今日の“異端”は明日の“真ん中”

　 三重同友会は22年前39名の会員で設立され、 23年目を迎え500名の規模になりました。 設立の当時を思い出しますとその頃、 三重では同友会なんて誰も知らなかったのです。 今日は 「正統派異端系」 という話をするのですが、 当時から同友会は正統派異端系だったんですよ。 まともなことを言っているのですが、 誰にも相手にされなかったのです。 本当に悔しい思いをしたのですが、 500名の同友会が提唱した 「三重県地域産業振興条例」 が超党派で成立されたことは、 感慨深いことです。 異端系がいよいよ真ん中に来てるのかなという実感を今、 持ち始めています。 異端というのは世の中の端っこにいるのです。 世の中の動きに迎合してここに来たわけではなく、 世の中が動いて真ん中に来たのです。 昔ならこの動きは100年くらいかかったのですが、 今は10年くらいで動いて異端が真ん中に来るのです。 今日の異端は明日の真ん中です。 世の中の動きが早いですから、 端っこにいた人が一気に真ん中にくるのです。 真ん中にいた人は、 時代から落ちたことを知らない、 これが最大の悲劇ですよ。 自分はまだ時代の真ん中にいると思っているのです。 同友会も時代の要請で真ん中に来たのですね。 私も含めて時代の真ん中に来ているという自負はありますが、 自惚れると落ちてしまいますから。 そういう意味では、 時代軸は強烈なスピードで動いているという実感があります。

自分の言葉で自分の経営を語る

　 同友会では、 いろいろなことを教わりましたが、 一番びっくりしたことは 「本音で話す」 ということですね。 本音で話すとはどういうことですか？それでは、 建前とは何ですか？私も、 なかなか理解できなかったのですが、 分かってきたことは 「自分の言葉で自分の経営を語る」 ということです。 同友会は、 自社の経営をみんなで語り合う会です。 「自分の言葉」 でです。 同友会では、 経営体験発表を聞く機会があります。 それを聞いて、 人の経営を語る、 これは建前です。 本音というのは、 自分の経営を自分の言葉で語ることだと、 一番最初に学びました。 今日は私の話を基にグループ討論をしていただけるそうですが、 グループ討論は同友会の特徴的な学び方ですね。 私の会社は月に１回、 ２時半から５時半までグループ討論をするんです。 同友会で学んだことが、 同友会でしか通用しないということは絶対にないと思います。

オーナーシップからリーダーシップへ

　 私の会社では、 社員持株会を昭和57年につくりました。 その時は、 臨時ボーナスを出せる環境にありました。 役員会で議論したのですが、 臨時ボーナスではなく、 社員に株を買ってもらおうということにしました。 4,500万円の資本金を半額増資し、 社員持株会に株を売って現在6,750万円なのです。 社員持株会が33.3％を持っているという会社です。 私は、 昨年までは34.1％の株を持つ筆頭株主だったんです。 息子も修行が終わって帰ってきまして私の株を譲った、 気がついたら私は26％しかない。 筆頭株主から第２位になったんです。 その時、 オーナーシップでは会社をガバナンスできないんだと実感しました。 社員とのパートナーシップで経営理念をつくり、 それを旗印に経営をしていこうと言ってましたよ。 でも、 心の最後の引き出しでは、 「最後は勝つやん、 34.1％あるやん」 というのがあった。 オーナーシップの時も、 リーダーシップでしか会社はうまくガバナンスできないと口では言ってましたが、 それが現実に無くなると大変ですよ。 私は今、 セーフティネットがないところで空中ブランコをしているんです。 前は、 オーナーシップというネットがあったけど、 今は間違って手を離したら、 社員が手を延ばして掴んでくれないと、 私は落下してしまうんですから。

お客様、 地域に経営理念を発信

　 私の会社では、 喧々囂々３年間やって経営指針、 経営理念を創りました。 経営理念は、 「当社は酒類・食品の製造販売を通じて社会に貢献できる企業を目指します」。 三重県経営品質賞では、 優秀賞をもらっています。 本当にそんなことをやっているのかとアセッサーが事前調査に来まして、 「経営理念はどうやっておつくりになったんですか？」 と聞かれた時はうれしかったですね。 「みんなで３年間」 と答えました。 「その経営理念は社員のみなさんは知っていますか？」 という問いには、 「経営理念の共有は、 十分にできています」 と答えました。 その次の質問が、 私の想定外でした。 「素晴らしい社員とつくられた経営理念をお客様にどのように浸透させていますか？」。 私が、 「してません、 どうしたら顧客に浸透させられるでしょうか？」 と伺うと、 「それは皆さんがお考えになって下さい」 と言われました。 今から３年前のことです。
　 早速社内でグループ討論をしました。 １億円ぐらいかけて、 新聞に一面広告で“当社は酒類の製造販売を通じて社会に貢献します”と出せば簡単なことですが、 「社長、 それ、 お金かかったらいけませんよね」 とある社員が言いました。 この問題について２時間討論しまして、 最終的に女性社員が 「お金はかかりませんし、 600万人ぐらいの方には経営理念が目につく方法なら、 ラベルに印刷すればいいんです！」 と言いました。 瓶・パックの商標ラベル、 印刷コストはこれまでと一緒ですから、 みんなでそれはとてもいいアイデアだ、 早速やってみようという話になりました。

　それから３日後に役員会を開きました。 「先日の経営理念の顧客への浸透の方法ですが、 社長どうされますか？」 という社員の問いかけに、 私も、 暫く黙るわけです。 そして営業は 「社長、 あれ２年後ぐらいに入れませんか？」 と。 社会に貢献できる企業をめざすには２年かかるから、 ２年後ぐらいに入れたらどうかということです。 そしたら総務が 「社員を２年間待たせるんですか？社員の思いはどうなるんですか？」 ということになって、 「えらい事になってしもうたな」、 とみんなまたうなだれました。 しかし最終的には 「えい、 やー」 と勢いで入れたのです。 そうするとどうなるか。 飲んでいただいている方に 「社会に貢献する企業を目指す？嘘やん」 と言われたら困るので、 社員が変わったのです。
　 ＩＳＯの認証も取得しています。 環境に対する国際基準、 あれは社内だけで社外には関係ないのですね。 うちは、 アルコールを扱ってますから社内でたばこは吸えないんです。 ところがこれまで私を含め、 ヘビースモーカーがいっぱいいますから終業の合図がなるとみんな自転車に乗って、 門の外でペダルを２つぐらいこぐと、 とっさにたばこに火をつけ、 吸い殻は途中で捨ててたんですね。 でも、 地域の人たちはみんなうちの理念を知っていますから、 吸い殻を捨てられなくなってしまいました。 経営理念をお客様に浸透させるってそういうことなんですよね。 それまで経営理念は、 神棚にあったんですね。 毎日社員が経営理念をパンパンと拝んで商売していたわけです。 お客様に公開して初めて、 経営理念通りの会社にしたいと思ったのです。

本当のお客様とは？

　 それまで、 お客様という概念が非常にいい加減な会社でした。 CS （customer satisfaction､ consumer satisfaction） と呼ばれます。 つまり、 お客様満足。 私の会社のグループ討論の第一回目のテーマは 「あなたにとって、 お客様はどなたですか？」 だったんです。 ２時間半やっても結論は出なかったんですよ。 みんな、 それぞれ違うんですよ、 お客様が。 例えば、 卸を担当する社員は、 “問屋の仕入れ担当者”とか“営業本部”って言うんです。 扱ってもらえるかどうかは営業本部が決めるんで、 私にとっては一番の客です。 スーパーの担当にとっては、 “バイヤー”です。 年末年始の最盛期にスーパーの“エンド”という一番売れるコーナーにうちの商品を並べる。 そのエンドを取れなければ、 前年対比マイナスです。 飲食店の担当は“居酒屋の店主”と言います。 「ええっ」 と驚きましたね、 これらをみんなＣ（customer） と括っていたのですよ。 それらをみんな満足させる方法ってありますか？ないですよ、 だって利害がみな相反する人ですから。 それをうちの会社は全部Ｃだと思って、 今までやってきたんですね。 “ＣＳを上げましょう”、 そのＣが違うんです、 どうやって上げるんですか？この議論は変だと気が付いて初めて、 「飲んでくれる一人ひとりのお客様」 が一番大事だと分かったんです。 ２時間半の議論を大事にすることで、 社員はやっと納得できたのです。
　 そこで、 ＣＳががらっと変わり、 クレームが激減したんです。 現在、 年間で１升瓶に換算して600万本を製造しています。 100本のクレームがあるとすると、 クレーム率は６万分の１と考えられます。 これがクレーム率です。 でも、 なんの意味も無いということがお解りになったでしょう。 だってお客様は個々の消費者ですから、 買う人は全部一人１本、 クレーム率は１分の１です。 100本あるということは１分の１の人が100人いるということ、 その人たちは二度とその商品を買いません。 ＣＳで個々のお客様のことが大事だと解ると、 クレーム数になります。 クレーム数は限りなくゼロにしなければならないでしょう。 たとえ１億分の１でもそこにクレームをもった人がいるわけですから。 クレームに対する考えが激変したのです。

顧客満足 ＝ 社員満足

　 もう一つ大切なことがあります。 社員とのパートナーシップです。 一緒に働いてくれる社員たちがどう満足してくれているか、 “社員満足”です。 社員の満足度を上げようと社員満足度調査をやりました。 こういうアンケートです。 「あなたが入社して一番うれしかったことはなんですか？あなたが入社してから一番つらかったことはなんですか？」 この二つだけです。 年に一つずつうれしいことを増やして、 つらかったことを減らせば、 みんな幸せですから。
　 色々なことが書いてありますよね。 「海外旅行に行けること」、 「給料が意外に高い」 …。 書き方は違うけれど内容は同じというのが２、 ３割あるんです。 うれしかったことには、 「全然知らない人の会話を聞いていて、 “今日の宴会は宮の雪だわ、 あれ高いけど美味いなあ”それを聞いた時、 一番うれしかったです」。 一番つらかったことは、 ほぼ一緒でした。 「クレームの処理に行って、 “こんな酒を使ってたら潰れるぞ”と言って、 塩をまかれました。 会社に帰るまで車の中で涙が止まりませんでした」。 「ああこれなんやな」 と思いましたね。 私たちの会社は顧客満足度の追求をしながら、 一方で社員満足度も上げようとしています。 「給料が高い、 休みが多い」 これも大事ですけれど、 究極の社員満足度は、 お客様が喜んでいる時、 お客様がうれしい時に、 本当にうれしいなと思う社員が何人いるかです。 お客様が喜んでいただいている時が一番うれしいと社員満足度が上がる、 それによって、 地域に貢献することもうれしいと思う。 最後はみんな一緒なんだ。 ということが、 最近、 本当に分かってまいりました。

同友会の広報活動とは？

　 同友会は、 「中小企業憲章」 を提唱しています。 その運動を始めています。 同友会の広報活動ってなんですか？本当の意味で同友会の広報は、 我々の経営です。 同友会に入っている会員の経営をみて、 あの人が入ってるの？となります。 我々の仕事、 経営、 それが最大の対外広報なんですよ。 それなくして、 いくらマスコミに取り上げられても意味がないのです。 経営指針を創って、 労使見解に基づき、 パートナーシップをつくって、 持続的に経営を維持発展していくということです。 ご静聴ありがとうございました。
（※文責は同友会事務局にあります）

■第33回定時総会記念講演