2005 経営研究集会 第5分科会報告
「地域に愛され必要とされる店づくり」
〜 社員の成長を第一に考えた経営を信条に 〜

         
    
(株) クーロンヌジャポン  社長 田島 浩太氏 (千葉同友会)


自信や夢がなかった少年時代
  〜 パン屋との出会い
 

  私は昔からパン屋になりたいと思っていたわけではありません。 父親は会社員で商売っ気が全然ない家庭で育ちました。 小学校中学校とあまり得意なこともなく、 自分自身誇れるものは一切ありませんでした。 大学に入ったもののうまく進まず、 学校給食のパン屋を営んでいる伯父のところへアルバイトに行くようになりました。 跡取りがいないということで、 「お前、 ここの跡を取れ!」 「お金が貯まるぞ!」 と甘い言葉をかけてくれ、 私もやりたいことも夢もなかったので、 すぐ両親に相談したら 「やってみたら」 ということで、 「それじゃやろう!」 とパン屋の道に入りました。
  修業に入り、 初めて社会というものに出ました。 大勢の社員さんとパートさんに囲まれて、 僕は一番若手の社員として始まりました。 今考えるととても簡単な仕事ですが、 一つひとつできるようになる過程のなかで、 母親くらいの年齢の大勢のパートさんが、 すごく誉めてくれたのです。 あまり誉められて育ってこなかったですし、 自信がなく不安でしたから、 そのように誉められることがとても自分自身のやりがいになりました。  
  パン屋というのは、 確かに給料は安く仕事はキツいのですが、 パンの作り方など覚えていく仕事が限りなくあって、 常にチャレンジができる、 社員さんやパートさんも誉めてくれるという環境のなかで一度もパン屋を辞めたいと思ったことはありませんでした。 それどころか、 自分の可能性がパァーっと開けたような気がします。 「自分もまんざらでもないな」 「この仕事で努力すればいろんなことに挑戦できる可能性があるな」 と感じました。 社会に出て初めて、 周りの環境が私にとって自分自身の価値を見出せる環境だったということはとても良かったと思っています。


お客様が求めていることは何か?

  独立したとき 「お客様に喜ばれる必要とされるお店づくりをしていきたい」 ということを一番に考えていました。 きちんと潰れずにやっていけるか不安だったので、 一度 「パン屋」 という業界の常識をすべてはずして戦略を考えることが必要だなと思いました。
  まず開店時間ですが、 その当時で職人さんは4〜6時くらいに来るというのが一般的で、 開店時間は早くても9時、 だいたいのところは10時くらいでした。 私は危機感があったので 「そんな時間でいいのか?もっと必要とされる時間があるのではないか?」 と考えて、 開店時間を朝食に間に合う時間にしようと思いました。 お店があるところは東京への通勤圏で、 東京まで1時間半くらいかかるので、 6時もしくは6時半に家を出るというのがだいたいのケースだったので、 6時半に開店するようにしたら、 結果的に旦那さんの出勤には間に合わないのですが、 旦那さんを車で送り出した後に奥様がパンを買って、 こどもに食べさせて帰るというような形で地域の方々に受け入れられました。
  販売の人が来ないわけで製造の人がレジをやらざるを得ません。 そのことによって自分がつくったパンを受け渡すという機会ができたのは製造の人にとっても大きいことで、 100個つくれば1〜2個の失敗は大したことではないと思いがちですが、 売る立場になるとその1個を売ってしまう後ろめたさがあるわけです。 また特定のお客様が来店しますから、 いろんな話をしていくのです。 そういったお客様との付き合いもできたというのは良かったと思います。

お叱りハガキでお客様と心の会話

  年数を重ねてきて行き詰まりを感じたときに一番困っていたのは 「販売の接客態度」 です。 私は販売の経験がなく、 うまく指導できずにいましたが、 「どうも雰囲気がよくないな」 と悩んでいたとき 「お叱りハガキ」 という取り組みをしました。 レストランなどではアンケートのような形でやられていますが、 「お叱りハガキ」 という題名は初めてで、 ある勉強会でタイムリーに知ったものですからさっそくやることに決めました。
  このことを提案する前に、 従業員一人ひとりに名札をつけてもらっていたので、 「私たちを槍玉にあげようとしているんだろう!」 と猛反発にあいましたが、 「何とかお願いします」 ということで始まりました。
  第1回目にやったら案の定多くのお叱りをいただきました。 「パンは美味しい」 ということなのですが、 「パン屋なのに態度が冷たい。 もっとホンワカした態度でやってください」 とか 「待たせすぎる」 というようなご意見をいただきました。 販売の人たちと話し合い、 ほとんどの方が住所も書いてくれていたので、 「返事をきちんと出そう」 ということになって全ての方にお送りしました。 それから販売の人たちの態度が一気に変わりました。 自分で書いた以上はそのままのわけにはいかないわけで、 それで私の不安はすべて解決しました。 もしかしたらそのときにパンやクッキーを配るのもよかったのかもしれませんが、 お客様が本当に求めているのは 「改善してほしい」 ということなので、 そこをしっかり取り組もうということになりました。


家族みんなで気持ちよくご来店してほしいから

  コーヒーのサービスも行っています。 これはもう今では全国的にも行われていますが、 10年前はほとんどなかったサービスです。
  当時私は、 ガソリンスタンドで洗車中に待合室のなかで雑誌を読みながらコーヒーを飲む時間がとても好きでした。 ところが、 ある日そのサービスをやめてしまったのです。 僕はそこのスタンドに来る理由がなくなってしまったので、 同じお店をやっている人間としてこれはやってみようと思ったのです。
  私が気になったのは、 旦那さんと奥さんで買い物に来て、 旦那さんは車に残っているか外でタバコを吸っていて、 店に入ってくるというケースはあまりないことでした。 お店をやっている以上は、 家族みんなが行きたいと思うような店づくりをしていきたいと、 さっそくコーヒー豆屋さんに 「私たちは無料でお客さんにコーヒーを出したい」 と言ったら、 「それはいい話だ。 私たちも協賛します」 と破格の値段でコーヒー豆を出してくれました。 機械もそのコーヒー豆屋さんが協力してくれました。 そのうちに、 そのコーヒー豆を販売するのもいいのではと思い、 必要なグラム単位で値段を設定し、 挽きたてを2割だけ仕入れ値にプラスさせていただいてお客さんに提供しましたら、 とても喜ばれました。 無料でお出ししているので古い在庫はなく常に新しい豆なわけです。 グラム単位でどこよりも安く買えて、 試飲はいくらでも出来ます。 このコーヒーの売り上げも好調で、 うちで負担しようと思っていたサービス分が埋まるようになりました。 それから、 大人だけでなくこどもさんにも何かできないかということで、 ディスペンサーを用意してジュースを飲んでもらうことにしました。
  従業員にとっても、 パンの焼き上がりまで待ってもらうときに 「すいません」 と言うしかないなかで、 「コーヒーでも飲んでお待ちください」 と一言添えるきっかけができたり、 気が利く人になるとコーヒーを入れてお客さんにさしあげたりとサービスのしやすい環境をつくるということにもつながりました。

地域とのつながりと人材を育む
「こどもパン教室」


  「こどもパン教室」 という取り組みを続けています。 父の日や母の日に何かイベントのようなものはできないかと、 福笑いのようにパンのパーツを作ってあげて、 それを組み合わせてお父さんやお母さんの顔を作るのです。 その後に膨らませて、 焼いて包装して手渡すのですが、 会場のお店の2階の狭い休憩室の床が抜けてしまうのではと思うほど盛況で、 お父さんお母さんは一生懸命ビデオを撮りながら、 そしてこどもたちもかわいいエプロン姿でやってくるのです。
これに関しては、 お金をいただくということも大切かなと思いました。 無料であればどんな形でも喜んでもらえますが、 それだと私たちの努力が欠けてしまうので、 利益を上げるためではなく、 きちんとお金をいただきながらどう喜んでいただくかを考えました。
  最初の頃は私が中心になって行いました。 私もまだ駆け出しだったので 「先生」 と呼ばれる機会もないし、 そう呼ばれるような人間ではないと思っていましたが、 意外にこどもたちが 「先生、 先生」 と呼んでくれて、 ものすごく気持ちがいいのです (笑)。 「これはいい!ずっとやっていこう」 と思っていたら、 今店長をやっているサポート役の男性社員がとてもやりたそうな顔をしていました (笑)。 「次回はどうしようか?」 と話したら、 「僕にやらせてください!」 と言うので、 「じゃあ、 やってみたら」 ということで始めたら僕なんかよりもずっと上手だったので、 サポート役と合わせてみんなで順番にやっていくことになりました。 こうしたなかで従業員の違う一面を見ることができます。 生き生きと楽しそうにやっていますし、 現場に帰ってきてからが大きく違います。 現場では注意されたり指示されたりばかりの人が、 自分の仕事に対するプライドや価値がよく分かるようになり、 現場に帰ってもその勢いが持続するようになりました。
  「どうしたら売り上げが上がるか?儲けられるか?」 でなく 「お客様は何を求めているか?どうしたら喜ばれるか?」 ということを基本に経営することが大切だと思います。 トップが金儲けを考えれば、 従業員もただの手段、 こうやればOKということだけで考えますから、 同じことをやっていても気持ちが入ってなかったり、 一言が足りなかったりという小さなことで結果が大きく変わってくると私は思います。


第5分科会に参加した方からの感想

田島社長のお話を聞いて、 すごく我が社の生き方に似ていると感じました。 また、 自分が足りないことなどにも気づかされたと思い、 参加して良かったと思いました。
((株)春・東北 阿部 正 社員)

改めて、 素直さ、 人間力が大切なんだなと思いました。 物事の本質をとらえて行動しなければいけない、 相手の立場、 お客様対社員を考えて、 本気でしなければと思いました。
((有)北の一チェーン 西田尚徳 社員)

商売としての基本的な考え方を改めて学ぶことができました。 頭で分かっていても具体的な行動ができていない現状を考え、 少しずつ実践、 継続していくことが鍵となると思います。
((株)ホットマン 畠山 修 社員)

あまり参加してなかったのですが、 今回の5分科会の田島社長に興味があり、 手創文化産業が自分の会社も同じような気がいたしました。 すばらしい講演と人間味あふれる社長に感激いたしました。 とても楽しく学ばせていただきました。
((有)ジェンヌ 桔梗昭子 経営者)

お客様第一主義の大切さを改めて感じました。 まさに 「君がいるから」 お客様がこの店に来るというのは社員第一主義とも言えると思いました。
((有)工藤商会 工藤昭彦 経営者)


■中小企業が主役の日本を

 

■「苦境から生まれた大ヒット商品」

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