2005 経営研究集会 記念講演
中小企業が主役の日本を
〜 中小企業の発展なくして地域の活性化なし 〜


(株)エステム 会長 鋤柄 修氏

◆ 「労使見解」 の精神を基本に

  私も同友会に入会して25年になります。 60歳を過ぎましたが、 我々中小企業家のように、 自分の人生の全てを経営にぶつけるということは、 ちょっと他人にはまねのできない領域だと思うんです。 だから、 中小企業の経営者として誇りを持っているのです。
  1984年、 私は、 岐阜県で開催された中小企業労使問題全国交流会に参加しました。 若かりし赤石会長から労使見解の話を伺ったのです。 赤石さんの講演は 「経営理念は大切だけど経営理念でメシは食えない…」 と、 禅問答のように終わりました。 それから愛知に戻ってその時に覚えた労使見解を、 労務労働委員会に入って勉強し始めたんです。 「経営者である以上、 いかに環境が厳しくとも時代の変化に対応し、 経営を維持し発展させる責任がある」、 維持し継続するだけではなく発展させなければならないと。 例えば、 監督と選手9人の野球チームがあったら、 一人でも来ないと試合に出られないから選手を甘やかしちゃうんですよね。 すると、 参加はするけれども出ると負けるチームになってしまう。 たとえ社員が半分になっても生産量が4倍になったとか、 支店を一つ出して支店長を一人つくったとかね。 そういう会社が発展していくんじゃないんですか。 これが経営者の実践する姿でしょう。 社員と縁があって一緒に仕事をする立場になったら、 その能力を引き出す舞台を作ってやらなきゃならん。 社員が成長してきたら舞台もどんどん大きくしてやらなきゃならん、 それがトップの仕事だなということをしみじみと自覚していったわけですよ。 それは経営指針の最初に、 どういう会社にするんだという目標を作って、 それを追求していくことです。 社員と共に発展するという姿をエステムもめざしています。

◆ 同友会で学ぶ意義とリーダーの役割

  トップリーダーの役割は、 目標を定めたら意志を固めてみんなを引っ張っていかなければならんということ、 それを同友会に来て学ばなければならない。 同友会は同友会、 会社は会社、 これでは同友会と会社の経営が表裏一体とは言えません。
  私は愛知同友会の代表理事を10年間務めました。 その間1999年に 「99年ビジョン」、 2005年に 「2010年ビジョン」 を作りました。 一つは同友会の3つの目的の良い会社をつくって良い経営者になろうを同時にめざす姿として、 「自立型企業」 になろうという旗印を掲げました。 もう一つは経営環境を良くしようということを 「地域と共に歩む中小企業」 と、 旗印を2本立てたんです。 愛知同友会は、 車の両輪を目指すための目標を作りました。 自立型企業は分かり易いですよね。 でも、 地域と共に歩む同友会なんて分からんというわけです。 大体そうなんです。 理念があっても方針があっても、 何をやっていいのか分からないのですよ。 だから計画やアクションプランという、 何時までに誰が具体的に何をやるかというところまで具体的に落とし込んでいかなければ分からないんです。 そこが愛知も欠落していたので、 ビジョンは掲げても一体何をやるのか、 分からなかった。
  そこに降って湧いたのが例の金融問題ですよ。 あの当時、 「貸し渋り、 貸し剥がし」 なんてありましたね。 不良債権処理と銀行の自己資本比率を上げるために、 そういうことが全国に蔓延していたんです。 愛知でも立教大学の山口義行先生からそういうことが問題提起されました。 理事会でこれを問題にするかしないか議論するわけです。 私は 「地域経済を良くするために、 私たちがこの地域でリーダーシップをとってやろうじゃないか。 なにより我々は学習をして企業家の中に語り部として入って行こう」 と。 理事会で議論が分かれましたけど、 私が最後にやると決めました。 そしたら署名運動は、 10万名の目標を上回る13万名を集めました。 これが経営の醍醐味じゃないですか。 そして愛知は13万人集めたと全国で発表すると、 愛知の会員は自分たちがやったんだと、 金融アセスメントオール賛成派になっちゃった。 だからリーダーが必要なんです。 組織はそういうものなんです。 方向性だけはきっちり定めてリーダーが導くということを身につけて、 自分の会社で実践していく、 それが同友会の組織じゃないですか。



◆ 地域に学び、 地域に生き、
地域を創る中小企業をめざして


  また、 2002年にはヨーロッパを視察に行きました。 我々は成熟社会を見に行くということで敢えてEUの中でも小さなオランダとベルギーに行ったんです。 そこで、 「ヨーロッパ小企業憲章」 に出会うんです。 向こうに行くと、 中小企業の経営者がとても勉強しているし、 地域のことを真剣に考えているんです。 ヨーロッパでは商工会議所が伝統もあるし、 オフィシャルな組織なんです。 企業を起こすには商工会議所の会員にならなければ起こせないし、 銀行口座も開けないぐらい商工会議所が力をもっているんですね。 そして会員たちが自分たちでお金を出して勉強会をやっているんです。 なんだ、 日本の同友会と同じじゃないか。 EU全体をどうしていくかということを、 中小企業のおやじさんたちが (まあ向こうは女性経営者がたくさんおりますが) 真剣に議論している。 これだなと、 成熟社会はこうなってくるんだな。 やっぱり勉強して知恵を高め、 教養を深めて総合的な能力を身につけること。 そしたら10年先どういう地域にしていくかということを考えられる経営者になっているんですよ。 ああそうだよ、 我々同友会も経営環境を良くしようと。
  そういうことを学んで帰って、 2003年の福岡の全国総会から勉強が始まりました。 21世紀の日本経済を考えてみますと、 今、 日本はアメリカ型のどちらかというと市場経済優先で、 大企業が引っ張っていくようなスタイルです。 愛知は、 それが顕著な地域です。 自動車産業が力を誇っていましてね、 三角形ができている。 その三角形に入っていれば、 まず間違いないなんてことはいつまでも続かないですよという話をしました。 日本全国にそういうスタイルの企業城下町があったわけでしょう。 この大企業のやり方だけではよくないことは、 もうお分かりでしょう。 “焼き畑農業”ならぬ“焼き畑商法”というのは、 数年間だけお客を集めて、 はい、 さようならなんですよね。 こんなことでは地域は崩壊してしまうんじゃないですか。 地域の活性化をする主役は誰かといえば、 そこから離れることができない中小企業じゃないですか。 しかもそこには、 全ての消費生活者が暮らしているわけでしょう。 生活に直結した仕事が一番得意なのは、 中小企業じゃないですか。 私は大企業と競争しているのではない、 大企業もなかったら困るんですよ。 便利な物を安く提供する大企業も大切ですよ。 ただそれだけで生活ができるかというと、 そうじゃないでしょう。 高齢化社会で老人が増えると手間暇がかかるんですよ。 高齢化社会というと、 マイナスのイメージですけど、 世界一の長寿国ですよ。 日本の社会は、 お互いに助け合ってなんとかしようという社会ではないですか。 その社会を守るのは、 我々中小企業家ですよ。 中小企業は、 地域社会の舞台の中心に存在しているんですよ。 勉強して地域社会に提案できる中小企業、 そして同友会にならないと。
  だから、 学習運動なんです。 これから、 中小企業憲章の大学習会運動を始める時に留意することを述べますね。 我々は経営者ですからね、 学校で勉強する訳じゃないですから、 教材は自分の会社にあるんですよ。 自社の現状と自社の業界を考え、 自社の発展を阻害している要因は何か、 内部的要因と外部的要因を全部洗い出して、 それから地域の社会状況がどうなっているかを分析するんです。 私は初めて行ったところでは人口を必ず聞くんですよ。 我が社は、 お客様第一主義ですから人口を聞くのは当たり前でしょう。 日本の人口が減ってきたから大騒ぎになってるんでしょう、 消費者の数が減るということで。 人口を知るということは、 地域の足下を調べて、 何が欠けているかということを勉強するわけですね。 そうするとほとんどの自治体には 「中小企業振興基本条例」 がないんですよ。 そこから学習を始めていただきたいと思うんです。
  最後に、 ケネディの言葉を皆さんにご紹介して終わりたいと思います。 「ものをなくすと小さな物を失う、 信用をなくすと大きな物をなくす、 勇気をなくすと全てを失う」 なるほどなと思います。 勇気があれば何でもできますよ。 我々も 「中小企業憲章」 をつくるんですが、 皆さん一人ひとりが、 まず自分の会社のこと地域のことを真剣に考えて、 勇気をもって行動を起こそうじゃありませんか。 そのうねりがだんだん大きなものになってきて最終的には歴史の1ページに、 中小企業家同友会が中小企業憲章づくりの発端の運動を展開したと、 歴史が証明してくれる、 ということを申し上げて終わりたいと思います。
 

 




■中小企業が主役の日本を

 

■「苦境から生まれた大ヒット商品」

■「地域に愛され必要とされる店づくり」