気仙沼本吉支部例会

「沿岸地場企業の奮闘」

〜 企業文化の確立で地域社会に貢献 〜

    
(株)マイヤ 社長 米 谷 春 夫 氏


 (株)マイヤは岩手県大船渡市に本社を置く地域密着型のスーパーマーケットです。 平成12年には県都の盛岡にも進出し、 沿岸地域からの進出店として新鮮な魚介類、 前沢牛などの地場産品を充実させた品揃えと、 社長自身が大切にしている 「人材育成」 で多くの支持を受けています。 参加者90名の熱気に包まれるなか語られた米谷社長のお話は、 まさに同友会がめざす企業経営の姿であり、 大きく深い気づきと感動が生まれた素晴らしい報告でした。 以下抜粋して掲載します。

三つの創業期を経て

 わが社は昭和36年に私の父が 「主婦の店大船渡店」 という店名で創業しました。 それ以前は 「マイヤ精麦」 という岩手県南一面に麦をつくって卸す商売をしていましたが、 米が食べられるようになると麦はだんだん売れなくなり、 私の父は 「このままでは4人の子どもを上の学校に進めることは出来ない。 新しいビジネスを始めなければならない」 と毎晩悩んだそうです。 そこでたまたま気仙沼市内をさまよっていたときに、 セルフサービスの今までにない商売をやっている繁盛店を見つけて、 そこの社長さんに教えを乞うて創業した経緯があります。
  私どもが 「第二次創業期」 と位置づけている時期は昭和54〜56年です。 なぜなら、 「いずれこの地域にも大型店の時代が来るだろう」 と、 大船渡に5階建て大型店をつくったのが昭和54年だったからです。 当時、 社員は150人くらいしかいませんでしたが、 今までやったことのなかったレストラン・スポーツ・レジャー・家電製品などを手がけるにあたり全くノウハウがなかったので、 新たに幹部候補生募集を行いました。 スカウトも含め、 地元出身で大手に勤めていた100人の中途社員が集まって、 社員数は一気に250人に膨れ上がったので、 ずっと培ってきた社風や企業文化が崩れてしまう不安がありました。 父はそれを一番恐れて、 「この社風を継承させていかなければならない。 その担当は俺がやるからお前は実務の方だけやりなさい」 ということで取り組みました。 父は岩手師範学校 (現岩手大学) を卒業後、 海軍に招集され、 江田島の体育学校の教官を務めた猛者でした。
  まずは 「時間厳守」 と異常なくらい時間に厳しい男でした。 守れないと血相を変えて叱り飛ばす男でした。 それから、 「はい」 と返事したらてきぱきと動く 「迅速な行動」。 そして不遇なときやへこたれそうなとき、 挫けずに 「何くそ」 という気持ちでやろうという 「根性発揮」。 父がいつも社員に言っていたのはこの三つです。
  もう一つは、 それまでの父のワンマン経営から組織経営に変えていこうということです。 父は自分にそれが出来ないことを分かっていたので 「もう俺の時代ではない。 お前がやりなさい」 ということで、 実務には一切口を出さなくなり、 専務であった私を中心とした組織経営に変え ていきました。 また、 「汗力経営」 「精神力経営」 から 「科学的経営=データや数字を元にした経営」 をしたのも一つの大きな転換期でした。
  第三次創業期は、 今から14年前の創業30周年、 私が社長になった年です。 それが家業から企業への転換期でもありました。 役員であった妻と母と祖父を役員から外し、 新たに社員から6人を役員登用しました。 同時に、 100%米谷家の株だったのを、 社員にも株を持たせようと社員持株会をつくりました。 さらに東京中小企業投資育成株式会社という半官半民のベンチャーキャピタルに株を持っていただきました。 この低金利の時代にあってずっと一割配当はしていますし、 5年に1度は記念配当で2割くらいは配当しているので、 社員には喜んでもらっています。

みんなが誇れる店を目指しての大決断

 以前、 釜石市にあった7店舗の店を引き受けたことがありますが、 現在残っているお店は2店舗だけです。 駐車場がない、 建物も古くて汚い、 社員にいくら 「頑張れ!」 と言っても誇りは持てませんしモチベーションも上がらなかったからです。
  釜石市の先の大槌町というところに 「シーサイドタウンマスト」 という地元主導型ショッピングセンターがあります。 何社か候補があった中で、 最終的に私どもが核店舗に入りました。 それを期に浜町店をスクラップしたのです。 地元新聞のトップ記事に閉鎖のことが載ったときは 「恥ずかしいな」 という気持ちもありました。 でも 「シーサイドタウンマスト」 なら間違いなくみんなが誇りを持てるだろう。 私は後にも先にも人生の中で一番迷ったのがこの決断でした。 地元の方は八百屋や魚屋をしている方だけで、 スーパーマーケットやショッピングセンターの経験がまるでなかったのです。 また、 コンサルタントは私が出店を決めたときに、 「私がマイヤに指導していながら出店が失敗したら、 『何だ!あのコンサルタントは』 と言われてしまうので指導から手を引きます」 と言って離れていきました。 すべての役員も、 特に父と一緒にやってきた私が頼りにしていた常務までも猛反対だったのです。 父は 「専務のお前に任せる」 の一言でした。 夜も眠れないくらい考えた末に 「勝負をかけよう!」 ということで出店したのです。 運が良かったのか現在その店が幸いにもうちの主要店舗になってます。 また、 結果として釜石の社員の士気も上がって労働組合もなくなり信頼関係が生まれました。

健全な組織の5つの条件

 健全な組織の5つの条件にこだわって経営をやっています。
  一つ目は 「ガラス張り経営」 です。 毎月の会議では、 先月までの決算書を全部オープンにしていますし私の月次の行動スケジュールも全部オープンです。
  二つ目は 「人間性の尊重」 です。 今私が息子に言っているのは 「勉強もいいがそれ以上にうちの社員と飲んで遊びなさい。 みんなと交ざり合うことを優先しなさい」 ということです。 経営者も社員も人間対人間ですから、 そこで胸襟を開いて語り合い絆を深めることです。 仕事を通じて絆を深めるということはもちろんですが、 毎日の生活の中で絆を深めていくことが重要だと思います。
  三つ目は 「現場第一主義」 です。 言うのは簡単ですがやることは難しくなかなか浸透しません。 現場と本部のギャップはかなりあります。 必ず現場で確認するということです。 面白いことに、 店長とばかりでなく現場で働いているパートさんに 「最近どう?」 と声をかけるとパパッと答えてくれる。 その情報が何にも代え難いのです。 現場の事実や現場の本音を引き出すことが重要だと思います。
  四つ目は、 「明確な目標を持つ」 ということです。 わが社では 「精神的、 抽象的表現でなく数値化しよう」 と具体的な数字で全ての計画をするように言い続けています。
  五つ目は、 「積極的な改革」 です。 3年くらい前に、 わが社の役員会でそれまでチーフしかやっていなかった発注をパートを含めて全員ですることを提案しました。 精度の高い発注をすることは大変重要な仕事です。 役員の中からは 「社長、 それは無理でしょう。 パートにそんな責任を押しつけたら、 『お金欲しくて暇な時間に働きに来ているのにそんなの嫌だ』 と辞める人が続出しますよ」 という話が出ました。 私は 「金が全てではないはずだ。 仕事の喜びを覚えたら、 時間給がいくらかなんてことは忘れて没頭するはずだ。 自分が注文したものが売れる。 自分のやったこと考えたことがお客様に受け入れられるということは何事にも代え難い喜びのはずだ。」 と話し実行しました。 確かに辞めた人も何人かはいましたがモチベーションは確実に上がりました。 自分が発注したものが売れると嬉しいし一生懸命工夫をしてくれます。 これが本当の意味での全員経営ではないかと思っております。 今わが社は総従業員数800人のうちパートが70%ですから、 いかにして戦力にするかが課題です。 私が見本にしているある大手のスーパーでもずっと以前にパートに発注を任せたのだそうです。 それが嫌で辞めた人もいたそうですが、 最後はやる気のあるパートだけ残ったということでした。

3人の人間を持つ

 今から20年くらい前に、 伊藤肇という陽明学者が書いた 「伊藤肇の帝王学」 という本に感銘を受け、 つねづね心がけていることがあります。 「トップの人間は3人の人間を持て」 ということです。
  一つ目は 「原理原則を教えてくれる師を持て」 ということ。 経営の原理原則があります。 スーパーマーケットの原理原則があります。 いろんな原理原則があるわけで、 私も原理原則を教えてくれる方々を尊敬してやってきました。
  二つ目は 「良き幕賓 (バクヒン) を持ちなさい」 ということ。 直接会社に関係なくても、 ちょっと離れたところからアドバイスや叱咤激励をしてくれるような方です。 遠慮なくものを言ってくれる仲間をどれだけ持てるかだと思います。
  三つ目は 「直言できる側近を持ちなさい」 ということ。 社長の顔色を見て全てイエスとばかりをいう側近ではなくて、 はっきりと直言してくれる側近です。 社長がリーダーシップを発揮しようとすると、 どうしても声を大きくしたり顔色を変えたりしなければならないときもある。 そうすると周りが気を使ってイエスという傾向がわが社でもあります。 私は役員の中に最年少の人間を常務として入れました。 憎たらしいくらいはっきりものを言ってくれますし私が弱い財務にも強い人間でうまくフォローしてくれます。 やはり社員一人ひとりにはっきりと意見を言わせることが大切だと思います。
(※文責は同友会事務局にあります)

<(株)マイヤ 経営理念>
一. 会社の発展と個人の幸せの一致を実現する。
一. 私たちの進歩向上によって、 地域社会の豊かな生活文化に貢献する。
一. 信頼され誇りの持てる企業文化を確立する。


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