いただいた出資者は13名 (3名の民間企業、 10名の大学の教授・准教授や助手) です。 なかには私のところにわざわざいらして、 「大学初のベンチャー企業として東北大学と地元との連携成功事例をつくり実績を上げてほしい」 「地元経営者や東北大学に勇気と自信を与えてほしい」 と応援してくださった先生もおられ、 私も地元の経営者との対話を積極的に行っていただきたいと話させていただきました。

理念経営の実践が始まる

 (株)BMGは、 東北大学の中にあるビジネスインキュベーションセンター (通称 T−Biz) の中にあり、 10月から稼働します。 当初から、 「人とつながる素晴らしさと人の可能性【人間性】」 「豊かな地域と未来をつくる活動【科学性】」 「地域活性につながる連携【社会性】」 の理念を注ぎ込んでつくった会社です。 社員は現在2名ですが、 新しい材料を作成できるのは世界でもこの2人しかいません。 彼らには何事も恐れることのない挑戦力と夢をかけております。 どんな失敗にもくじけず、 逆に失敗を自分の糧として成長してもらえればと思っています。

人生が楽しいかどうかは視点の持ち方しだい

 父は亡くなる直前、 私にこう聞いてきました、 「将来おまえは何になるのか」。 9歳の私は父を喜ばせたい一心で 「会社を継ぎます」 と言いました。 その言葉をそばで聞いた母はずっと 「おまえはお父さんの枕もとで会社を継ぐことを約束した」 と言い続けまして、 9歳から私は後継者の道を決定づけられてきました。 気丈な母でしたから、 父との約束、 お客さまとの信頼関係を守り通すことを生きがいとし、 二代目として必死で経営を守ってきたのだろうと思います。 三代目として現在、 会社の代表を務めておりますが、 明確に今の道を選んだという実感はありませんし、 自分の将来を自分で選択したわけではないと思っていました。 しかし私の中には常に創業者である父の思いがありましたから、 結果的には自分で自分の歩むべき道を選択したことになるのでしょう。
 「おたくの仕事は特殊だから、 競合相手がいなくてうらやましいね」 「官庁がお客さんだから支払いに問題がなくて安泰だね」 「夢が持ちやすい仕事で良いね」 と言われることがあります。 確かに、 特殊な分野で専門的な知識が必要という意味では特殊な業界ですが、 企業としては皆さんと同じように成果を出していかなければ生きていけません。 大学の仕事の多くはコストとリスクが大きく、 試作機などは赤字覚悟のこともあれば、 成功した装置が売れなくて開発資金の回収ができない不安を持つこともあります。
 だからこそ、 社員やお客さまである大学や研究機関と夢を共有して生きがいを持って生きると決めたのです。 有難いことに、 同じような考えの人との出会いにも恵まれ、 たくさんの触発を受けました。 逆に私から影響を受けたという話を聞くと、 相手の人生も自分の人生も同じように大事にしていきたいと思います。 また、 それが今までいろいろ支えてくださる方への恩返しでもあるのだろうと思います。

【(株)真壁技研 経営理念】

私たちは、 地球にやさしい産業の芽を創出するリーディングカンパニーを目指します。
私たちは、 関わる全てが共存共栄できる、 豊かな未来社会の創造を目指します。
私たちは、 深く信頼し、 素直な心を持ち、 夢や感動に満ちた豊かな人間を目指します。

【(株)真壁技研 スローガン】

熱意と誠意を持って 先端技術に挑戦し 世界に貢献する 真壁技研

今月の内容

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